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目の保養は大好物ですが、恋愛対象ではありませんっ!  作者: 深月みなも
王立学院、一年生のお話
26/26

これは寝不足のせいですか?part④


体力測定も無事(?)終え、アリエラ達はこれでお終いだと、各自更衣室に行って着替えたらクラスに戻っているように…とのお言葉をいただいた。

途中まで皆で他愛ない話をしながらぞろぞろと歩き、せっかくだから教室のある場所までは皆で行こうと、着替え終わった者は更衣室の前で待つことになり、私達は男女別に別れて行動した。


当然ながら、この面子で女子は私とマリベルだけの為、二人で中へと入っていく。


とりあえず各々着替えてこようと、着替えを置いてある棚の方まで向かえば、マリベルも同じ方向についてくる。

その事に首を傾げていれば、どうやらマリベルの着替えも私の傍だったらしい。

着替えのタイミングが違かった為、開始前は会わなかっただけみたいだ。


「アリエラ様とお近くだったんですね」


と、マリベルも可笑しそうに笑っている。


「みたいですね。さて、さっさと着替えちゃいましょうか?」


そう話しながら、アリエラはもう既に上の服を捲っていた。


アリエラは服を脱ぐ為に顔が服の中に入ってしまっているので気付いていないが、マリベルはその事にぎょっとした顔をしていた。

その後、顔を茹だたせて驚いた顔をしているくせに、顔を背けるどころか、目を見開いて瞬きもせずにアリエラを凝視していたマリベル。


「ふぅ。この運動着、体にフィットしてて動きやすいですけど、その分脱ぎ着は少ししづらいですね………マ、マリベル様?どうかしました?」


それに気付かぬまま、やっと頭を通し終わったアリエラ。


体にぴったり目の運動着は、汗をかいていなくても些か脱ぎ着がしづらかった。

着る時はまだいいが、脱ぐ時は胸と頭を通すのに少し手間どる……なんて、少しの不満を述べた。


とはいえ、ジルとキリアンの話から推測するに、きっと貴族令嬢はこの比ではない時間を要するのだろうが……なんて考えながら呟いた言葉だったが、反応が返ってこないマリベルを振り返えり、そこでようやく自分が凝視されていることに気づいた。


(…なんか、めっちゃ凝視されてる)


その姿にちょっとビビりつつ、マリベルの名を呼んでみたアリエラ。

すると、その声をきっかけに漸く瞬きをしだしたマリベルが、数テンポ遅れて『す、すみません』と、何に対する謝罪か分からない謝罪を小さく口にした。


「その、アリエラ様は色々と……凄いですね」


その言葉に、不本意ながらあぁ…とアリエラは納得した。

マリベルもだったか、と。


「貴族令嬢らしくない、ですか?」


ジル達曰く、貴族令嬢がその場面を見たら、そりゃそういう反応になるだろう…との事だった。

測定に向かう前の周りからの反応を思い出したアリエラは、マリベルも今の自分の行動を見て"令嬢らしくない"と驚いたのだと思い、つい苦笑しながら問いかけてみる。


どう見ても同じ貴族階級、しかも箱入りそうなマリベル。

ともすれば、マリベルとて他の令嬢と同じような反応なのだろう思うものの、本人である私から告げたらマリベルはどんな反応をするのかなぁというちょっとした興味があった。


なんせ、そう思っていただろう開始前の熱い視線を寄越していた面々の中には、面と向かってそう言ってくれる人は居なかったのだ。


「いえ。らしくない…というより、自立した女性としてかっこいいなぁ…と思っておりました。それに、その、お身体が………」


着替えができる程度で"自立"していると見なされるとは、随分とボーダーラインが低すぎやしないか?と思うが、それよりも続いた言葉が気になった。


(え?身体?身体が何っ!?)


もしや、令嬢として見過ごせないレベルのダメダメボディーだった!?と、アリエラは身体ごとピシリッと硬直させた。


これでも、程々に体型維持には務めてきていたし、ちょっと自分を甘やかした後はできるだけ運動(という名の、稽古や討伐)に出ていたのに……前世庶民のなんちゃって令嬢である自分の基準では生ぬるかったのかもしれない。

可愛いマリベルから、『アリエラ様がそんなおデブだったなんて…』と、哀れみや嫌悪の目で見つめられたら間違いなくトラウマになる。

暫くは部屋に引きこもることになるだろう。


内心ビクビクとしながら、聞きたくない気もするが、ここまで来たら聞かないと気になって仕方なくなるので、『か、身体がなにか…?』と震える声でマリベルに続きを聞いてみた。


「あの、はしたない……と思わないで頂きたいのですが………」

「……え?よく分からないけど、思わないと思いますよ?」


寧ろ、はしたなさなら私が圧倒的勝利だろう。

だって、散々ジルからよく言われてきたから。


「アリエラ様のお身体は…まるで、彫刻のような美しさだと、つい見蕩れてしまい」


ん?彫刻??

その言葉にとりあえずトラウマは植え付けられずに済みそうだと、身体を緩和させたアリエラ。

ただ、やはりその言葉の意味はイマイチ分からない。


彫刻……とは、また。

一体どういう例えでそんな単語が出てきたのか。

ちらりと自分の身体を見てみる。


覗き見た身体は、本人故よく見なれたものだ。


胸は、この世界にはサイズ分類がないため、正確には分からないが程々のCとDの間ぐらい。

14歳という年齢を考えれば発達はかなり早い方だとは思うが、特段目立つ部位ではないだろう。

特に、自分は苦手すぎて使わないが、コルセットでこれでもかと絞めあげれば皆1カップ、2カップは上がる。

その為、世の中にはそれくらいの大きさの14歳はざらにいるのだ(コルセットで盛ってはいるが)。


手足もモデルのような細さはなく、程よく余分な肉もついてれば、別の肉…筋肉もついている。

それは手足に限らず、お腹やお尻もだが。

こればかりは家業が家業なので仕方がないと思う。

騎士家系はどうしても肉体派に偏りがちなのだ。


私はパワータイプではないから、少し筋肉がある程度だが、我が父率いる"フェンリル"の騎士達はムキムキマッチョメンも多い。

たまに私が殴る・蹴る・叩くをすると、ありえない鉄壁さに、これは石壁かな?と思うほどの肉厚さだ。

人によっては筋肉を手懐け、時には弾力のある受身を、時には強度MAXの石壁へと自在に筋肉の軟度を変える者も。


昔…前世での生活で、テレビ越しに見ることのあった筋肉自慢や、バラエティーで筋肉を愛する人達が、胸筋などを筋力だけでピクピクさせている光景を、今やディーベルト家でリアルに見せられているアリエラ。

正直、あれはちょっと気持ち悪い。………いや、優しく言いすぎた。めっちゃ気持ち悪い。


そんなに意識していなかったけど、テレビ越しじゃない本家ムキムキマッチョメンを見ると、私は筋肉フェチどころか苦手派だったのだな……なんて、幼いながらに自己の癖について新しく学んだ。


マリベルの言った、"彫刻"と言う例えで連想できたのは、よく言う『彫刻のような引き締まった筋肉美』である。

これは、シックスパックは当然であり、筋肉筋が程よく浮かび、全体的なシルエットが逆三角に近いスタイルのことだ。

私の身体は、ずっしりムキムキマッチョとは程遠く(そもそも目指していない)、かといって細身ムキムキマッチョにも入れそうもない。

お腹も、少し筋肉筋はあってもシックスパックの内一つも今のところない。

その時点で、『彫刻のような引き締まった筋肉美』ではないだろう。


なら、『彫刻の様に全身真っ白』という事だろうか?


………それもないな。


専属侍女であるヴィーは美肌についても口煩く、小言を言いながらも私の顔や身体色々塗りたくってくるが、それでも当の本人が気にしてない上、日除けもせずにアリエラが外をほっつき歩くので、ヴィーの頑張り虚しく健康的に程よい肌色だった。


あと彫刻と言えば………あのよく分からないポージング??

え?もしかして私、気づいてなかっただけで、いままで着替える時割と変な格好で着替えてたのか?


「失礼じゃなければ…"彫刻"とは一体どういう意味で……」

「こ、これ以上は恥ずかしくて言えません!その、本当に不躾に見てしまいすみませんでした!!」

「そ、そんなっ!?」


まさか、と思って聞いてみれば、何故か恥じらうマリベル。


何故そこで恥じらうの!?どうして!?

そんなこと言われたら、その"恥ずかしい"が私に対しての言葉なのか、マリベル自身の事なのか不安になるではないか!

けれど、本当に恥ずかしそうにもじもじしている姿を見せられては、執拗く聞くことは出来なくなってくる。


ここは、自分が諦めるしかあるまい。

…………気になるけども。気には、なるのだけども。

くぅっと歯がゆさを残しながらも、大人になりなさいアリエラ…と気にしないように自分へ言い聞かせた。


「………とりあえず、着替えを再開しましょうか」

「……はい」


心の中に疑問をそっとしまってはみたものの、内心気にはなってるアリエラと、未だに恥じらっているマリベル。

互いにちょっとの気まずさを残しながら、二人は着替えを再開させた。


そうして気まずい中着替えを終えたアリエラとマリベル。

二人が待ち合わせ場所である更衣室前へと行けば、既に男性陣は全員揃っていた。


「お待たせしてごめんなさい。………あら?」


待たせてしまったことを謝りながら、目に付いたところで視線を止めたアリエラ。

一度気になってしまうと、なかなか無視できなくなり、じぃぃとつい見てまう。


「??」


その視線の先……のヒースは、なんだ?と怪訝な顔をしている。

そしてアリエラの視線が若干下を見ている気がして、ヒースも少し視線を落としながら、一体何を見られているのかと探し。


「あの…」

「……っ、大丈夫だから!できるから!!」


アリエラが見ていたものに気づき、大慌てでそれを手探りで直す。


「本当にできます?私がやりましょうか?」


本当に出来るのだろうか?と、ちょっと疑いの籠った目でそう問うアリエラに、ブンブンと縦に首を振ったヒース。

アリエラが見ていたもの……それは、相も変わらずだらりと垂れ下がっていた不格好なネクタイだった。


この間もそうだが、アリエラはどうもヒースがネクタイを結ぶのが下手なのだと勘違いしているらしい。

ヒースもまさか二度も指摘されるとは思っておらず、また雑に結んでいたネクタイを慌てて一度解き、形を整えながらキュッと首元まで引き上げる。


「ほ、ほら!俺、自分でできるから、なっ!?」


と、結び直したネクタイを見せてアリエラに今度こそ下手ではないことをアピールしたヒース。


「あ、本当ですね!あの後練習されたんですか?」


はなから出来たことだが、そこはもう今更訂正する必要はないか…と『まぁ』と濁せば、『偉いですね〜』とにこにこ笑うアリエラ。

まるで弟を褒めるような言い方に、初めからできた上に俺の方が歳上なんだけどな……とヒースはちょっとむくれたくなったが、その言葉は呑み込んでおいた。


とても嬉しそうな顔で笑うアリエラに、敢えてその言葉はいらないだろうと思ったのだ。


(ただ、この調子じゃあまた緩めてると言われそうだなぁ……息苦しくない程度には気をつけよ)


ヒースは自分の心臓と気苦労の為にも、今後は息苦しくてもネクタイはあまり緩めすぎずにおこう、と心の中で決意する。

でないと、周りからの視線が痛い。

というか、既に周りからの視線が痛い。


共にこの地にやってきたマリベルやエルマーはともかく、ヒースの普段をまだあまり知らない面々には、『わざとじゃないのか?』という言葉が聞こえてきそうな視線を現在進行形で向けられて気まずい思いをするヒース。


そんなやり取りを二人がしている間に、こっそりとさっきまでしっかり結んであったネクタイを崩していた人物がいた。

そうとは知らないアリエラが、また『あら?』と声をあげる。


「キリアン様もネクタイの形が崩れてきてますよ?結び目が緩かったのかしら?」

「え……?本当ですか?おかしいなぁ……実は、お恥ずかしながらあまり手先が器用ではなくて」


なんて、自分でわざと崩しておきながら白々しくも困り顔を見せたキリアン。

その様子に、一部始終を見ていたジルとエルマーはじとっとした目をキリアンに向けた。


狙ってそうしたキリアンと、アリエラと付き合いの長いジルは勿論、エルマーまでもこの後アリエラがなんて言うのかなんて容易く想像ができてしまった。


「なら、私が……」

「!!」

「………これはこれは、キリアン様は意外と不器用なんですね?お、れ、が、教えてあげますよ」

「……………」


案の定、アリエラが手伝いを名乗り出ようとしたので、キリアンはぱぁぁと顔を輝かせたが、すかさずジルがそのチャンスを潰した。

その瞬間、キリアンの顔はその笑顔のままピシリッと固まってしまう。


「え……君が?」

「はい。俺が」


キリアンの乾いた『はははは…』という笑いと、『ははははっ』と爽やかに笑うジル。


その姿を見て、すっかり仲良くなっちゃって…などと思いながら、『確かに、自分で覚えないと今後のためにも良くないものね!』と、アリエラは微笑む。


「ジルは教え方が上手いので安心ですよ〜」


と、暖かい眼差しをアリエラから向けられながら、キリアンはとうに所得しているネクタイの結び方を、優秀な執事であったジルから手解きを受ける。


(………どうしてこうなった)


自分もアリエラに結んで欲しかっただけなのに。

一度ならず二度までも…と、キリアンは恨みがましい目でネクタイを結ぶ手順を説明するジルを見た。


ジルの方も、既にアリエラへ明らかな好意を持っているキリアンが、アリエラと"密接な接触"をするのを妨害したかっただけなのに…と、出来る人間に指導しなければいけなくなった事を煩わしく思いながら、淡々と当たり前の手順を早口で語る。


その光景を眺めながら、男二人の心の内など知らないアリエラは。


(あら?これは、なんてご褒美スチルなのかしら!?)


美少年が二人、至近距離で寄り添いながら、親身に身だしなみを直してあげる姿はなんとも絵になる。

なんか、こう……BLゲームとかのスチルにありそうな光景だ。

"腐女子"であれば、ハァハァと興奮から呼吸を荒らげながらも『尊い』と崇めそうなほどの破壊力がある。


腐女子ではないものの、アリエラとて美しいその光景に『尊い』と、ついうっとり見惚れてしまう。


寝不足の目に、その尊さはとても染みた。




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