第二話 そして降り立つ
そして降り立つ
鬱蒼とした森の中の合間にある広場、ここが俺が異世界エストのスタート地点に選んだ場所だ。
南に一日程度行くと森が終わり、さらに半日ほど行くと街があるらしい。
広場の端に岩があり、その方向が北になるそうだ。
なぜ、こんな場所を選んだのかと言うと、いつかは人々が住む街に行くとしてもしばらくの間、スローライフというやつを体験したかったからだ。
なんだかんだ言っても社会人としての経験で人付き合いに疲れてしまっている俺がいる。
せめて地球の感覚が抜けるまでは、のんびりとしたいと言う俺の希望をエストナがかなえてくれたわけだ。
その結果、サバイバル同然の状態からスタートすることになったが、それもまた一興だと思っている。
早速、異世界市場を開き、エストナと打ち合わせをした作業を始める。
サービスですでに五〇〇〇ポイント入れてくれているので、それを使って買い物をして行く。
目の前に浮かび上がった異世界市場のモニターを操作して検索に結界石と入力する。
異世界市場と言うだけあって、幾つもの世界の結界石が並んだ。
うーん、追加でエストと検索ワードを追加する。
そうすると四つの結界石が残った。
大中小に特大の四つで、小を購入する。
ポイントは一〇〇〇ポイントで清算すると俺の手の中に結界石が現れた。
これを広場の中心に埋めると地中の魔力を自然に吸い上げ始め、結界が張られて、広場の周辺直系一〇〇メートル程の範囲に結界内の者の許可がなければ入ることのできない安全地帯が出来あがる。
広場の中心に結界石を埋め終わると、広場の中の空気が何となく変わったのがわかった。
永遠に効果のある品ではないそうなのだが数年は、これで結界が保たれるそうだ。
異世界市場を再び開き、一〇ポイントずつチャージしていくと九〇ポイント入れたところで急激な疲労感を感じた。
エストナの説明によると、この状況は魔力欠乏の状態らしくおそらく俺の魔力は一〇〇ポイント相当らしいとわかる。
これも説明を受けているので間違いないだろう。
続いて落ちている石を一つつまんでモニターに当てると、石は吸い込まれ、一ポイントがチャージされたことが確認できた。
ここからは石拾いと草むしりの時間となる。
そうして五〇〇〇ポイントまでチャージをしたところで魔導師の心を検索する。
魔導師の心は、風魔法、水魔法、土魔法、火魔法に魔力感知と魔力操作のギフトが合わさったギフトでとても便利なギフトだ。
光魔法と闇魔法などは神官の心にあるそうなので、そちらも別の機会に獲得した方が良いだろう。
賢者の心や勇者の心などの強力なギフト以外のギフトを購入できることは、エストナに確認してあったので、これを購入する。
野球ボールほどの大きさの球が手のひらの上に現れ、しばらくすると俺の中に吸い込まれるのと同時に、今まで感じたことのなかった魔力の感覚を感じられるようになったのがわかる。
すぐに使いたいところだが、俺の魔力は、まだ回復していないのでもうしばらくポイント集めを続けよう。
ポイント集めを続けながら、このギフトの特異性を考える。
はっきり言ってぶっ壊れ性能のギフトだと思う。
エスト世界の品やギフトまで購入できることを知らせるのは、異世界市場を転移者が選んでからになるそうだ。
その詳細は、エストナから口頭で説明されるそうで、この異世界市場を選ぶ転生者が今までいなかったので、誰にも開示していない情報らしい。
なぜ、こんなぶっ壊れ性能のギフトがあるのか聞いてみたが『なぜあるのか私にもよくわかりません』とはぐらかされてしまった。
この発言から、エストナは初めに聞いた通りでエスト世界を管理するだけの存在で、ギフトを創造できる存在やエスト世界を創造した存在は別にいるのだろうと感じた。
とは言え、俺が思うに、エストナの目的はエスト世界の文明の停滞打破なので、多少のぶっ壊れ性能のギフトがあっても問題ないとしているように感じた。
俺以外に選んだ転生者がいないのも何となくわかる。
異世界市場の本来の仕様は、異世界の品を購入できることにあり、エスト世界のギフトまで買える可能性まで思い至らなかったのだろう。
実際、エストナに説明を受けるまで俺もエスト世界のギフトが購入できることにまで考えが至らなかったのだから、間違いないと思う。
それに異世界市場よりも、異界渡りのギフトの方が地球の品を欲しいと思う者たちには魅力的に感じるのだと思う。
地球に未練がある者には、品だけじゃ物足りないのだろう。
そうして異世界市場は、いままで選ばれなかったのだろうな。
ポイントチャージのための石拾いと草むしりを続けているのだが、髪留めがほしい……。
現実逃避を続けていてもしょうがないので、我が身を確認する。
今の俺の髪の長さは、腰に届くほどにある。
アラフォーのおっさんだった俺の髪がそんなにあるのが不思議だろう?
非常に不本意なのだが、エストナが用意した俺の体は、なぜか女性の身体しかなかったのだ。
その体をベースにいろいろと注文を付けて行くことになり、最終的に黒髪黒目の西洋風美少女十七歳となってしまった。
エストナも太鼓判を押す西洋風美少女なので、十七歳の身体でありながら出るところはしっかり出て、くびれもしっかりある見事な美少女に仕上がっていると俺も満足はしている。
長年連れ添った股間の相棒とさよならをしてしまったが、どうせ異世界での新たな人生なので、性別が変わる程度、気にしないことにしてしまった。
趣味の一つに、ネットゲームがあり、成り行きで女性アバターを使っていたときにいわゆる女性としてなり切ってプレーをするネカマ経験もあるので何とかなると思っている。
そんなことを考えながら、ポイント集めをしていると日が傾いて来た。
結界があるので、安全に夜を過ごすことは可能だが、家らしき建物もなく、寝床の用意すらしていない。
だが大丈夫だ。
日本には一〇〇円均一を売りにしているお店があるのだ!
有名な一〇〇円均一ショップであるタイソーとレジャーシートを異世界市場の検索欄に入力する。
数時間のポイント集めと言う名の石集めと草むしりの結果、二五二一ポイントがある。
一〇〇円のレジャーシートを五枚購入する。
次にベニヤ板と検索し、二メートル程のベニヤ板を一五〇〇ポイントほどで購入する。
これで寝床は出来た!
ちなみに金額は、完全に地球のそれと一致しているわけではないようだ。
流石にこれだけでは辛いと思うのでエスト世界にやってきた時から羽織っているマントを掛布団代わりにするつもりだ。
俺の現在の服装は、緑色のマント、いわゆるチュニックと少しだぶついた革のパンツに革のブーツとなっている。
もちろんエスト世界で良く使われている肌着なども身に着けており、エストナからサービスで貰ったやたらと細工の細かいナイフと特に特徴のない革のカバンを持っている。
残りの五〇〇ポイントほどで食料となる品を探していく。
エスト世界の食材だけでもかなりの量になり、オススメとなっている項目が有ったので、そこを眺める。
世界樹の実か……。
効果は、あらゆる能力増加となっている。
これを毎日食べて行けば、体力や魔力が増加していくのかもしれない。
試しに一〇〇ポイントだったので、購入してみる。
見た目はヒメリンゴのようで、味は今まで食べたことがないほどに美味しいリンゴの味がした。
とりあえず、世界樹の実はすぐに食べきってしまったので、梅おにぎりと鮭おにぎりの二つとミネラルウォーターにもう一つ世界樹の実を購入して夕食とする。
それからは魔法が若干使えそうなので、枯れ枝を適当に集めてから、火魔法で焚火を作り、眠くなるまでポイント集めを続けようと思う。
こうして、俺の異世界エストでの一日目は終わって行った。