我が家のご紹介?part①
いつも読んでくれている皆様、ありがとうございましm(__)m
今回はディーベルト家メインのお話。
ジルの他にも、アリエラのまだ出てきてなかった家族や使用人が出てくるので、ほぼディーベルト家の御紹介編ですw
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アリエラがぎゃあぎゃあと抵抗をしながらジルに引き摺られて屋敷に戻ると、玄関を潜ったばかりのホールに幼い声が響く。
「ねぇ様?帰ってきたの?」
姉の帰宅を察知して、出迎えに来てくれたらしい。とことこと階段を駆け下りながら、弟がこちらへ一直線に向かってきた。
サラサラの髪を揺らしながらゆっくり近づいて来る弟は、年齢の割に大人びた見た目。そしてその見た目と裏腹に、近づいてくるなりギュッとアリエラに抱きつくその姿は、狙っているのかと思う程アリエラには効果大だ。
「ねぇ様遅い……寂しかった」
しがみつきながらも、ちらりと顔を上げた弟が眉を八の字に曲げながらアリエラを見つめて可愛いことを言うという高度な技を繰り出した弟に、思わずアリエラはきゅんと胸を高鳴らせた。
(うちの子本当に天使……)
まだ十歳だと言うのに色気を撒き散らす魔性の弟だが、こういう所は幼さを残していて愛らしいの一言に尽きる。
我が家自慢の弟だ。
「ご、ごめんね!思いがけず時間が……」
「そうですね。思いがけず色んな男につい魅入っちゃったんですよね?」
「ん?別に男の人だけでは……って、またジルは。そういう誤解を招く言い方をしないでよ」
アリエラが弟に謝っていると、ジルが余計なことを口にした。そんなジルにアリエラは思い切り不満顔を向ける。
だが言われた当人よりも、アリエラに抱きついていた弟の方が、ぴくりと反応を示す。
「……ねぇ様、男の人をまた見てたの?」
「え?やぁね、ウィルまでそんな言い方………ん?」
先程までと様子の違うウィルが、アリエラを抱きしめる腕に力を込め始める。
ぎゅぎゅぎゅと段々と強くなるウィルの拘束にあれ?とアリエラは不審に思った。
「ウ、ウィル?ちょーっと締め付けが強いかなぁ…なんて」
よしよしと空いている片手でお腹より少し上にあるウィルの頭を撫でながら、力を弱めて欲しいとさり気なくアピールしてみれば。
「ねぇ様。ねぇ様は他の人を見ちゃだめです」
おおっと。無理難題を弟から言い渡された。
可愛い可愛いウィルの…溺愛している我が弟のお願いは聞いてあげたい。あげたいが、そのお願いはちょっとばかり難しいのではないかなぁとアリエラは遠い目をする。
だってやめようと思って封印できるレベルの趣味じゃないし。
それ以前に、いくら可愛くて美少年なウィルでも、ウィルだけ見て生きていくのは普通に無理だし。
万が一にでも趣味を封印できたとしよう。
だが、生きてる以上誰かしらと関わることになるので、どの道ウィルの願いが成就することは絶対にないだろう。
「え?それは無理じゃない…かなぁ〜??」
「ねぇ様は僕だけ見てればいいです」
アリエラが曖昧に笑って見せれば、『何も問題ないです』と、ふふっとウィルが笑った。
瞬間、色気がぶわっと辺りに広がる。
先ほどまで遠い目をしていたアリエラはもろにそれに当てられ、結局何も大丈夫ではないし、無理なものは無理なのだがあーら不思議。
『そ、そうね!』と思わず頷いてウィルを抱きしめ返していた。
なんという破壊力だ。末恐ろしい子。
「それ、さっき俺も似たようなこと言ったはずなんですけど……」
随分と反応が違いすぎませんかねと、ジルが横でボヤいていたけれど、弟の可愛さに身悶えているアリエラには何も聞こえていない。
そもそも、ジルが言ったあの時の台詞もアリエラには届いていなかったので、今アリエラにジルの言葉が届いていたとしても、この令嬢はなんの事?と返すだろう。
ただ、ジルの今の言葉もアリエラには届いていなくとも、耳の良いウィルにはしっかり届いていたようで。
「……ジル、後で僕の部屋で少し話そう?」
「いえ、俺はお嬢様のお世話で忙しいので」
怪しげな笑みを浮かべてジルを見上げたウィルに、ふっと笑いを返したジルはその誘いを断る。
この二人のやり取りは割とよくあることだ。
誘う方と断る方は度々入れ替わるが、大抵お呼び出しが発動されてもどちらも結局行くことはない。
なぜなら、互いに行ってしまうと面倒な会話が続くと知っているからだ。
自分が呼び出して話す分には良いが、相手の話を聞くつもりはない…という割とどうしようもない理由で、今までその呼び出しの約束が果たされたことはない。
長年共に育ったからなのか、それとももう一つの理由からか……どこまでも似た者同士な二人だ。
「ジル、別に行ってきていいのよ?私そこまでダメ人間ではないのだから、一人でもある程度できるわ」
「いえ。たとえ出来たとしても、それは使用人の仕事ですので」
気を利かせてそう言ってやれば、ジルが即答でアリエラの善意を却下した。
未だにアリエラを挟んで不穏な空気を漂わせるジルとウィルの二人。
そしてウィルの愛らしさにまだ悶え中のアリエラ。
そのなんとも言えない空気は第三者が現れるまで続いていた。
「あらあら、アリエラちゃん!おかえりなさい〜!頼んだものは買ってきてくれたかしら?」
ジルとウィルに挟まれながら、やっと悶え終わり正気に戻ったアリエラが不穏な空気にひやひやし始めていると、玄関ホールに聞きなれた声が響いた。
声の持ち主、第三者である母の登場のお陰で二人の雰囲気もいつも通りに戻り、やっとアリエラの肩の力を抜くことができ、ついでにホッと詰まっていた息を吐き出す。
小走りでこちらに近づいてきた母は、そわそわかしながら目的の物を目で探すと、ジルの手の内にある袋がそれだとすかさず嗅ぎつけて、じっと大きな琥珀の目でそれを注視している。
頼まれたからには買ってくるに決まっているが、こてんと首を傾げて聞いてくるあたりあざとい。
自分の母とは思えないくらい若く美しい母ではあるが、いくら若いと言ってもその仕草は本来NGな年齢のはず。
それが視覚的効果により全くと言っていいほど嫌味でない。
弟といい、母といい…自分の使い方をよく知ってらっしゃる。
くっと少し悔しいような気持ちもあったが、同時に美男美女愛好家にとっては親指をぐっと立てたい衝動にかられる。
「ちゃんと買ってきましたよ。今から料理長に渡して、調理してもらいますね」
「とびきり美味しいのをお願いって伝えてね?」
「えぇ」
「それじゃあ、私は……」
「待ってください。母様」
用件はそれだけだったようで、確認を終えた母は鼻歌交じりにくるりと背を向け、この場を立ち去ろうとする。
そんな母をアリエラは笑顔で呼び止めた。
「なぁに?アリエラちゃん?」
「いえ、一つだけ気になっていたことがありまして…」
それを聞いてからでないと心穏やかに見送れないなぁと、ふふふと緩やかに笑みを浮かべるアリエラ。
「何かしら?」
きょとんとしている母の様子を見る限り、アリエラの聞きたいことの検討はまだついていないようだ。
「ジルに見つかるのはまぁ、いつもの事なんですけどね?今回あまりにも見つかるのが早かったんですよねぇ〜……まるである程度場所が分かっていたみたいに」
そう、実は気になっていたのだ。
家を抜け出すのも、最終的にジルに見つかるのもいつもの事ではある。
だけど行先はその都度で違うし、大抵ジルはあちこち探し回ってようやくアリエラを見つける。
それこそあちこち捜索のためにジルが街中を駆けずり回る事も最早日常茶飯事。
アリエラの趣味のためのお気に入りスポットは数知れず、移動エリアも幅広い。
それを情報なしに一から探すのだから当たり前だ。
そしてジルが必死に探し回った結果、見つかった時はそれはもう長いお説教がいつも待っている。
何故なら見つけるまでの疲労と説教時間が比例しているからだ。
だがどうだろう?
今日ジルは、私が家を出る時間帯は別の要件で屋敷を開けていた。
それを知っていてしめた!とアリエラは屋敷を抜け出たのだ。
それなのに屋敷から出て二時間ほどしか経っていないのにあっさりとジルに見つかってしまったアリエラ。
つまり、ジルはいつもより簡単に、時間もかからずアリエラを見つけたことになる。
ジルだって用事を片付けていたのだから実質一時間ぐらいて見つけたようなものだろう。
ただ感が働いた…と言われてしまえばそれまでだが、ジルのお説教がかなり短かったこともあり、アリエラは不審に思っていた。
そしてアリエラは、ジルに引き摺られながら屋敷に連れ戻される最中、何故だろうと頭を捻って考えていたのだが。
考えた結果、浮かんだのはある仮説。
「たまたまジルの勘が当たったのかしら?」
「母様?嘘は良くありませんよ?ジルに私の居場所、教えましたね?」
「な、なんの事かしら〜?」
母の双眸があからさまに泳ぎ出す。
あくまで仮説で確証はなかったので、あたかも分かってますとカマをかけたのだが、母の分かりやすすぎる態度に直ぐに確信を得た。
その顔が全てを物語ってしまっていると本人は気づいていないのだろう。本当に隠し事の下手な人だ。
「はぁ〜…大方食欲の方に負けて、ジルに私の居場所を聞かれた時に行先を教えたのでしょう?」
「えぇ。奥様が快く教えてくださいましたよ」
「やっぱり……」
アリエラの推察をあっさり隣のジルが認めた。
証人が出てしまった以上、元々隠せてはいなかったが、犯人である母にじどっとした目を向ければ、瞳をうるうるとさせて唇を突き出した母。……やはりあざとい。
「だ、だって〜…!アリエラちゃんなかなか帰ってこないから……」
「急いで帰宅したところで、夕食までお望みのものは出ませんよ。それに私にだって自分の買い物とか他にもやる事があるんですから。お陰でジルに見つかって強制送還されてしまったじゃないですか!」
「そうだけどぉ…」
ふんっと少し怒った素振りを見せれば、しょんぼりと肩を落とす母。いじいじと指先を絡めている。
「子供じゃないのですから、少しは我慢を覚えてください!でないともう代わりにお使いしてきてあげませんからね!」
「お嬢様がそれを言いますか?自分こそ欲望に忠実に生きているのに」
「………いいですね?母様?」
「あ、無視するんですね。そうですか。とゆうか…何度も言っておりますが、買い物は使用人に任せてもらいたいのですが」
「…はぁい」
ジルの言葉はアリエラにもこの屋敷の奥方にも無視された。
正確には聞こえていたが、任せる気などさらさらないのでスルーしている。
愛娘から叱られてしまい、弱々しくご立腹のアリエラに返事だけすると、しょんぼりとしょげる母はとぼとぼと自室に向かって去って行く。
その背中には哀愁が滲んでいた。
はぁともう一度溜息を吐き出したアリエラは、少し声を張ってそんな母の背に向かって叫んだ。
「料理長にはちゃんと頼んでおきますから、夕食は楽しみにしてていいですよ〜」
「…!アリエラちゃん、大好き〜!」
アリエラの言葉を聞き、ブンブン手を振りながら、すっかり元の調子を取り戻した母。
その足取りは軽く、ご機嫌で自身の部屋の方へ消えて行った。
「まったく、仕方の無い母様」
「ですから、貴女がそれを言いますか?」
もうっと呆れながらも、笑顔で母を見送るアリエラ。
ウィルもアリエラにピッタリとくっつきながら母に手を振っていた。
そのアリエラを呆れた顔をしてみるジルの言葉をアリエラは最後まで無視し続けた。
「さてと。約束もしてしまったし、買ってきたものを料理長に届けないとね」
「なら、僕もついていきます」
「じゃあウィルも一緒に行きましょうか?」
ふふふと互いに笑を零し、ウィルはアリエラから体を離すとアリエラから伸ばされた手をぎゅっと握る。
なんとも微笑ましい光景だ。
代わりにジルが掴んでいた腕は、もう目的地である屋敷には着いたし、このままでは歩きづらいからそろそろ離してとアリエラに言われてしまい渋々と手が離れていく。
「坊ちゃんは良いんですか?身長が差があって手を繋いで歩くのは大変では?」
だが、しっかりと繋がれているウィルの手をじぃっと見て、むすっと顔を顰めたジルが指摘した。
「ねぇ様は僕と繋ぐの嫌なの…?」
「そんなことないわよ?ジルが掴んでたのは腕じゃない。手なら繋いでいたって別に歩きづらくはないわ。ジルったら変なところ気にするのね。ジルも手ならいいわよ?繋ぐ?」
掴まれていたのが単に腕だから歩きづらかっただけだと、アリエラは訂正するとウィルに優しく微笑んだ後、ウィルに空いている方の手を差し出す。
「……いえ。大丈夫です」
「ジルもこう言ってるし、早く行こうっ!」
仲間はずれのようで嫌だったのかな?と考えて差し出したのだが、ジルにはちょっと顔を背けられて断られ、ウィルにはぐいぐいと繋いだ手を引かれ始める。
手を引くウィルの力は意外と力強かった。
「そこまで慌てなくても…。ジルもついてきてね?」
「分かってます。魚を持っているのは俺ですしね」
手を引かれているからジルとの距離が開いて来るが、アリエラがジルに告げるとはいはいと頷きながら少し後ろからジルがついてくる。
目指す目的地は、既に仕込みに入っているであろう。我が家自慢の料理長が居るキッチンだ。
『目の保養は大好物ですが、恋愛対象ではありませんっ!』をお読みいただきありがとうございました!
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