はじめてのお仕事
服を手に入れた俺はギルドに戻り、早速仕事を探すことにした。
コルクボードに貼られた紙が依頼用紙であり、それを受付まで持っていくことで受注完了だ。依頼主のサインを貰う、もしくは依頼書に書かれた物を納品する事でお金をもらうことができる。
「Gランクの仕事は……なんだこの量は!!」
コルクボードの片隅に低ランクの依頼書が重なる様に大量に貼られていた。
「おい、なぜ低ランクの依頼があんなにもあるのだ?簡単に片付く仕事ではないのか?」
受付にいたリリーに尋ねる。
「ここは最果ての街ですからね。街周辺に出てくる魔物は魔王城に近いせいかCランク以上しか出てきません。そのためこの街に来る冒険者もCランク以上の実力者しか来ないんです。そんな実力のある冒険者が低ランクの仕事なんてやりませんし、たまに怪我をした冒険者の方達が依頼をこなしてくれるのですが、全く追いついていない状況ですね。」
なるほどな。しかし家の補修、下水道の掃除、ゴミの片付けetc...
「これらの仕事は専門に請け負うものがいるのではないか?なぜ冒険者に依頼する?」
「大工を利用するのは高いですからね。ちょっとした補修なら冒険者に依頼する方が安上がりなんです。下水道やゴミは街からの依頼ですね。」
これほど依頼が溜まっているなら、俺の実力を見せるには十分だな。
「よし、ここにある依頼全て受けよう。」
「全部ですか!?全部合わせると30件以上あるんですが…」
「なに、どうせ溜まっていた依頼だろう。それに俺がやると言っているのだ。大船に乗ったつもりで待っているといい。」
「はぁ…そういうのであれば止めませんが、カイヤさんは強いんですから、魔物の討伐もお願いしますよ?何のためにギルドマスターが出てきたと思ってるんですか。」
「分かっている。」
大量の依頼を受け付けた俺は早速依頼の内容を確認する。
家関係の仕事が18件、特定の場所の清掃等が8件、荷物の運搬が3件、子供の訓練が6件か…やはり力仕事が多いんだな。各家庭回っていけばすぐ終わるだろう。
まずは一軒目だ。レンガの壁に瓦の屋根、一般的な家庭だ。
「依頼を受けてきた冒険者の者だが、誰かいないか?」
「依頼を受けてくれた冒険者の方ですか。」
腰の曲がったじいさんがでてきた。
「実は屋根に穴があいて水漏れがしてきてるんじゃが、見ての通り腰が悪くてのぉ。この年になると払える金もあまり残ってなくて、安い料金ですまないが、なおしてもらえんかのぅ。」
「金などどうでもいい。俺が来た以上じじいの依頼は完遂してやる。後じじい、腰が曲がりすぎだ。キュアオール!」
回復魔法であるキュアオール。俺ほどの力になれば人間の身体を治すのではなく、最適な状態へと変化させる事ができる。それは病気、部位欠損、どんなものでも治せることを意味する。
緑の光がじじいを包み込む。
「おお…身体から力が漲ってくるようじゃ…」
そこには腰はまっすぐになり、顔からは力が漲り、なによりムキムキのじじいがいた。
「身体が最適化された事で筋肉も増したようだな。これで昔みたいに動き回れる事だろう。そして水漏れがあそこか、キュアマテリアル!」
回復魔法の奥義の一つ、無生物を治す魔法。もちろん俺が使えば状態の最適化を行う。
緑の光に包まれた屋根は、まるで新品のような艶を出し、しかしその硬さはどんな魔物をも寄せ付けぬ強固さを誇る。
「よし、じじい。ミッションコンプリートだ。依頼書にサインしてくれ。」
「し、信じられん…屋根を直すどころか、わしまで治しおった…!しかも全盛期の力を取り戻して……」
「なに、もののついでだ。それよりまだまだ仕事が溜まってるんだ。早くサインしてくれ。」
「そうかそうか、いくらでもサインしてやるわい。助かったよ。また何かあったらお願いするわい。名前は何というんじゃ?」
「俺はカイヤという。覚えておくといい。」
「カイヤか、いい名前じゃ。困った時は頼ってくれ。力のあるじじいは強いぞ?」
「俺に困ることなどないと思うがな。その時はよろしく頼む。」
こうして俺の初仕事はムキムキのじじいを生み出したのだった。
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