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目の保養は大好物ですが、恋愛対象ではありませんっ!  作者: 深月みなも
アリエラ、入学前のお話
13/26

思い出しましたか?




***************************





─────ということがあったな…と。



ジルと二人テラスの端で一生懸命頭を捻っていたアリエラは、思い出していった出来事を大まかにだが語った。


「……という事があったわね。でも、ほんの少し話したくらいだし、知らない人も居るわよ??何故そんな人達が私の所に駆けつけてくるの?」


この夜会までであったことと言えばそれぐらいだ。

これ以上はいくら頭を捻っても思い出せることはない。


「…お嬢様が関わったからでしょう」

「だから、こんな事になるほど関わってはないわ」

「それはどうだか……」

「というか、さっきからなんで執事のままなの!?今日は違うのに!!」


ジルはアリエラを疑いの眼差しで見ている。

少なくとも一人はそれなりにアリエラが首を突っ込んだ結果、先程からアリエラを探していたのをジルは知っていた。

何せ、アリエラの行きそうな場所を知っているジルが、頼まれてここに彼を連れてきたのだから。


そして今日は自分も招待客であるにも関わらず、何故執事の時の話し方なのかと言うと、またアリエラが面倒事を増やしたことが面白くないと、不貞腐れた結果だからである。

だがアリエラには答えてあげなかった。


「はぁ……とりあえず、あれをどうにかしましょう」

「そ、そうね!」


未だに逃がして貰えず蛇に睨まれた蛙状態の男が流石に可哀想だ。


「あ、あのー……皆様?私が言うのもあれなんですが、とりあえずその方を会場に戻して差し上げては如何でしょうか?私は大丈夫なので」


人垣の後ろから恐る恐るといった様子で声をかけた。

アリエラからかかった声に、一斉に皆から振り返られて思わずびくっと肩を揺らしてしまったが、何とか作ったにこやかな笑みで『そちらの方もびっくりしてますし』と告げると、輪の中にいた男がぶんぶんと首を縦に振った。……随分と力強い肯定だな、そんなに怖かったのか。


「良いのか?この男のせいで困っていただろう」


グレーアッシュの髪の青年がアリエラに言う。

確か彼はウォルドの森の帰りに会った人だ。


あの時の旅装束とは違い、今日は細身のタキシードに身を包み、髪の襟足の長い部分を今日は一つに束ねている。

一緒になって男を囲っていた二人も、ウォルドの森の帰りに彼と共にいた二人だ。


「クレイの言う通りだよ〜?相手の気持ちも良く知ろうとしないで、強引に誘うのはマナー違反だから。しかも勝手に身体に触っちゃダメでしょ?」


猫目の少年はやはり正装していて、ただ窮屈なのか少しだけ着崩してるのが、その風貌に逆に似合っていた。

明るい声音でそう言いながらずいっと囲んでいた男に顔を寄せたが、その顔には不敵な笑みを浮かべている。

そのせいで蛙男……いや、間違えた。囲まれていた男がひぃぃとまた弱々しく泣(鳴)いた。


そして彼の言葉から、先程のグレーアッシュの青年はクレイという名なのだろうと言うことは分かった。

あの時名前をお互い聞かなかったから知らなかったんだよね。

クレイさんね、覚えました。


「反省…させないとダメだと思う」


言葉少なに言ったのはあの具合の悪かった少年だ。


初めて会った時は顔色も悪く、少し長い前髪でせっかく綺麗なエメラルド色の瞳が見え辛かったけれど、今日はセットしているからか瞳がよく見える。

顔色もこの前と比べてとても良い。

まだあどけなさが残る顔だ。童顔なのか、本当に幼いのか…どちらだろう?と、今気にすべきことじゃないことが気になってしまった。


「そうですわっ!貴女にあの様な顔をさせたこの男は許してはいけませんっ」


そして言った女の子は、綺麗な金髪を肩口で揃えていて内巻きにした、少しつり目の可愛らしい容姿の女の子だ。

この子とは会った記憶も、話した記憶もない筈だが……何故こんなにもアリエラがされた事を怒っているのだろうか?全く分からない。

………どちら様でしょうか。


「マリベルの言う通り、無礼な態度をとったのは彼だ。礼儀も知らない者には相応の罰が必要だよ」


あ、金髪の女の子はマリベルって言うんですね。教えてくれてどうもありがとうございます。


アリエラが浮かべた疑問を都合よく解決してくれた青年に、思わず心の中でお礼を言ってしまう。

でも私、貴方の事も見覚えないのですが…どちら様ですか?どうせなら、そちらも教えていただきたいです。


「お前がいいなら構わないが」


素直に身を引いてくれようとしたのは、あの夜会の日に大泣きした姿を見られてしまった和の国の人だ。

それに気づいた途端、何故ここに!?と、あわあわとアリエラは慌てる。

さっきまで奥の方にいたから見逃していた……。


(お願いだからあの日のことは言わないでくださいっ)


テレパシーなど出来ないので届くはずはないが、内心でアリエラは強く願う。


大泣きしたこと自体が恥ずかしいし、あの日皆には『まつ毛が入って』と誤魔化していたのに実は違いますってなったら、この場にいる嘘をついた人物…ジルには確実に追求されちゃうから!

お願いーっと念を送るように願っていると、伝わったのか…はたまた都合のいいアリエラの勘違いか。

和の国の服に身を包んだ彼はふっと優しく笑って

見せた。


そして、もう一人。


「彼女にした非礼を詫びてもらいたいのだけど?君、女の子の扱いがなってないんじゃない?そんなんじゃモテないよ?嫌われる典型的なタイプだよね」


これまた見覚えのない少年が、にこやかに毒を吐いていた。


サラサラの青みがかった銀髪は両サイドが長く、少したれ目なので中性的に見えやすいが、細い眉はキリッとしていて男らしさもある。その絶妙なバランスがまたいい。

その上このように正義感もあり、女性にも優しいのであれば、容姿も相まってとてもモテるだろう。

そんな彼から言われると、『モテないよ』という言葉にはかなり説得力がある。

言われた方のダメージもさらに深そうだ。


ただね?……本当に、どちら様なんですかね??



皆三者三葉にバラバラなことを言い、アリエラの言葉通り身を引こうとしてくれる人もいれば、男にまだ怒っている人もいる。


(あぁ〜!これ以上どうしたらいいの!?当の本人がいいって言っても治まりそうもないんですけどー!!)


頼みの綱のジルを見れば、やれやれと首を振っている。


「ジル、ちょっと手伝っ………」

「「お姉ちゃーーん!!」」


困り果てていたアリエラの元に、元気一杯の声を上げながら飛び込んできた何かが、小さな衝撃とともにお腹に巻きついた。



あれ、なんかこれ…覚えがあるぞ。



え?と見下ろせば、見覚えがありまくる二人の小さな子供がアリエラを満面の笑みで見上げていた。


「お姉ちゃん、また会えた!」

「お姉ちゃんみぃつけた!」


それぞれがお姉ちゃん!とアリエラに元気よく話し掛けてくる。


「あら、カミューとセレナ??貴方達どうしてここに?」


ここは学院に入学する生徒の為に設けられた場だ。

どう見てもまだまだその歳には程遠い二人が何故ここに居るんだろう?とアリエラは疑問に思いながらも、抱きつく二人の頭をいつかの時のように優しく撫でてやる。

嬉しそうに撫でられながらも、二人はアリエラの質問に答えてくれる。


「あのね!兄様が学院に入るから、今日は一緒にここに来たの!」

「母様も一緒だよ!」


そう言ってそれぞれが別の方を指さした。

カミューは男を囲っている内の一人、先程にこやかに毒を吐いていた少年を。


そしてセレナは会場の方を指さしていて、よく見ればアリエラの母リディアと、何故か体を抑え込まれているウィルがこちらを見ながらなんだか怒っている。


(な、なんでウィルはあんなに怒っているのかしら……珍しいわね)


普段滅多に怒らないウィルが怒るなんて何があったのだろうと思いながらも、アリエラはその場にジルのお母さんであるティアナと、その隣に知らない婦人も一緒にいることに気づく。

カミューとセレナの指さした先がそこで間違いないのであれば、目の前にいる彼が前に話していたお兄さんで、母の傍にいる婦人がお母さんなのだろう。


「そうだったの。教えてくれてありがとう」

「この子達のお母さんが、今日の夜会にディーベルト家が来てるのかって聞いていたらしくて。どうやらお嬢様のことを探していたようです。それで、奥様のところに会いに来たけどお目当てのお嬢様がいないので、俺と…この子達の兄である彼とでお嬢様を迎えに来たんです」


横にいたジルが補足するようにもう少し詳しく教えてくれる。

相変わらず何故か執事口調のままではあるが。


「それなのに、いざ来てみればお嬢様は変なやつに絡まれていたのでお嬢様を助けに入った……というのが俺と彼の経緯になります。他の方々は知りませんが、先程お嬢様が思い出した内容を聞いた限り、ウォルドの森の帰りに助けた方三名は恩人が絡まれているのを見つけて…と言った所でしょうか?」

「恩人って、魔石をあげただけなんだけどな……」


そんな大したことはしていないのに、どれだけ義理堅いんだ。


あ、でもそう言えばお礼を断るために『次会った時に困っていたら助けて』的なことを言ってしまっていた……そのせいか。

余計なことを言ってしまったと過去の自分を叱った。


「だとしても、あそこの二人は全く知らない方達だし、和の国の人は寧ろ私が迷惑を掛けたぐらいなんだけど……何故に?」

「それは俺にもわかりませんが……和の国の方にはちなみに何をしたんですか?先程の話では庭園に行った時に偶然会ったので挨拶をしたとしか言っていなかったはずですが」


しまった!さっき話す時にそういう事にしたんだった!


「えーっと、まつ毛が入って泣いてる時にハンカチを貸してもらって……」

「……本当ですか?」

「本当、本当っ!」


うわー…その目、めっちゃ疑ってるじゃない。お願いだからそれ以上追求してこないでっ。

ジルの視線から逃れるように、アリエラは子供達に視線を向けた。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「眉毛がへにゃってなってるよ」


心配そうに見上げられて、ちょっと困り事なの…と返す。


「お姉ちゃんが困ってるなら僕が助けてあげる」

「私も助けてあげるよっ」


愛らしく頼もしい二人に、アリエラは思わずしゃがんで顔を擦り寄せた。


(あー………癒される)


擽ったいよと言いながらも二人もすりすりとしてくるので、危うく目の前の現実逃避しようとしてしまった。

すかさず横にいるジルから『お嬢様』とお叱りを受ける。


(だって、これ以上私にはどうにも…………)


子供達に癒されながらも、私にどうしろと?と考えて、突然アリエラに名案が浮かんだ。


「ねぇ、お姉ちゃん二人に甘えても良いかな??」

「「いいよー」」


カミューとセレナに聞いてみると、声を揃えて『いいよ』と返事をしてくれた二人に、アリエラは先程思いついた作戦をこそこそと耳打ちする。


「……どう?できるかな?」

「任せて、お姉ちゃん!」

「うん!できる!」

「二人ともありがとう。じゃあ行こうか?」


仲良くカミューとセレナそれぞれと手を繋ぎながら人垣のすぐ側まで行く。

そしてもう一度そこにいる皆に声をかけた。


「あの、少し宜しいですか皆様」


どうしましたかともう一度振り向いた皆にアリエラは困り顔を見せると、皆の視線が集まったのを見計らって両サイドにいたカミューとセレナが大きな声で言った。


「お姉ちゃんがね、困ってるから、もうその人許してあげて?」

「その人、反省してるからもういいんだって。私の大好きなお姉ちゃんのこと困らせちゃ嫌だよ…」


可愛らしい子供達からの言葉に、ぴしりと固まった皆。

これは効果抜群とみた…この作戦は上手くいったかもしれない。


「皆様の優しさにはとても感謝しておりますが、そういう事ですので…どうかその方を解放してあげてください」


やっと聞く耳を持ってくれたようで、囲いこんでいた輪は解かれて中からびくびくとした男が出てくると、半泣きですみませんでしたーっと早口で謝りながら走り去って行った。

その名も知らぬ青年を、哀れみのめで見ながら見送るアリエラ。


「皆様、助けて下さりありがとうございました」


漸く事態を解決できたので、アリエラは哀れな青年を見送った後、改めて助けに来てくれたことへの礼をそこにいる者達へと述べた。

皆それぞれがいや…だのそれほどでも…だの言っている。


アリエラは手伝ってくれた二人にも、ありがとうと笑うと二人も誇らしそうに笑った。


「カミュー、セレナ。いつまでもアリエラ嬢に引っ付いていたら迷惑だろ。おいで」


まだアリエラの傍にいるカミューとセレナを手招きしているのは兄という少年だ。

別に迷惑ではないのだが、家族である兄の方が二人も良いだろう。

そう思ってら腰に抱きついている二人の背に回していた手を退かしてあげれば。


「やだっ!お姉ちゃんがいい。お姉ちゃんは僕らがいたら迷惑?」

「そんなことないよ〜?寧ろ嬉しいかな?」

「お姉ちゃんもこう言ってるもん!兄様の馬鹿っ」


可愛いことを言われて、アリエラは思わず笑顔で答えた。


二人に嫌だと言われた上、馬鹿とセレナに言われて若干ショックを受けたように見える少年は、見た目は少しチャラそうではあるがいいお兄さんなのだろう。

前に憲兵の人に二人のその後を聞いた時、お兄さんが汗を流しながら青い顔をして飛んできたと言っていた。


「えーっと、とりあえず…見覚えのある方も居るのだけど、お名前がわからなかったり……失礼なのは重々承知してはいるのですが、初めてお会いする方もいますし……お名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?そこの貴方はカミューとセレナのお兄さんでいいのですよね?」


失礼だと思いながらも、アリエラは自己紹介をお願いした。

とりあえず初めに、先程素性が分かった少年…二人の兄にあたる彼に話しかける事にする。


「はい。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。僕は二人の兄で、キリアン・バートンと申します。二人が危なかった所を助けて頂いたと伺って、本来ならもっと早くにお礼に伺わなければ行けなかったのに遅くなった上……この様な場でお礼を申し上げる事をお許し下さい」


見た目とは裏腹に、意外にも丁寧に礼を述べ頭を下げられてしまい、アリエラは慌てて気にしないでくださいとキリアンに頭を上げるように頼む。


「ありがとうございます。ですがそれでは僕の家族の気が済みませんので、今度改めてお礼をさせて頂きます。母もそう言っていますので」

「でしたらそういった話は私の母とお話下さい。私は二人が無事だっただけで十分ですので」


大人を出されてしまうと流石にアリエラも上手く断れる自信はないので、ここは大人である母に任せておこう。

きっとあの母ならアリエラの意図を汲んで、言葉巧みに上手くお断りしてくれるはずだ。


「それにしても……話を聞いた時も信じられませんでしたが、まさか助けてくれたのが貴女の様な方だったとは、正直驚きました」

「??」

「美人で強くて優しい女の子が大きくて怖い男の人から助けてくれたと二人が言っていたので。憲兵の方も否定されなかったので、なんの冗談かと思っていたのですが……というか今でも信じられません」

「本当だもん!おねぇちゃんは凄いんだよ」

「それにすっごく優しいんだからっ」


子供達がそう言ってくれるが、当人のアリエラはぐっと胸を押えた。


(カミュー…セレナ…、事実とあまりに異なることは、たとえお世辞でも言ってはいけないのよ。その当人へのダメージがより深刻になるから)


多大なダメージをくらいアリエラの表情は引き攣る。


キリアンがそういうのも仕方ないことだ。

二人の話はかなり美化されているし、それに加えてもし街での噂も聞いていれば尚更かもしれない。

少なくとも『美人』はないわー…私もそれくらい分かってるよ。

キリアンは想像と違ってさぞがっかりしたに違いない。


「な、なんか…すみません。話が誇張して広まってしまって……実物がこんなんで本当にすみません」


しょぼんと肩を下げたアリエラは、申し訳なさですみませんを繰り返した。


「え?いえ…そうではなくて」

「とりあえず、彼が誰かは分かりましたね。ではお隣の方も、すみませんがお嬢様に自己紹介頂いても宜しいですか?」


何かを言いかけていたキリアンの話を強制的にぶった切り、ジルがこの自己紹介を先導する。


「私はコウゲツ・アカバネと言う。今年から留学生として学院に通うために和の国から来た。会場であの日会ったお前を見かけて、この前は名を聞く前に別れてしまったから聞きに来た。私もお前の名を知りたい」


和の国から来た青年は、あの時使っていた日本語に似た『和語』ではなく、こちらで使われているルカルタ語(標準語)でアリエラへと話しかけてきた。


少しだけぎこちない発音も僅かに混じるが、こちらの言語も殆ど使いこなしているようだ。


「あ、私はアリエラ・ディーベルトと申します。あの時はその…まつ毛が!まつ毛が入っただけなのに、泣いてしまってご迷惑をお掛けしました。ハンカチも助かりました」


アリエラは自己紹介をした後、嘘も大嘘を並べてコウゲツへと頭を下げる。

デタラメな嘘に付き合ってくれるか不安だったが、少し間を置いてコウゲツから『気にしなくていい』と言われた。

あの日の事をアリエラが隠したがっているのに勘づいてくれた様で、皆には黙っていてくれるみたいだ。


それにしても…とアリエラは彼を見た。

どう見ても彼が同じ十四歳には見えないのだ。

アリエラはつい好奇心の方が勝ってしまい、おずおずとコウゲツに一つだけ質問をした。


「あの…失礼ですが、入学という事はアカバネ様も私と同じ十四歳なのですか?」

「どうだと思う?」


質問を質問で返されてしまって、言っていいものかと悩みながらも、前置きを付けて思ったことを話してみる。


「えっと、怒らないで下さいね?その……とても大人っぽい容姿と対応の仕方でしたので、私と同い年には思えなくて…」


この言い方ならそこまで不愉快には思われないだろう、と考えられる限りアリエラは気を使って話す。

興味があるから聞きたいが、怒られないか怖い…というアリエラの様子を見て、コウゲツは思わず小さな子供の様だなと思ったしまった。


「私は十八歳だからな、間違いではない。和の国だと十八から基本的に学院の様なしっかりとした施設で本格的に学ぶ。この学院では確か生徒は十四歳から五年間、従者は十二歳から主が卒業する迄に二十五歳を超えない者…というのが条件だったな。文化の違いで『和の国』は学院から特別に許可を貰っているから十八からでも一学年から通う事になっている」

「な、なるほど……」


怒ることなく優しく答えてくれたコウゲツはやっぱり年上だった。

でも日本人と比べて、十八と言われれば外見は年相応に見える。

まぁ、日本にいた頃も大人っぽい子もいれば、年相応の子も勿論いたから、日本人=童顔は必ずしも皆に当てはまるわけではないけれども。

因みに前世の私は悲しいかな童顔でした。

今は年相応……かな?


「では、アカバネ様のお隣の方」

「俺はアドルフ・ヴァレトリー。そして、隣に居るのが妹のマリベルと言います。直接お会いするのは初めてですが、以前アリエラ嬢はそこにいるクレイ達に魔石を譲って下さいましたよね?その時馬車の中に居たのが俺と妹です」


アドルフは隣にいた女の子、マリベルの事も一緒に紹介した。


二人は兄妹らしく、アリエラとは関わりがないはずと思っていたが、あの時の馬車に乗っていたらしい。

きっと馬車の中からアリエラの姿を見ていて、会場にそのアリエラがいたのでこの場に来てくれたのだろう。


「あの時は勝手に馬車から出る訳にも行かず、お礼も言えず見送る形になってしまってごめんなさい……私も兄もとても感謝しておりましたの。偶然この場でお会いできて良かったわ」


兄から紹介されたマリベルは、少し強気な目元を緩めてアリエラに感謝を告げた。


「俺からもお礼を…助けて頂きありがとうございました。お陰でこうしてクレセアルにたどり着けました。厚かましいお願いにはなりますが、隣国であるバルトラ国から出てきたので知人も少なく…俺も妹も今年から学院に通うので、これからも仲良くして頂けると嬉しいです」

「そうだったんですね。こちらこそ、これから仲良くして頂けると嬉しいですわアドルフ様、マリベル様。でもアドルフ様はマリベル様のお兄様なのですよね?なのに同じ学年なのですか??」


以前友達になったミーディアのように双子なのだろうか?


「俺は年齢的に一学年上の学年になりますね。マリベルとは違って編入という形になるので」

「凄いですね!編入ですと難しい試験があると聞いてましたが……じゃあアドルフ様は先輩になりますね!」

「アリエラ様、あんまり褒めては駄目ですよ。兄が調子に乗るので」


マリベルがアリエラに注意する。


あの難しいと噂の編入試験を突破して入学が決まっているのなら、アドルフは相当頭がいいはずだが、マリベルはあんまり褒めたくないようだ。

どう調子に乗るのかは分からないが、妹のマリベルが言うくらいだから、あんまり褒めない様に今後は気をつけよう。


「マリベル様は同じ学年ですよね?時々でも構わないので、良かったらお昼などもご一緒させて下さいね」

「も、勿論です!時々でなくとも、一緒に行きましょう」

「本当ですか?約束ですよ?」


可愛らしく約束をしてくれたマリベル微笑み合うアリエラ。

ジルが横から『良かったね』と、幼馴染として囁いたのでうんと頷き返した。


「残りの三人は、お話の流れから分かるかと思いますが、私の家の者達で右からクレイ・モーダン、ヒース・オズワルド 、エルマー・トリスタンです。騎士見習いをしている者達で、私達の従者として三人とも学院に入りますの」


マリベルが順番に名前を教えてくれる。


「クレイ・モーダンだ。この前は本当助かった。約束通り恩は必ず返すので、学院にいる間に困った事があったら遠慮せずに何でも言ってくれ」

「え、えっと、その約束はさっき果たして頂いたのでもうお気になさらず………」

「あー、無理無理。クレイは頭がガッチガチだから、こうと決めたら絶対譲らないよ。俺はヒース、あの時は本当にありがとうね!クレイじゃないけど、困った事があったら言って。出来ることなら手伝ってあげるから。つってもクレイほど強くないからあんまり期待しないでね〜?」

「え、あ、はい……?」


クレイの律儀さにアリエラが困っていると、ヒースという名の猫目の青年が陽気に横槍を入れた。

あまりの勢いに、アリエラはとりあえず頷いてしまう。


そして薄紫色の髪をしている青年エルマーは、大きな声のヒースとは真逆の小さな声で、アリエラに挨拶をした。


「僕はエルマー。あの時はありがとう」

「あ!あの時具合悪そうでしたけど大丈夫でしたか?実はあの後も気になってたんですよ。今は大丈夫そうですけど……」

「うん…大丈夫。魔石分けてもらえたお陰ですぐに街に入る事が出来て休めたから」

「なら良かったぁ」


ほっとしたアリエラにもう一度、本当にありがとうとエルマーが呟いた。


「クレイが十八歳だからアカバネ様と同い年だね。ヒースは十五歳、エルマーは十三歳。クレイは俺の従者として、ヒースとエルマーはマリベルの従者としてつく予定なんだ」

「クレイ様、ヒース様、エルマー様もこれから宜しくお願い致します」


三人とも今後会う機会も多いだろう。

アリエラは笑顔でこれからのことをお願いした。


「さて、これで全員ですね?お嬢様、俺が言っていた意味理解しましたか?」

「ん??なんの事??」

「お嬢様は、無自覚に色々やらかすということですよ」

「どうして今の流れでそうなるのか分からないのだけど。それよりジル、貴方も自己紹介したら?今年から貴方だって学院の生徒なんだから」


唐突に聞かれたジルの質問は理解できないが、それよりも自分には関係ない様に話しているけど、ここにいる殆どがジルにとっても学院の同級生になる。

せっかくの機会なのだから、ジルもちゃんとジゼル・ブロウンドとしてこの自己紹介に参加すべきだ。


「それもそうですね。私はジゼル・ブロウンドと申します。今はお嬢様の執事ですが、学院に入学の日までの約束ですので、学院ではお嬢様の学友になります。どうぞ宜しくお願い致します」

「ん?どういう事?従者としてくるとかではなく、執事をやめて生徒として入るの?」


キリアンがよく分からないと口にした。

ジルは特殊な生活を送っていたので、疑問に思われるのも仕方ない。


「あ、ジルは私の幼馴染なの。彼も貴族で、本当は執事の仕事なんてする必要ないのに、幼い頃急に我が家で執事をやるって言って働き始めたのよ。でも学院に入学するまでと約束していたから、学院に入ると同時に執事ではなくなるの」

「なんだかややこしいな」


アリエラが代わりに説明すると、聞いていたクレイがぼそりと呟いたので、アリエラはですよねーと苦笑する。


「まぁ、どちらにしてもアドルフ様とクレイ様以外の皆様と同じ学年になりますので、ジルのことも宜しくお願い致します」


アリエラがそう言えば、ジルがなんでお嬢様まで俺の事をお願いするんですかと笑われた。


「だって、大切な幼馴染の事だもの」


迷いなく言った言葉に、ジルがちょっと複雑ですと漏らしていた。



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