27 岩の嘆き
フィリップ・ライゼンブルグは何と子どもの頃から岩だった。
ゴツゴツとした顔に、同年代では誰もかなわない体。屈強な男子が尊ばれる辺境領だからこそ彼は愛されたが、これが王都に住む洒落た高位貴族の子息などであったらと思うとゾッとしてしまう。
洗練された貴公子が持て囃される世の中だから、当たり前だがフィリップは女性と縁遠く過ごした。
だがそんな彼であっても友人には恵まれた。
腹黒く独善的ではあるものの、立場にこだわらず気安い王太子。
高い身分を忘れそうになるほどフットワークが軽い、某大国の年下皇女とその従者。
騎士団の団員も、みんながフィリップを尊重し、大切な戦友として扱った。
当たり前のように戦い、最後には顔にまで傷を負った。
なぜ戦うのかと聞かれたら、それが自分の価値だからと答えるだろう。
自分には幼馴染の王太子のように跪かせる権力も、煙に巻くような社交術も持ち合わせない。
大国皇女のような心を揺さぶるカリスマ性も、弱きを救い上げる手腕もない。
ただ剣を振り、盾で防ぐ。
昔からフィリップが優れていたのはその一点だった。
だからフィリップは、幼馴染たちが自分の大切なものを守るのと同じように、戦うことで守っただけだ。王太子がいずれ治めるこの地を、そして皇女が美しいと目を細める街並みを。
だからこそ、自分としては顔の傷程度国を守った代償なら安いものと思っていたが、それが周りに、特に女性に与える影響は想像以上のものとなる。
父の早めの隠居により当主を継ぐようになってから、嫁探しがはじまった。
フィリップは伴侶に高い希望は持っていない。貞操観念があり、穏やかに年を重ねられる女性。それであれば文句を言うはずもない。だからこそ、そこまで嫁探しに苦戦することとなるとは思わなかった。
「辺境伯は悪鬼のような男らしい」
「荒くれ者のような風体だ」
「あんなところに娘はやれない」
王都での噂は王太子が気付いた時にはもう収拾がつかない状態だったらしい。
実は知っていて、最初は面白がっていたのではないかとフィリップは思っている。
だがそこからはもう、お断りの手紙が連日届き、さすがのフィリップも心が折れた。なんせ、奇病で二度と見られぬ見た目になった、体が弱いので生家から遠いのは、神の妻になります、などなど、フィリップとの結婚を心から嫌がっていることが分かる手紙の山だったからだ。
中には親が無理やりにでも縁を繋ごうと画策し、娘が駆け落ちしてしまうという事件などもあった。
「生贄とでも思っているのか」
ぽつりと呟くと、慰めるように肩を強く掴まれた。乳兄弟で今は従者をしているリードが精一杯慰めようと言葉を探しているのだが、何も見つけられずに視線をきょろきょろとさまよわせた。
そうやって、少しずつ女性から嫌われても傷つかなくなった頃、昔馴染みの年下皇女より手紙が届いたのだ。
「妻問いしろ」
手紙は聡明な皇女に相応しい、流麗な文字で綴られていた。だが、どんなに気安い仲とは言え、フィリップの嫁関係を揶揄うなんて酷すぎる。
「不敬は承知で皇女殿下は一度叱ってやらねば」
そう言って立ち上がると、仕事を怖ろしい勢いで片付け王都へと向かう。勢い込んで向かった先で、自分を怖れない可愛いご令嬢に出会うまで、あと少し。




