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目の保養は大好物ですが、恋愛対象ではありませんっ!  作者: 深月みなも
王立学院、一年生のお話
22/26

これから暮らす寮ですか?part④



**************************



アドルフの部屋で少しの間皆で会話を交わし、まだ話があるというマリベル達を残して先に自分の寮に戻った二名は、そのまま共有部の部屋の散策をして夕食までの時間を潰していた。


この頃には好奇心旺盛な新入生の波もだいぶなくなり、その部屋を使い慣れているだろう生徒が多かった。


娯楽室ではくつろぐ生徒達が。

遊戯室では白熱した勝負をしている生徒達が。

書庫には黙々と本を片手に読む生徒達が。

防音室では楽器片手に演奏を楽しむ生徒達。

広めに作られているテラスには太陽の下で優雅なひと時を過ごす生徒達。

自習室では小分けされた部屋で薬草を使った実験や魔法陣を書き込んでいる生徒達を小窓から覗いた。

食堂はまだ支度中なため生徒はいなかったが、支度に追われている人が行き交いしていた。

各寮にある温室には人はほとんど居なかったが、咲き乱れた八重咲きの青い花が一面に。

しかも綺麗とちょっと興奮気味のアリエラを見て近くにいた上級生が教えてくれたのだが、寮事に一種類の花を被らないようにと決まっていて、ここには青が美しい『ベリア』という名の花があるが他の寮は違うと教えてくれた。

なぜそんな変な決まりなのか聞いてみたが、それは今後のお楽しみだと笑ってはぐらかされてしまった。


そんな風に時間を潰していればあっという間に夕食の時刻になり、ジルと共に食堂へと向かったが、既に多くの生徒が集まり、食欲旺盛な生徒の熱気に気圧されそうになりながら何とかバイキング式の夕飯を自分のトレーに載せることができた。


ちょっと疲れながらも美味しいご飯を平らげて、日中ほぼずっと一緒だったジルとも別れたアリエラ。

自室に戻ると、疲れのにじむ顔で風呂をなんとか済ませ、ヴィーから口うるさく言われている肌の手入れをしてからまったりと過ごす。

終身の時間が近づいてくると、来るとは知っていたが点呼でやってきた()()に驚いたのはきっとアリエラだけではないはずだ。

てっきり寮長や管理人がやるのかと思っていたら、まさかのやって来たのは精霊だった。


『……………』


じっとつぶらな瞳で部屋の住人がいるのかを確認すると、にっこり笑って去っていく。


「え?可愛い………!」


思わず胸がときめいてしまった。


契約済みであろう下級精霊らしい精霊は、喋る事もなくいるかいないかの確認だけの精霊なんだろう。

それはそれで穴だらけな見回りの気もするが、精霊故に勝手に部屋の中に入り込めるので、部屋の主が寝ていても確認できるという利便性も高い。

何よりあんな可愛い子なら誰も嫌がらないだろう。

アリエラはほっこりしながら精霊を見送った。


ほっこりはしたものの疲れは抜けきらず、初日だと言うのに今日は色々あったな(主に精神的にくる事ばかり)と、ベッドに潜り込んだアリエラは、まだ見なれない天井を見つめながら今日を振り返った。


朝は浮き足立ちながらも、家族や屋敷の者達との別れに少し寂しさを覚えながら見送られ。

ジルだけではなく、夜会で顔見知りになったメンバーには無事再会でき、今のところ関係も良好に築けそうだった。

そして、入学式では色々と想定外のことがあり…放課後もそれは継続したが、やはり姉との再会は嬉しく。

予想よりも素敵だった寮についてはまだ分からないことばかりだが、ジルも運良く同じ寮の所属になったし、なんだか楽しくやれそうな気がする。


(そういえば、アカバネ様とキリアン様はどこの寮になったのかしら……。明日会ったら聞いてみよう)


入学式以降はバタバタしていたり、アドルフのところに行ったりでそこまで気が回っていなかった。

アドルフやクレイのように式にいなかったわけではないので、挨拶も済んでいるし部屋まで行く必要はなかったが……どこの寮になったか位は友達だし知りたい。

明日タイミングを見て聞くことにしたアリエラ。


「なんだかこれからがわくわくして寝れなくなりそう……」


ベッドに入ったはいいものの、今日の出来事や明日の事など考えていると、体は慣れない場所で色々ありくたくたな筈なのに眠気は一向に訪れてこない。

明日からは本格的に学院生活が始まるというのに寝不足では不味い。

アリエラは何とか眠気を呼び込もうと、古典的に『羊が一匹…羊が二匹……』と数え始める。

ちなみにこの世界には『羊』という名称の生き物はおらず、"ガープ"という生き物がそれに近い。

なので、本来なら『ガープが一匹…ガープが二匹……』と数えるべきなのだが、そこは"羊"の方がなんだかしっくりきて言いやすかったから日本式で。

どうせ声には出していないことだし。


なんて脱線した思考回路が邪魔し、羊を数える作戦もあまり意味をなさなかった。

…というか、実はあまりこれで寝付けた試しがない。

ならするなよ、というツッコミは受け付けておりません。

試さないよりは試した方がいいでしょう?が私の持論なので。


「………眠れない」


そして、眠れないという泥沼につかり始めた私。


「確か、明日は能力測定もあるから寝不足は困るのだけど……」


遠足が楽しみすぎて寝れないお子様よろしく、興奮して眠りに入れない自分に飽き飽きしてしまう。


明日行われる予定の能力測定は前世でいう体力テストのようなもので、魔法の存在するこの世界ならではの魔力測定が加わったものだ。

ある程度ここの身体レベルの確認と、魔法の適応属性と保有魔力量を測るらしいが。

魔力の方はまだいいとして、体力テストに関しては寝不足だとあまり宜しくないというのに。

どうしたものか…と頭を悩ませるアリエラ。


「興奮して眠れない…ということは、リラックス出来ればいいのよね?」


ふと、アリエラは一つ策を思いつく。

早速実行してみようと起き上がるとサイドテーブルの灯りを付け、せっかく自分の体温で適温に温まった寝具から抜け出し、目的のものを用意しに向かう。

途中、肌寒さから椅子にかけてあったカーディガンを肩からかけると少しだけ温かさが戻った。


用意を済ませた物を持って戻ってきたアリエラは、ベッドの横に置いてあるサイドテーブルにそれを置く。

アリエラがこの訪れない眠りの対策として思いつき用意したのは、落ち着く香りが仄かに漂うハーブティー。

ハーブティーはノンカフェインのものが多く、神経を落ち着けるリラックス効果も高い。味も濃くないので眠れない時には丁度いいだろうと思いついたのだ。

茶葉が湯の中で膨らみ、十分に成分が抽出できるようポットの中で蒸らして待つ。

そろそろ頃合かと、手ずから入れたティーポットを手に取ると、一緒に持ってきたカップに注ぎ入れた瞬間ふわりと温かな湯気と香りが広がる。

ランプの明かりに照らされたカップの中には薄い琥珀色が広がった。


「いい香り……いただきます」


淹れたてのハーブティーをこくりと小さく喉を動かして飲み込む。

その優しい味に、アリエラの表情も緩やかに緩んでいく。


「落ち着く味ね……」


ほうっと息をつけば、体内から温まっているので吐き出した息も僅かに温かい。

まだ肌寒い夜に温かなハーブティー。しかも優しい味で美味しい。

アリエラはハーブティーの虜になり、気づけばそれなりの時間夜のティータイムをしていた。

いつの間にかポットにあった分をうっかり全て飲み干してしまっていたて、体の内側からポカポカと十分に温まり、これなら寝れそうだと期待を込めて再びベッドに潜り込んだ。


「これなら大丈夫そう……」


その言葉通り、この数分後にはゆったりとした微睡みののち、アリエラは夢の世界へ旅立った。


………自分の犯してしまった過ちに気づくことなく。




ふと、沈んでいた意識が浮上して瞼を持ち上げたアリエラ。


寝ぼけ眼で当たりを見回してもまだ真っ暗で、今何時だろうと気にするよりも早く御手洗に向かった。

そして、ベッドに戻り時計を見てもまだまだ夜明けには程遠く、眠りに落ちてから一時間程しか経っていなかった。

起きるべき時間までたっぷり時間はあると、再びベッドの中に潜ると徐々に瞼は落ち、また夢の中へ。


そして、また少しして………むくりとベッドから起き上がる影が一つ。


その影は立ち上がるとどこかへ行き、すぐにまた戻ってきてベッドに入る。

それが繰り返されること四回目で、その影…アリエラはやっと重大な過ちを犯したことに気が付いた。


「………の、飲みすぎたっ」


萎れた花のようにへにゃへにゃとベッドに突っ伏したアリエラ。

そう、アリエラは眠りに落ちては短い時間で度々御手洗に起きるという状況に陥っていた。


それというのも寝る前にティーポットいっぱいに入っていたハーブティーをがぶ飲みしたからだ。

水分を取りすぎたことも要因だが、一番はその水分がリラックス効果があるハーブティーといえど"お茶"。大体のお茶には、"利尿作用"も含まれているという事を失念していた。

それをあれだけ飲めばこうなるのも必然。


「な、何故気づかなかったのか……」


自業自得とはまさにこの事…碌に考えずに、リラックス効果があるからとハーブティーを選び、それを美味しいからとがぶ飲みしてしまったのだから。

やってしまったと、アリエラは落ち込む。

だが反省しても、今更飲んでしまったものはどうにもできない。この分だと、また眠れてもすぐに起きる事になるのだろう…。

アリエラは重たい溜息をつきながら、出来ればこれで最後にして欲しいと願いながら瞼を閉じた。



……が、あれだけ飲んでそう都合よくいく訳もなく。

そんなこんなであの後も御手洗が近いせいでまともに眠れなかったアリエラ。


気づけば外は朝日が登り始め、室内には薄らと光が入るほどになってしまっていた。

疲れた顔で窓の外を見つめるアリエラ。


「結局、あまり眠れなかった………」


良かれと思ってやった事が裏目に出てしまい、結果、学院生活二日目の朝をアリエラは寝不足で迎えることとなってしまった。

今から寝る訳にもいかず、仕方なく予定より少し早いが朝の支度に取り掛かる事に決めベッドから降りる。


ぼんやりとした頭で洗面所に向かうと、冷たい水で何度か顔を洗って意識を覚醒させる。

冷たい水のお陰でぼんやり気味だった意識も少しはっきりしてきた。

歯も磨き、制服に着替えてドレッサーの前に腰掛けたアリエラ。

次は髪の手入れをしなければ…とそばに置いてあった櫛にオイルを含ませて髪にあてる。

本当はオイルを含ませて…なんて面倒ではあるが、ヴィーから梳かす際に櫛にオイルを染み込ませて髪を梳いてくださいね!と口をすっぱく言われているのだ。守らないと、屋敷にいるヴィーが怒ってしまう。

その姿を想像してしまいくすりと一人小さく笑った。


一通り髪の手入れは終わり、後は髪を結って化粧をするだけになったが、アリエラはじぃっと鏡の中に映る自分を見た。


「今日は体も動かすことになるし、邪魔にならない髪型の方がいいわよね?」


アリエラの髪は長くて運動をする時は邪魔になる。汗もかくだろうから普段体を動かす時ように、簡単なポニーテール程度でいいかと、後頭部の高い所で髪をまとめてリボンで縛る。

これは決して手抜きなどではない。


そして、同じ理由で化粧も本当に整える程度のものでいいだろうとかなり工程を減らした。

化粧水などで整えた肌に軽く下地とパウダーを乗せ、眉を整える程度に描いて終わらせた。

寝不足とはいえ一日程度では目元に隈も出来ないから隠すものはないし、しっかり化粧をした所で逆に汗でぐちゃぐちゃになってしまうだろう。

その方が手直しが効かなくなり怖い。

これも決して、手抜きなどではない。断じて。


全てが終わる頃には、一人初めて行ったにしては時間にも余裕があるうちに終わらせることが出来た。

最低限の事は守っているので、周りから見てとやかく言われることはないだろうし、この位のレベルならジルも文句は言わないはずだ。


支度も早めにできた事だし、どうせならジルを驚かせてしまおう。

きっとジルのことだ。私が支度に手間取り遅刻ギリギリになると思っているはずだ。

そんな私が完璧に支度を終えて、自分の部屋に迎えにまできたらさぞ驚く事だろう。

アリエラはにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべ、手早く荷物を鞄に詰め込むと部屋を出た。

そして、『509』と書かれたプレートが掛る扉の前まで足早に向かうと。


ふんっと鼻息荒く扉をノックした。


「…………」


出てこない。

再び、コンコンと扉をノック。


「…………」


返事もない。


「え、まさか、あのジルが寝坊…?」


まだ寝てるのでは?と思ったアリエラら驚くと同時に、ジルの珍しい失態に不謹慎ながらも喜んだ。

なんせジルは昔…はともかく、最近は執事業も隙のなく完璧こなしており、若いながらに有能人物と言われていた。

長年共に過ごしていても、完璧過ぎて若干引く程だ。

そして、対照的にその側に居るアリエラの粗が目立つ……。


(流石のジルも、入学初日で疲れてたのかしら?まぁ、何でもいいわっ!これで日頃とは立場逆転できるっ)


アリエラはご満悦の表情で再び扉をノックし、今度は『ジル〜?まだ起きてないの?そろそろ起きないと遅刻するわよ?』と中にいるだろうジルを起こすために声もかけた。

それでもなかなか返事も返ってこず、中で物音ひとつしない。

アリエラ根気強くノックしては声をかける作業を続けた。

すると、ガチャリとドアノブを回す音が聞こえる。


………ただし、隣から。


「あ、あのぅ…多分隣の方ならもう部屋に居ないと思いますよ…?」


「え??」


「少し前に出ていく音が聞こえたので…」


言い辛そうにしながらも教えてくれた。

その事に初めはぽかーんとしていたアリエラの顔に徐々に熱が集中してくる。

きっとアリエラがジルが寝坊したと勘違いして中に向かってかけていた言葉もお隣には聞こえていたはず。

そう思うと、勘違いして延々と声を掛けていた滑稽さに羞恥心が湧き上がった。


「…あ、そうだったんですか………」


故に、俯き気味に蚊の鳴くような小さな声しか絞り出せなかった。


アリエラが一人羞恥に耐えていた時。

その原因をつくったジルはというと。


アリエラの部屋へ行き、同じくノックしても返事もない状況にアリエラが寝坊しているのでは?と、同じ勘違いをして外からひたすら声をかけていた。


それはアリエラが三階に降りてくるまで続いていたので、三階まできて『アリエラ、いい加減起きないと本当に遅刻になる!』とだんだんと声量を増し必死に叫びながら扉を叩くジルを見つけた瞬間、更に羞恥で死にたくなったという。


アリエラの部屋…そしてその前にいるジルの周りには軽いギャラリーが出来ていて、完全に"アリエラ"と言う子が寝坊して友人に迷惑をかけている…と認識されているだろう。

アリエラは、少し離れてその光景を見ながら、ひそひそと話すギャラリーに目を背けたくなった。

だがそのままジルを放置していく訳にも行かず……。


「ジル……私はここよ」


顔を真っ赤に染めたアリエラが、おずおずとギャラリーの隙間をぬいジルを呼んだ。

その瞬間数多の視線を受けたが……、気にしない。気にしちゃいけない。そう必死に言い聞かせる。


「………え?」


アリエラの声に振り向いたジルは、散々呼んでいたのに返事がなかった人物が後ろにいたこともそうだが、アリエラを通り越した後ろにいるギャラリーを見て目を大きく見開く。

入学して早々アリエラを遅刻させるわけにいかないため必死で起こそうとしていたので、ジルもあまり周りにまで気を配れていなかったのだ。

変に注目を集めてしまったことに、内心ではしまった…と思いながら、もう一度視線をアリエラへと戻す。

顔を真っ赤にしながら何とか逃げずに目の前に留まっているが、これはかなりキている。

あと少しでも恥ずかしいと感じることがあればアリエラはすぐにでもこの場から走り去りそうだ。

そう思いながら何と口にすればいいか悩んでいると。


「……早起きしてジルを迎えに行ったのだけど、入れ違いになってたみたいね………」

「………」


何故アリエラが部屋ではなく外にいるのか…と言う疑問の答えを先にアリエラが教えてくれる。

いつもがいつもなので、ジルの勘違いも仕方がないことだと言えなくもないが、自分の確認不足で大事になってしまったとジルは顔を掌で覆った。


(まさか、アリエラが一人で早起き出来ている上、支度まで済ませているとは…完全に予想外だった。せめて部屋で待っていてくれれば…)


本来であればあのアリエラが一人で起きて問題なく支度を済ませていたことを喜び褒めてあげたいところだが、尽く全てが裏目に出てしまっている。

決してアリエラは悪いことはしていないのだが。


周りに人がいるということは、アリエラの名を叫んで"寝坊"だの"遅刻"だの言っていたのもばっちり聞かれているだろう。

勘違いだと分かった今、叫んでいたジルも勿論恥ずかしいが、叫ばれていた相手であるアリエラも相当に恥ずかしい思いをしたはず。


ジルは何とかこの場をどうにかしようと、短時間で頭をフル回転させた。


「すみません、俺の勘違いで……アリエラが寝坊するはずなかったですね。慣れない環境で俺が神経質になりすぎていたみたいです。皆さんも、騒ぎ立ててしまい申し訳ございませんでした」


覆っていた掌を剥がすと、途端に申し訳なさそうに眉を下げた顔でアリエラ…次にギャラリーに向かって謝罪をしたジル。

あたかも自分が大袈裟に心配しただけで、アリエラは普段からしっかりしているのに…と言う風に周りに伝えてみる。


……実際は、普段のアリエラを知っていればジルの心配が正しいのだが。


その事実が知人のみにそれが広まるならばいいが、その他大勢の他人に知られるというのは、流石にアリエラも避けたいだろうと配慮した結果だ。

それが自爆であれば、それはそれで周知の事になっても仕方ないが、今回はアリエラに何ら非はない。

ジルなりに、アリエラを庇おうと演技をしてくれたようだ。

それにこれなら友達思いの子が勘違いしただけ…とジルの事も良いようにとってくれるだろう。


ジルの演技が功を奏したのか、周りは何だ〜、気をつけてね、と直ぐに飽きて笑いながら人々が散っていく。

人がまばらになると、途端二人は同時に重々しい溜息を吐き出した。


「…は、恥ずかしかった」

「…ごめん」


顔を両手で覆ったアリエラがそう呟き、ジルが改めて謝る。

両手を離したアリエラは、まだ赤い顔でジルに近づくと、ジルの両頬をつまみ思いっきり左右に引き伸ばす。


「ジルのバカ!バカ、バカッ!」


半泣きで容赦なく頬を引っ張りながら文句を言うアリエラ。

今回は自分が悪い…と、甘んじてそよ仕打ちを受けようと、ジルはアリエラの気が済むまで頬を好きにさせた。


お陰で、アリエラの気が済む頃には、せっかく余裕を持って部屋を出たはずなのに、結局はギリギリで二人は学院に行く羽目になったのだ。



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