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目の保養は大好物ですが、恋愛対象ではありませんっ!  作者: 深月みなも
王立学院、一年生のお話
20/26

これから暮らす寮ですか?part②

長らく更新が滞っており申し訳ございませんでした(--;)

久しぶりの投稿なのでもう忘れ去られているかもしれませんが…続きを書いたので、もし良かったらお読みください:(´◦ω◦`):



**************************




自室で下階からの賑やかさを聞き、開けた窓からは緩やかな風が流れ込み、上階からは僅かな足音が聞こえてくるのを聞きながら、ぼうっとしていたアリエラ。


いっそ寝てしまいたいほどの緩やかな時間ではあったが、そんなに長いこと待たされずにジルが迎えに来てくれたので、アリエラは僅かに訪れかけていた眠気を吹き飛ばした。

換気がてらに開けていた窓は閉め、貰ったばかりの鍵で部屋の扉をしっかりと施錠し、ジルと共にだいぶ待たせてしまったマリベル達と合流すべく早速第一寮へと向かった。


同じ区画内の移動のためたいした時間もからずに第一寮へ着くと、玄関ホールに新入生のための案内役に配置されていたはずの寮長の姿は既になかった。


まぁ、当然といえば当然だろう。

新入生であるならば通常、特に学院に留まり済ませる用などない。

なら寄り道などせずに皆が寮へと向かうのだから、余程のことがなければとっくに全員が案内済みなのだ。

第三寮だってアリエラとジルが最後だと言っていたし、部屋に寄ったあと下へと降りてきた時には既に我が第三寮の寮長の姿もそこにはもうなかった。

本日の役目は終わったと言うことだ。

ならば、アリエラ達のような生徒はいなかっただろうここは、もっと早くに寮長は役目を終えて撤退していても何もおかしいことはない。


ならば誰に聞けばマリベルの正確な部屋がわかるのか?


アリエラが問うよりも早く、ジルがすたすたと意志を持って先を歩いていく。

その迷いのない動きに、アリエラは不安を感じることなくジルの後をただついて行った。

ジルのことだ、対処法など把握しているだろう。


行先は玄関ホールの隅にあった『管理人室』と書かれた部屋の前。

なるほど!とアリエラは納得する。

これだけの規模なのだから学生や教師だけで管理するはずもない。

良く考えればすぐに行き着いただろう考えを、ほぼ答えを提示されたも同然の状況に至ってから気づいたアリエラ。


管理人が各寮にいるならば生徒の各部屋もわかる。これならマリベルの部屋もすぐに分かりそうだと、難なく問題が解決しそうな雰囲気にアリエラは顔をほころばせた。


入口にあったドアノッカーに早速手を伸ばして数度ドアにぶつけて音を鳴らすと、来訪に気づいた部屋の主が顔をのぞかせ、『どういった御用ですか?』とゆったりした口調でアリエラ達に問いかけた。


「こちらに入居した友人の部屋に行きたいので、正確な部屋番号を教えていただけたらと」

「なるほど、ならその方のお名前は?」

「同じ新入生のマリベル・ヴァレトリーと言います」

「ちょっと待って下さい…あった、ヴァレトリーさんは820室です。中に入るなら、ここに日付と貴方達の名前を書いて下さい。玄関ホールまでなら必要はないのだけど、他の寮の中へ入る場合はどこの寮でもこの手続きが必要になるから、忘れないように」


マリベルの部屋番号を教えてくれるだけではなく、他の寮へ入る場合の手続きも教えて貰った。

新入生ということもあって教えて貰った規則を頭に留め、親切な管理人さんにお礼を言いながら、ジルとかわりばんこに記帳を済ませて寮の中へと入れてもらう。


同じ作りなので、迷いもなく八階のマリベルの部屋を二人で目指す。


前世で言えばマンモス校とも言える学院の寮は、それに相応しく規模も大きく、収容人数もたっぷりの作りではあるものの、その分横よりは縦に長い。これがまた問題だった。

八階まで行くとなれば、ここには化学の恩恵をたっぷり含んだエスカレーターもエレベーターもない…つまりは上がりたい階数分を全て自らの足で登りきらないといけないのだ。


体力には自信がある方だが、前世で快適な生活に浸りきっていたアリエラも八階となると流石に面倒臭さは拭えない。

けれど上がらねば辿り着けない。

仕方なく、黙々と階段を一段一段踏みしめる。


たまに魔法を使ってショートカットしている生徒も見かけるが、恐らくあれは上級生だろう。

移動系の魔法は操作が複雑で難しく、習得までに時間がかかる。

すでに魔法を自主的に学んでた者か、余程魔術的才能に恵まれた()()でない限り、入学したての知識も経験も浅い生徒が使えるとは思わない。


そして、アリエラは勿論()()ではないのだ。

かといって魔法自体は幼い頃から習っていたので使える術も種類もあるが、()()()移動魔法については未取得だ。

正式じゃないものとは?そりゃ、良い子は真似しちゃだめですよ!と声高らかに注意できる様な技である…とだけ言っておこう。

危険度&難易度はそれなりなので、アリエラ自身よく怒られるくらいだ。

使用者であるアリエラ自身は全く心配も恐怖もないのだが、周りから見たら非常にひやひやするような代物らしい。

なので、ここでも勿論使用不可。

というか、もし使用したらどこかしら壊すかもしれない。…というか確実に壊す気がする。うん、壊す。

それが分かっていてわざわざ使うほどアリエラは非常識でも、怖いもの知らずでもない。


(損害を与えた場合の賠償金、寮管理者ならびに学院からの処罰。連絡がいった家族と使用人、そして僅かに先行くジルからの大目玉という怒号を貰う罰と説教。アリエラを躾ける為の肉体的に与えられる罰。あれ、なんだか私への罰多くないか?)


そんなことを考えながら、時々魔法を行使してすれ違う人達を羨ましそうな、恨めしそうな…そんな目で眺めながら上を目指した。

いっそ使ってしまおうか…と思うほどには疲弊しているのだ。

因みにジルは全く気にした様子も疲れもなさそうだった。


二人はやっと長い階段を八階まで事務的に登りきると、部屋番号を確認しながら長い廊下を練り歩き、数個分の扉を見送った。

そしてマリベルの部屋を探し当てると、分厚い扉をコンコンと早速ノックする。

ちゃんと部屋の主はいたようで、中から『どちら様?』と凛とした声が聞こえてくる。

まだ部屋にいてくれたようでほっとする。

もしかしたら遅くなりすぎてしまったので、待てずに出ているかもしれないという可能性を心の住みに抱いていたからだ。


「マリベル様、待たせてしまってごめんなさい。アリエラよ」


安堵と共にそう扉越しに声をかけると、程なくして内側に扉がスライドした。


そこから顔を出したのは、金の髪がとてもよく似合う少しつり目の可愛らしい女の子。

この部屋の家主、マリベル・ヴァレトリーだ。


つり目と聞くとキツそうなイメージがついてくるが、マリベルはその目をふにゃりと緩めて出迎えてくれたので、むしろそのギャップが愛らしさを増していて、怖いより可愛い言う表現の方が彼女にはしっくりくる。

笑顔で『お待ちしてました』とアリエラと後ろにいたジルに微笑みかけ、一度中へと招き入れてくれた。


正直、マリベル達一行にはまだ詳しくは聞いていなかったものの、従者連れでの入学…しかも三人もとなると、明らかに高位貴族またはそれに匹敵するほどのお金持ちだろう家の娘であるマリベルの私室に、学院在学中は"身分など関係なく皆対等に"と言う大義名分と、ジルを待っている間に読んだ飛ばし飛ばし読んでいた寮の規則で知った"私室は男女関係なく出入りして良い(ただし節度は持つ事)、と書かれていたことを盾にすれば問題はないはずだが。

私は女なのでともかく、ジルは…だ、大丈夫だろうか?

ちらりとジルを見たが特に気にした風もない。

私の方がそわそわとしていると、その様子を見てマリベルが察したのか『あ!』と小さく手を口元に当てた。


「アリエラ様、大丈夫ですよ。部屋には…」

「お嬢様~、アリエラ嬢か?」


マリベルが説明するよりも早く、部屋の奥からヒースが顔を覗かせた。少し遅れてエルマーも顔を覗かせる。

どうやら彼らもマリベルの部屋で一緒に待っていてくれたようだ。


「あ、ヒース様とエルマー様もいらしていたんですね」

「はい。二人共私の連れとして入学したので寮も同じなので、お二人が来たら呼びに行ってもよかったんですが、集まってた方がいいかと思いまして」

「そうだったのですね。ありがとうございます」

「丁度お茶のお代わりを用意していたので、お兄様の元に行く前に少しどうですか?」


マリベルの提案にヒースが賛同し、エルマーはいつの間に用意したのか手にはトレーを持っており、その上にはポットとカップが五つ乗せられていた。マリベルが言い出す前にそうなると予測していたのだろう。何とも気の利くことだ。


「いいのでしょうか?その…」


マリベル達からの言葉にアリエラは言葉を濁し、目を泳がせながらもさり気無くジルを気にする。

するとふわりと笑ったマリベルがそっとアリエラに身を寄せ、耳元でこっそりと囁く。


「ふふ、お気遣いありがとうございます。……殿方に見られて困る物はしまってあるのでお気になさらないでください」


アリエラが言いたいことを察していたらしい。

懸念を払ってくれる言葉にほっと胸を撫で下ろしたアリエラは『なら、お言葉に甘えて』と微笑み返した。

腕を絡めるようにして、上機嫌なマリベルはアリエラを部屋の奥に連れて行った。

それを微笑ましそうに眺めるヒースとジル。

その間にエルマーはテーブルの上で黙々とお茶の準備を進めていた。


「さ、座ってください。エルマーの入れるお茶は美味しいんですよ」


促されるままアリエラは席につき、その隣に腰を下ろしたマリベルがエルマーを褒める。

それに少し照れくさそうにエルマーが『そんなことは…』と小さく言う。

一度お湯を注ぎ温めたカップのお湯を捨てると、手際よくポットから十分な時間蒸らした香りのよい琥珀色の液体が五つ分のカップに注がれていく。

その流れる様な手際の良さは本当にすごい。


準備が整ったところで、ヒースとジルもテーブルまで来たのでお茶会開始…といきたいところではあるが、アリエラははたと気付く。

……椅子の数が足りない。


自身の部屋もそうだったが、寮の個室の部屋に備え付けで与えられているのはベッドとワードロープ、勉強机と椅子のセット、ティータイムや来客でも使える小ぶりな丸テーブルと椅子が二脚だ。

元々三人で居たため、テーブルには勉強用の椅子も引っ張ってきて三脚あったようだが、そこに私たち二人が来てしまったので二脚足りなくなったのだ。

先に座らせてもらったが、そのことに気づいて慌ててアリエラは立ち上がる。


「ごめんなさい!ヒース様とエルマー様の椅子なのに!」


急いで椅子を引き、離れようとすればそっとその背に手を添えられた。


「大丈夫…お客様なんだから、座って?」


こてりと首を傾げてエルマーからお願いされてしまった。

少し長めの髪が揺れ動き、エメラルドのような輝きがちらりと垣間見える。その瞳は優しさを含んでいた。


「そうだよ~?お客様はもてなされてて!という事で、あと一席はジルで、エルマーはこれに座って。ちょっと高さ足りないかもだけど我慢しろよ〜?俺は立ったまま飲むの慣れてるし、こっちの方が正直楽だから。まぁ、行儀悪いって小言貰うことが多いけどなぁ〜…」


ヒースがエルマーに同意し、ジルを残りの席に押し込むと、ドレッサーの前にあったスツールタイプの椅子を運んでくる。エルマー用に持ってきたらしい。

備え付けの家具と違い、持ち込み用のドレッサーは簡易用の小さいサイズではあるが凝った作りをしていていいものだと分かる品だった。そしてそのセットであるスツールも勿論とても座り心地のよさそうな座面に、凝った装飾が施されていた。

それを渡されたエルマーは『それはお嬢様の物だよ。僕も立つから平気』と言ったが、マリベルから『別に気にしないわよ?』と勧められてしまいしぶしぶ座ることに。

やっぱりドレッサー用に合わせたスツールではテーブルに対して気持ち低めになってしまったが、一番年下とはいえ背格好はアリエラとそこまで変わらない程度あるエルマーはそこまで不便ではなさそうだ。


それにしても、似たシーンが直近であった気がする。…うん、あったな。


「ふふ、今日の朝もこんな感じでしたね」

「そういえばそうでしたね」


思い出して思わず笑ってしまったアリエラにつられてマリベルも笑い出す。

今朝も席の譲り合いが合ったばっかりだ。そう考えると優しい心根の人ばかりだなと思う。

そしてさっきも今回も損な役周りになってしまったヒースに視線を向けた。


「すみません、ヒース様ばかり」

「ん?別に気にしなくていいよ。本当にこの方が気楽なんだ」

「そうですよ。ヒースは昔からこんな感じで、譲ったというよりは礼儀や作法に縛られるのを好まないんです。だから行儀悪いことをしてよく周りから怒られていました」

「ほらなぁ?」


アリエラの謝罪にマリベルの補足もあってにこっと笑って返してしてくれたヒース。

堂々と言っていい話なのかは疑問だが、こちらが気遣わないように配慮してくれているのもあるのだろう。

年はそう変わらないのに気遣いが優しいお兄ちゃんのようだ。


「それより、折角だからあったかいうちに飲もう」


なかなか飲むに至っていなかった紅茶を勧める様に、立っていたヒースがテーブルから紅茶の入ったカップを一つ攫っていくと、壁を背に寄りかかるようにして一足早く紅茶に口付けた。


「はぁ、うまぁー」


ごくごくと流し込むような豪快さに笑ってしまいそうになるが、本当に美味しそうに飲んでいるのでアリエラも頂きますとカップに手を伸ばした。

手に取ったカップを口元で少し傾けると、熱すぎず丁度いい温度の紅茶が流れ込んでくる。

その味はしっかりと茶葉の深みがあるのに仄かに甘味を含む美味しい紅茶だった。


「美味しい!茶葉自体もいいものなのでしょうが、エルマー様の素晴らしい手際だからこそこんなに美味しいのでしょうね。渋みなどなく、香りが引き立つ絶妙な加減で…とても美味しいです。私なんか、十回に二回くらいしか上手く入れられないのにすごいです!見習いたい……」


私も寮暮らしになるにあたって、紅茶の入れ方もヴィーから伝授されているが、その出来栄えはよくて中の中。そして入れる紅茶の味はいい時は中の中、悪い時は渋みの強い下の中の液体が出来上がってしまう。

つまりトータルでは並み以下。


なのでここまで無駄なく綺麗な動きで美味しいお茶を入れることのできるエルマーは控えめに言っても尊敬に値する。ましてや男性がここまでできるとは…尊敬もだが、少しの女子として敗北感も同時にアリエラに与えられた。

そんなアリエラからの心からの称賛と僅かな落ち込みに、エルマーが少し耳を赤くしながら『そんな事ない』と小さく声を漏らす。


「僕も初めは下手だったから…数をこなしていくうちできるようになっただけ。アリエラ、さんも…きっと大丈夫。……駄目だったら、また僕が入れてあげる」


最後の方は小声になっていってしまってエルマーの勇気を出したアピールは聞き取り切れなかったけど、優しい励ましにそうですね!と今後の為に自分でお茶を入れる機会を増やしていこうと意気込む。

その横でマリベルはエルマーの態度にあら?と少し首を傾げ、ヒースはにまにましていた。

ただ一人、ジルだけは『一緒に頑張ろう』とアリエラに向けて笑っていた。

ジルのこの言葉にエルマーに対する牽制の意図があるなど気づくはずもないアリエラは、執事業務の中でお茶の用意もそつなくこなしていたジルも一緒なら心強いわと、更に意気込んだのであった。




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