我が家のご紹介?part③
お久しぶりですm(*_ _)m
まだまだ回想編ではありますが、アリエラのお家についてちまちま出てくるので、今後続く話のためにも続きを待ってくださっていた方、これから読まれる方に飽きずに読んでもらえると嬉しいです!
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ジルと別れてからすぐに寝る支度を整えて、ベッドへ潜り込んだアリエラ。
ふかふかと心地よく体を包んでくれる感覚に、あっという間に眠気は訪れてくれた。
うとうとと瞼を揺らしながら、アリエラは明日のことを考える。
(髪留めのデザインも決まったし、早速作り始めよう……それに、明日は久しぶりに体も動かそう)
先程ジルが頑張っているのを見たばかりだ。自分も少しはこの家の人間として、家名に恥じぬようにしなければ…と眠りかけた頭で考えた。
(とりあえず……明日から頑張る………だから今は、おやすみなさい…………)
誰への挨拶なのか。だめな子がよく言うような明日から頑張る宣言をして、頭の中でおやすみなさいと言う言葉を残してアリエラは静かな眠りに落ちた。
────そして、目が覚めると。
「あ、あれ〜〜〜?」
アリエラは寝起きの目を数回擦ると首を傾げた。
開かれたカーテンの向こう側には、いつもよりだいぶ高く陽が昇っており、既に部屋にいたらしい呆れた顔のヴィーが、やっとお目覚めですか?と掃除の手を止めてこちらを見ていた。
どうやらあまりにも部屋の主が起きなかった為、勝手に掃除を始めていたらしい。
我が家では…と言うか、私に限ってはこれが初めてではないので、もう起きるのすら待ってくれないようだ。
近づいてきたヴィーは、頬を膨らませながら両手を腰に当てた姿でじっとりとした目でこちらを見てくる。
あ、それ攻撃力高い。痛い痛い。
視線の痛さに思わずそっと横に視線を逸らすアリエラ。
「今日は随分とお寝坊さんでしたね?また夜更かしでもしたんですか?いくら声をかけても揺すっても起きやしないんですから、それはもうさぞいい夢でも見てらしたんですかね?」
「ご、ごめんなさい……」
あいたっ、いたたた…3コンボでヴィーにチクチクとつつかれ、刺さる言葉に耐えきれず、すぐにごめんなさいと謝ることにする。
「まったく、お嬢様は仕方のない人ですね。そんなんじゃ学院に入られてからが心配です………私はお供できないんですからね…?」
さっきまでの攻め口調はなくなり、途端にしゅんと肩を落としたヴィー。
先日夜会の招待状が来たことによって、もうすぐ私が学院に入ると改めて思わされたのだろう。
どこか寂しそうに言われてしまい、アリエラは自分も寂しいという気持ちとヴィーのしおらしい態度が、口にしたら怒られてしまいそうだが、なんだか嬉しくも思えてしまって複雑だ。
人によっては従者を連れて入学することもあるそうだが、基本は生徒の自主性及び自立心を伸ばす為に、従者などは連れて行けなくなっている。
王族や貴族、他国からの留学生は護衛が必要な場合もあるので例外として許可される場合もあるのだが、それにもちゃんと条件があるのだ。
第一に付けることのできる従者は最大二名まで。
第二に従者の年齢は十二歳から卒業の際に二十五歳以上にならない者。
そして第三に、従者であろうと生徒として入学すること。
この第三が一番の問題点だ。
その家の者はその従者の分の特別入校費、というものを支払わねばいけなくなる。
従者はあくまで身の回りの世話や護衛になるので、一般生徒と同じ条件では入る事は叶わないのだ。
もちろん一般生徒も一定の入学金が必要になるが、特別入校費と比べれば遥かに安い。
わざわざ無理に従者を付けずとも、学院の設備はとても良く、寮もルームシェアではなく個別の部屋である(これは兄と姉情報だ)。
食堂なども備えている為、基本的には努力さえすればどんな令嬢であれ子息であれ、自身のことは一人でもできる。
今まで甘やかされてきた分、自立を促すにも最適の環境なのだ。
その為、基本的には皆単身で学院に入る。
納得ができない令嬢も子息も、親に言われて泣く泣く入り、卒業する頃には立派になって帰ってくる…そんな所らしい。
……あくまで両親の話を聞きかじっただけだが。
そして我が家も例に漏れず、学院には私一人で行くことになっている。
上の兄も姉もそうしてきたのだから、私だけ特別扱いは駄目だ。
とはいえ…私の場合はちょっと特殊で、とある事情から完全な一人ではないので、ある意味では私も学院で言う『例外』に当てはまるのかもしれない。
「ヴィーがいないなんて、私本当に大丈夫かしら………?」
箱入りお嬢様とは間違っても言えないアリエラは、ある程度自分のことは自分で出来るとはいえ、その他心配要素が自分で思い当たるだけでもかなりある。
これはもしかしなくとも、かなり危険なのでは…?と今更ながらに僅かに不安が芽生えた。
(寝坊ばかりで退学、夜更かしして授業中居眠り……道に迷って遭難…………)
ああ"ー、どれも有り得そうで怖い。
そんな理由で学校を追い出されたり、変な評判を構内に響かせて皆に後ろ指を指されたくはない。
「変な虫は…多分つかないと思うので差程心配してませんけど、やっぱりその他諸々が心配です。今からでも私も学院に行けないか旦那様と掛け合って……」
「変な虫?学院に虫はそんなに出ないんじゃないかしら?と言うか、得意ではないけれど、別に虫くらい追い払えるわよ?それに、我が家は裕福な方ではあるけど、流石に従者付きで入学はかなりお金もかかるし父様も頷かないって」
「それは大丈夫です!私のお給金を全て投資しますので」
「何言ってるの!?そんな理由でそこに投資しちゃ駄目でしょ!?」
「なにを言ってるんですか?大事なことですよ?足りなければ前借りということで、今後無賃労働をお約束すれば旦那様も許してくださるのではないかと!」
「だからそうじゃないってば!」
あまりに斜め上をゆく発言に、思わずアリエラは盛大なつっこみを入れてしまった。
…いや、うん。ヴィーの気持ちはとても嬉しいけれども。
使用人ではあるが、友達のような家族のような…そんな存在のヴィーが今まで汗水流して貯めたお金をまさか私が心配だからという理由なんかで簡単に注ぎ込もうとしては駄目だと、アリエラは何としてでも止めねばと慌てた。
ヴィーは名案だとばかりに満面の笑顔で言っていたが、お金は大事にしよう?お金があれば世の中とりあえずなんとかなるから。
そんでもって、使い道はちゃんとよーーぉく考えて、ここだという時に使おう?
頭の中で色々と小言を述べながら、口でもヴィーへの説得を続け。
「いい案だと思うのですが……」
「流石にその案は却下だよ……もし仮に父様から許可が出たとしても私が許可しないからね?」
「お嬢様は私といたくないんですか?」
却下だと告げれば、ヴィーの表情が途端に拗ねたものに変わる。
「………そりゃいたいに決まってるじゃない」
ぷぅとこちらも負けじと頬を膨らませて不満顔をして見せた。
なにもヴィーばかりが寂しい訳ではないのだ。
「それでも、ただでさえ私は異例なのに、我儘まで言う訳にはいかないのよ。学院の規則には従わなきゃ」
「……分かりました。その代わり、ちゃんとお休みは帰ってきてくださいね?約束ですからね?守って下さらないと、旦那様に直談判して途中からでも編入しちゃいますから!」
私の膨れっ面を見て、ヴィーも僅かに笑みを漏らすと仕方ないとやっと諦めてくれたようだ。
……最後の言葉は、冗談だと思っておこう。
少なくとも私が約束さえ守れば実行されることはないはずだ。
「それより少し食事を摂ったら体を動かしに行きたいのだけど、動きやすい服を出しておいてもらえる?」
やっとベッドから体を降ろしたアリエラは、う〜んと両腕を組んで上へと伸ばす。
ベッドからアリエラが降りたことで、すかさずクローゼットを開けていたヴィーが、不思議そうに首を掲げている。
「体を動かすとはどの程度です?」
恐らくどこまでの範囲で動かすのかと言う意味合いの問いだろう。
大雑把に伝えただけなので、ヴィーからすればちょっと走るだけなのか、本格的なものなのか…それによって服が変わると言いたいのだ。
「久しぶりに、体を動かしておかないと勘が鈍ると思って」
「…珍しいですね?最近は全然されていなかったというのに」
明確な言葉で返事を返さなかったものの、すぐにアリエラの言葉の意味を理解したヴィーは、クローゼットの中からテキパキと服を選び出していく。
手渡された服に着替えると、軽く身なりを整えてアリエラは食事を取りにリビングへと向かった。
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お客様を呼んでも広々と使えるダイニング。
そのテーブルにはアリエラ一人が席に着いていた。
何故一人かと言うと、それは勿論アリエラが寝坊をしたからである。
恐らく起こしてもアリエラが起きないことをヴィーが報告したのだろう。
アリエラ以外皆、既に食事を終えて各々やるべきことをしているとの事だった。
父は仕事をしに宮城へととっくに出向いていた。
そして母は執務室で書類整理真っ只中。
弟は外で騎士に混じり訓練場で剣の稽古の時間。
……そんな中、かなり遅い朝食を食べようとしているアリエラ。だめさ加減が良くわかる。
広いテーブルの上にだらりと体を曲げて顔を押し付けていたアリエラは、そんなに自分は寝起きが悪かったのだろうか?とぼーっと考えながら、朝食が届くのを待っていた。
そんなアリエラの鼻腔に美味しそうな匂いが届いてくると、途端にテーブルの上に投げ出していた上半身をアリエラはシャキッと体を起こす。素晴らしい早業だ。
「お嬢様、お待たせ致しました」
待ってましたと言わんばかりにアリエラが振り向くと、マッシュが出来たての料理を手に立っていた。
出来たてで湧き上がる湯気が漂い、その流れてくる湯気と共に香る匂いが堪らなくアリエラのお腹を刺激した。
そして素直に本能に従ってくるるると小さく鳴り始めたアリエラのお腹はまだかまだかと訴えている。
「お嬢様のお腹は本当に素直ですね」
自分のお腹の音が聞こえてしまっていたらしい。マッシュに笑わられてしまった。
今に始まったことではないがやはり恥ずかしい。
「…ありがとう、マッシュ。変な時間にごめんなさい」
少し照れを残しながらも、本来の時間とは違う時間に突然料理をお願いしてしまったことを謝ると、構いませんよと目の前に料理が差し出された。
今日の朝食はリゾットのようだ。チーズとたっぷりと入ったプリネのリゾット。
プリネは私の大好きな野菜だ。とてつもなく嬉しい。
優しい料理長は、お寝坊のアリエラに寛大かつ甘かった。
ちゃんとアリエラの好みを考慮して作ってくれたらしい。
「お熱いので気をつけて下さいね、それでは私はこれで」
笑顔で去っていくマッシュにもう一度お礼を伝えると、アリエラは早速スプーンを手に取った。
「頂きます!!」
スプーンですくって、ふぅふぅと息を吹きかけて適度な温度に下げたリゾットを口に頬張ると、クリーミーなのに甘酸っさが広がり、ほうっとアリエラは目尻を下げた。
(あ〜、本当に美味しい……この酸味を包むまろやかさ)
舌の上に広がる味に満足しながら、止まることなくスプーンで口に運んでいると、あっという間にお皿は空っぽになってしまった。
(朝ご飯…いや、昼??とにかく、寝起きでも我ながらすごい食欲ね……)
寝起きだと言うのに、あっという間に完食してしまったことに、自分自身で若干引いてしまった。
出てきてから三分程しか経っていないのに完食……これは流石に、ね?
はははと乾いた一人笑いをした後、はぁと小さくため息を漏らしながらも、美味しかったのだから仕方ないとアリエラはご馳走様と手を合わせた。
「さて、戦闘準備万端!やりますかっ!」
席を立ったアリエラは、ふふんと笑みを作りながらリビングを出ていった。
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食後にアリエラが向かったのは馬小屋だった。
馬小屋には人はもう居らず、残っているのは本日はお休みの馬達のみ。
その子達も既にご飯を済ませ、まったりと過ごしていたようだ。
そんな中、アリエラが馬小屋に足を踏み入れれば、沢山いる馬達がアリエラに気付いてヒヒィーンと嬉しそうに声を上げながら柵から顔を出してきた。
「皆、久しぶりね?元気だった?」
それぞれに挨拶しながら撫でてやると、甘えるように頬ずりをする馬達。
ここの馬達は皆、かなりアリエラに懐いている。
だが、この子達はアリエラの持ち馬というわけではない。
それなのに、性格も様々な馬達が主人以外の者にここまで懐いているというのはかなり珍しいことなのだ。
気難しく扱いが難しい子ですらアリエラを歓迎する始末。
その事に持ち主である主人達も初めは酷く驚いていた。
一通り馬達に挨拶を終えると、アリエラは目的の馬のいる柵の前で立ち止まった。
「アルカス、おはよう!」
待ってましたとばかりに柵の前で大人しく顔を出していた白馬はの名前はアルカス。この子がアリエラの愛馬だ。
白い毛並みはさらりとしていてさわり心地は良く、つぶらな瞳は長いまつ毛も相まって愛嬌たっぷり。とっても可愛い子なのだ。
アルカスはじっと静かにアリエラに鼻を寄せてあることを待っていた。
これはこの子の早く撫でてと言う合図だ。
自ら擦り寄るのではなく鼻を寄せるだけで、後はじっとつぶらな瞳で見つめて大人しく待つのがこの子なりの合図であり、主であるアリエラもそれは重々承知している。
アルカスの期待に応えて、アリエラが鼻筋を優しく撫でてやると、気持ちよさそうに瞳を閉じるアルカス。
「アルカス、調子はどう?久しぶりに出ようと思うんだけど大丈夫?」
優しくアリエラが問うと、アルカスは問題ないと答えるように小さく戦慄き、すりすりとアリエラへ擦り寄る。
「ありがとう。じゃあ支度しないとね」
アリエラも笑顔でアルカスに頬ずりをすると、早速鞍や手綱を用意し始める。
アルカスも久しぶりに遠出を出来ると分かっているのだろう。嬉しそうに準備の最中も尻尾を揺らしていた。
全ての準備を終えると、アリエラは持ってきていた荷物を背負い、柵を開けて手綱を引きアルカスを外へ連れ出て出る。
広い所に出ると、アリエラはアルカスへ慣れた動きで乗り上がり、目線を合わせるようにアルカスの顔の方へ身を乗り出す。
「今日は森の方へ行こうか?アルカス」
「ヒヒンッ」
賢いアルカスはアリエラの言葉を理解しているのだろう。
手網を引かずとも、ゆっくりと森の方へ向かって歩き始める。
アリエラは、やっぱりアルカスはいい子だわ〜と満足気に手綱を手に取った。
(暫くは愛馬との散歩時間を楽しむとしよう)
森までは一時間程かかる。その間はこの心地よい揺れと風を楽しもうと、アリエラはアルカスに体を預けることにした。
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アルカスに乗り緩やかに揺られていたアリエラだが、途中からは少し速度を上げたので、目的地までは少し早めに到着出来た。
今いるのはクレセアルの中心部から東側にある森。
クレセアルは海のイメージの方が強いが、海に面しているだけで決して森がないわけではない。
大国であるクレセアルの中心部からみて、南に海岸のある港、西には海に面しのどかな平野の街道があり、北には森の奥に大きな山脈があり、クレセアル唯一の極寒地である雪原地帯がある。
東から北にかけて広大な森が広がっていて、その森の事を皆は『ウォルドの森』と呼んでいた。
ウォルドの森は広く、危険な場所もあれば隣国へ繋がる街道のように安全かつ整備されている場所もある。
そして、その中には許された者しか立入ることが出来ない聖域も存在する。
アリエラが降り立ったのは、ウォルドの森の中ではあまり人気のない場所で、アリエラ位の年代…それも女性がわざわざ好んで来る場所ではなかった。
ウォルドの森の中…危険区域指定されている所にほど近く、どちらかと言えば危険だと忌避されることが多い場所である。
なので本日も人気は全くない。
アリエラにとっては非常に慣れ親しんだ場所だ。
「よし、到着〜!アルカスもお疲れ様」
よしよしと胴を撫でてお礼を言うと、小さな泉の近くにアルカスを放した。
いつもここに来る時は必ずこの辺りでアルカスはお留守番なのだ。
賢く忠誠心の高い子だから、わざわざ繋いだりしなくとも逃げ出したりせずにいつもアリエラを待っていてくれる。
ここならそのまま泉にも近いので喉が乾いたら好きな時にアルカスが水を飲めるし、この辺りは危険区域より手前…境にあたる場所なので危険も少ないので安心なのだ。
万が一何かが出てきても、繋いでいないのでアルカスも身動きが取れてより安全だろう。
「アルカス、私はちょっと体動かしてくるからここでゆっくり休んでてね?」
アルカスに一声掛けると、アリエラは必要なものだけ手に持ち、森の奥へと一人で入っていく。
進めば進むほど、木が生い茂り影を作ってしまっているせいで森の中は薄暗さを増すばかり。
足場もだいぶ険しくなっていき、これだけで鈍っていた体にはいい運動になるだろう。
アルカスを置いてきた場所から更に一時間程歩いた所で、やっとアリエラはその足を止めた。
「この辺でいいかな?」
立ち止まったのは先程歩いてきた鬱蒼と木が生い茂る森よりはほんの少しだけ開けた場所。
それでも大きな木が周りにはあるのであくまでほんの少し開けているだけだ。
アリエラはポケットに手を入れると、中から小さな小瓶を取り出した。そして、中に入っていた液体を地面に撒いた。
「さぁ〜て……始めましょうか?」
アリエラ不敵な笑みを浮かべ、これから始まる『運動不足解消』の為、体を解しながらその時を待った。