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第六話 魔女の後継者

 魔女の後継者


 客室で休んでもらっていたエリスたちを食堂に呼び、夕食の時間となった。

 兵士たちには、すでに夕食を配給してある。


「森の中で、これだけの料理を頂けるとは思わなかった。ユウキ殿、感謝する。ぜひ、私の事はエリスと呼んでほしい。家名で呼ばれることには慣れていないんだ」

「わかりました。エリス殿と呼ばせて頂きましょう」

「それと、改めてこの二人を紹介させてほしい。我が家の騎士のルドルフ・アルハインとイワン・マックスだ。彼らも名前で呼んでやってほしい」

「ルドルフ殿、イワン殿、改めてよろしくお願いします」

「ルドルフと申します。我らの危機をお救い頂き心から感謝しております」

「イワンと申します。助けていただいた上に、温かい食事、本当にありがとうございます」

「できることをしているだけですので、遠慮せず、頂きましょう」


 そうして、夕食が始まった。

 献立は、具だくさんのウサギ肉のクリームシチュー、薬草のサラダ、パンとなっている。

 ちなみに、ウサギ肉は、私がこの森に来た当初、やたらと素早い角のあるウサギと感じたホーンラビットだ。

 今では、出会ったなら、すぐに食料に変化してしまう気の毒な魔物となっている。


「このクリームシチューは今まで食べたことのない味だ。絶品だな」

「お口に合って良かったです。おかわりもありますのでどうぞ」


 このクリームシチューには、日本の固形ルーを使っているので、こちらの世界のクリームシチューとは、一味違う味になっているのだろうな。

 それから、エリスたちは、シチューのおかわりを二度してデザートの時間となった。

 エリスたちには、普通のアップルパイ、私には世界樹の実のパイとなる。


 紅茶を飲みながら、パイを頂いていると、エリスが、今まで気になっていたと思われる疑問をいよいよ口にした。


「この屋敷、敷地内の施設、それに結界、さらに初めて見るゴーレムたち、ユウキ殿は、本当に森の魔女殿ではないのか?」

「屋敷や敷地内にある物は、見慣れない物も多いかもしれませんが、魔道具の一種ですね。結界は、結界石を使っています。ゴーレムたちは、何といいますか研究の成果となります」


 説明が難しいことは、適当な出任せを言うしかないのは、心苦しいが、こういうしかないんだよな。


「本当に森の魔女殿ではないと言うのか?」


 うーん、エリスの様子は、疑心と言うよりも、困惑といった様子に見える。


「私が森の魔女でなければ、何か問題があるのでしょうか?」

「実は、王家と我が北方辺境伯家にだけ、伝わる森の魔女殿との契約があるのだ」


 騎士の二人が、席を立ち食堂から出て行った。

 しっかりパイと紅茶は手に持って行くようなので、後でミナに器の回収を頼まなければな。

 それにしても、秘密の会話となるらしいが、初対面の私に何を話すつもりだろう?


「この森は、対外的には未開拓の森となっているのだが、契約では、森の魔女殿の住処であり、どこの国にも属さない魔女殿の領地となっているのだ」

「……そんな森だったのですか!」

「ああ、だからその森の中のこんな屋敷に住んでいるユウキ殿は、異常と言える。本来なら、魔女殿の警戒網に引っかかり、命がないはずなのだ」


 それから森の魔女のことと契約の内容を聞かされることになった。

 森の魔女とは、本で読んだ不死の魔女のことらしい。

 魔女は、強大な力をもっているために、権力者から目を付けられ続けていたそうだ。

 不死と言っても、物理的に縛ってしまえば、その力を十分に使うことは出来ないと権力者たちは思っていたそうで、戦略兵器として捕まえようとしていたらしい。

 だが、魔女は、にげてばかりでは、どうにもならないと自らを狙う権力者たちをその者が住む街ごと消し去り続けたという。

 そうして、畏怖される存在となった魔女は、どこか静かな場所で暮らしたいと、この森に住み着いたらしい。


 それから、長い時が経ち、フソウ王国が成立し、この森にも手を伸ばした。

 魔女は、この森は自らの領地だと主張し、一触即発の状態になった。

 だが、魔女の伝説を知っていた当時のフソウ王は、魔女と争うことは避け、森は魔女の領地とし、国として扱うとする契約をした。

 とは言っても、本当の意味での国民がいての国ではないので、森の入り口付近となる下層での狩りなどは、認めてもらい、中層には踏み入らないとの契約となっているとのことだった。

 ちなみに、この屋敷のある場所は、中層の入り口あたりになるそうだ。


 じゃあ、なぜ、私は、魔女と会ったことがないんだ?

 そもそも、そんな面倒な土地にエストナは、なぜ私を降ろしたんだ?


「お話の最中、横から失礼します。私はユウキ様に仕えるメイドのミナと申します。魔女殿は何か紋章や証となる物を使っていたりはしなかったのですか?」


 ミナには、私の転生にまつわる話をしてあるので、何か気が付いたのかもしれない。

 アンドロイドのミナだが、非科学的な転生などの話も、宗教的な解釈の一部としてなのか、すんなりと受け入れてくれている。


「ユウキ殿に心当たりがないだけで、知らない間に後継者になっている可能性があるとミナ殿は考えるのだな?」

「はい。冗談のような話ですが、私たちは、気が付いた時には、この森にいたのです。ですので、本当に魔女殿の存在を知らないのです」

「わかった。王家と魔女殿との間に交わされた契約書の写しが我が家に残されているのだ。その契約書にあった魔女殿の紋章を書き写して持って来ている。これがあれば魔女殿と話し合いができると考えたのだ」


 エリスは手帳を取り出し、そこに書き写した紋章を私とミナに見せてくれた。


 おいおいおい!

 この紋章、思い切り心当たりがある……。


 この世界に降り立った時、エストナが、持たせてくれたやたらと細工の細かいナイフを取り出す。

 ナイフの柄にある細工の中心に、魔女の紋章が刻まれていた。


「も、もしかして、このナイフが関係しているのですか?」

「ああ、ユウキ殿は、まず間違いなく、森の魔女殿の後継者となったのだな。このナイフは、どういう経緯で手に入れたのだ?」

「ミナの言う通りで、私たちは気が付いた時、突然、この場所にいたのです。その時にこのナイフを拾いました」

「魔女殿は、何らかの方法で、自らの後継者にふさわしい者とその従者を召喚したのだろう。その召喚の影響で、魔女殿は不死の力を失くし、消滅してしまったのかもしれないな」


 エリスの話を鵜呑みにするなら、エストナがこのナイフを持たせたことには、意味があったのだ。

 おそらく、不死の魔女は、不死ではなく不老だったのだろう。

 生きることに疲れ、自らの後継者を呼び出したのと同時に、消滅したという、エリスの推測は当たっているように感じる。

 エストナは、魔女の願いにこたえて、私を転生させたのだろうな。

 この広場に降り立った時、この広場の異常性に気が付くべきだったのだ。

 今思えば、起伏がほとんどなく、不自然すぎるほどに、円形に木々が広場を避けるように植わっていたのだ。

 エストナの粋な計らいで、良い場所に降ろしてくれたと思っていた自分の迂闊さを痛感してしまう。

 いや、この場所を選んだのは私のはずだ。

 考えたくはないが、思考誘導や洗脳すら受けていた可能性もあるのか。

 そもそも、女性体しか選べなかったこともおかしいのだ。

 何かしらの意味がなければそんなこと、神的存在のエストナがする必要がないのだ。

 なぜ魔女の後継者が男性ではいけなかったのかは、疑問を感じるが、魔女が何かを目的に後継者は女性にと願ったのかもしれない。


「ユウキ様、エリス様、もしかしたら、事態を確定させる何かがあるかもしれません。少しお付き合い、よろしいでしょうか?」

「ミナ、何かわかるのか?」

「はい、庭の岩にまで参りましょう」

「ミナ殿、ぜひ頼む」


 食堂から出て、光魔法のライトを灯し、周辺を良く見える状態にしてから、庭の岩に向かう。

 辺りは、夜の闇が広がっていて、夜空に浮かぶ星と月が良く見える。

 この世界の月は、地球とほぼ同じなのだが、ウサギは住んでいないようだ。


 庭にある岩の前に到着する。

 当初、トイレとしてこの周辺をつかっていた場所になるのだが、トイレだった場所に何かを作る気にならず、結局そのまま庭の一部となってしまった。


「こちらになります」


 北の岩の後ろ側、こちらはトイレとして使ったことがない場所だ。

 ミナが、岩と地面の間を少し掘ると、魔女の紋章が現れた。


「庭の手入れをしていたときに、この印を見つけたのですが、特に重要な物に思えなかったので報告をしておりませんでした。申し訳ありません」

「いや、報告をされていてもエリス殿の話を聞いていなければ重要視していなかったかもしれない。気にしないでくれ」

「ありがとうございます」


 さらに目印のある岩の前の土を掘り返していくと、厳重に封がされた箱が現れた。


「どう見ても、この中に何か重要な物が入っているのでしょうね」

「屋敷の中で作業を続けようか」


 屋敷に戻り、土で汚れた箱にキュアクリーンを掛けて浄化する。

 汚れが取れて箱の複雑な細工が良くわかる。

 いろいろと調べていると、厚めに作られている箱の部分にある金具をスライドすると、横に広い穴が現れた。


「ユウキ殿、先程のナイフをこの穴に差し込んでみてはどうだ?」

「確かにナイフの刃と同じくらいの大きさの穴ですね」


 エリスのアイディア通りに、ナイフの刃を、穴に差し込むと、カチッと音がして箱が開くようになった。


 中には、手紙と二つの印璽とメダルが入っていた。


 印璽を取り出し、エリスと確認する。

「こちらが印章となる印璽だな、こっちは封蝋に使う印璽だろう。このメダルは、輝きから見て、おそらくオリハルコン製のメダルで紋章の原板のようだ」

「印璽は、何となくわかります。メダルの素材となっている、そのオリハルコンとは、どんな金属なのですか?」

「オリハルコンは、このメダルの量でも、大金で欲しがる者が多い金属だな。オリハルコン製の武器なんて、余程に裕福な国でなければ宝物庫に入っていないほどの品と言ったらわかるか?」

「そちらもなんとなく理解しました。よほどの貴重品なのですね」

「ああ、そういうことだ。ところで、手紙の内容は、どんな様子だ?」


 手紙を開き、内容に目を通していく。


「簡単に要約すると、あのナイフを持ち、この手紙を読み、印璽とメダルを手にした者を、魔女の正式な後継者とする、と書いてありますね」

「王家との契約については何も書かれていないのだろうか?」

「残念ながら、契約に関する内容には、全く触れられていないですね」

「そうか。魔女殿にも何か考えがあったのだと思っておこう。それはともかくとして、ユウキ殿、魔女殿の正式な後継者として認められたのだな。本当におめでとう!」

「ありがとうございます。ですが、私は、魔女の後継者として、何かした方が良いのでしょうか?」

「まずは、今回の礼のこともあるし、一度、我が父にあってほしい。森の管理に自信がないのなら、いっそ、フソウ王国の貴族となって、領地の運営を王国に助けてもらうと言う手もあるぞ」


 貴族になりたいかと言えば、あまり興味はない。

 だが、文明の打破というエストナからの指名を遂行するなら、ある程度の身分は必要なのかもしれない。

 それに、森とは言え、領地の運営なんてできないし、北方辺境伯には会いに行った方が良いのだろうな。


「それと、魔女殿の本名は、ドロシア・ワルプルガと言う。ユウキ殿は、これからワルプルガを家名とするのが良いだろう」

「後継者にならなければ、この地に住めないようなので、ドロシア・ワルプルガの後継者として、ユウキ・ワルプルガになるしかないんでしょうね……」


 こうして、私は魔女の後継者となったのだった。


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[一言] さり気なく魔女を取り込んで森をフソウ国の物にしようとしてんね
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