第2話
二人がやってきたのは、小規模ながらも活気のある町だった。かつては、ほとんど日本人しか住んでいなかった地域だが、今では様々な人種が住んでいる。
「この町けっこう厳重に守られてますね」
アイが気づいた通り、町の入り口には砲台や重機関銃が設置され、大昔のものだが、戦車を始め、様々な戦闘車両が配備され、盗賊程度ならば撃退できるほどの装備を持っていた。
「アーマノイドは無いようだがな」
アーマノイドとは、対管理者用兵器として、人類が開発した人型起動兵器を意味する言葉だ。
そして、アルティマが指摘した通り、この町にはアーマノイドが配備されていなかった。管理軍の支配地域から離れたこの土地では、アーマノイドは不要と判断されたのだろう。
「あっ! あれ食べませんか? とんこつラーメン!」
アイがラーメンの屋台に興味を示したようだ。
「もうお昼だし、おなかすているでしょう?」
「あぁ、そうだな」
「すいません、とんこつラーメン二つ、大盛り…で、いいですよね?」
「あぁ」
二人は屋台の椅子に腰かけて、ラーメンを注文した。
「アルティマさんは、どうしてナゴヤを目指しているんですか?」
「管理軍を潰しに行く」
アルティマの答えに驚き、アイはしばらく黙った後、ジョークだと思って気にしないことにした。
「お前はどこに向かうつもりなんだ?」
「私はオオサカまで」
「そんな所に行って何をするつもりだ?」
「私の父は科学者だったんですが、自分の研究データをオオサカの知人に届けるようにと言い残して亡くなってしまって…」
「そうか……」
「きっとすごく大事な研究データなんですよ、でなきゃ盗賊を雇ってデータを奪おうなんて人がいるわけないんですから」
「さっきの盗賊は誰かに雇われたのか?」
「え? えぇ、そう言ってましたけど」
「もしかすると、盗賊を雇った奴は……ん?」
突然、警報が鳴り響いた。
「こちらに向かってくる未確認の戦闘車両を確認、自警団は戦闘態勢!」
設置されたスピーカーから、この町に武装した集団が近づいている知らせが発せられた。
「まさか、さっきの盗賊ですか?」
「あの程度の戦力なら、この町の守りに太刀打ちできないはずだが……」
町の入り口付近に、盗賊たちの武装した車両と、巨大なトレーラーが3台が停車した。すると、盗賊のボスが出てきて、メガホン型のスピーカーを使って喋りだした。
「アイ・ローレンス、この町にいるんだろう! 出てこい!」
「やっぱり、さっきの盗賊ですよ!」
名前を出されたことに焦るアイはアルティマの方を見た。しかし、アルティマはそのことよりも、巨大なトレーラーを注視していた。
「あのトレーラーはまさか……」
「あのトレーラーが、どうかしたんですか?」
アルティマが最悪の事態を考えていると、盗賊を警戒していた自警団が先に動いた。
「好き勝手言ってんじゃねぞ、盗賊どもが!」
砲台や機銃が火を噴き、それと同時に待機していた戦車や装甲車が、盗賊たちに向かって前進し始めた。
「うおっ、こいつら……いいだろう、俺様に逆らうとどうなるか教えてやる!」
攻撃が開始されると、待機していたトレーラーの荷台のハッチが開き、中から巨大な人型兵器が姿を現した。
「やはりアーマノイドだったか」
「なんで盗賊があんなものを持ってるんですか!?」
「連合軍から横流しされたのか、戦場から拾ってきたのか奪ったのか、あるいは……」
アルティマの言葉を遮るかのように、アーマノイドと自警団の戦闘が始まった。ホバー移動をするアーマノイドは、その機動力で自警団の砲撃をかわし、手に持ったアーマノイド用の銃で砲撃した。攻撃は自警団の戦闘車両に次々と命中し、瞬く間に壊滅してしまった。
想定外の事態に自警団は混乱していた。現場からは絶望する自警団の叫び声が飛び交った。
「機甲戦力が全滅したぞ!」
「だめだ、アーマノイドなんて防ぎきれない!」
混乱している自警団を尻目に、続いて砲台が破壊され、町を守る戦力は全て破壊された。
「もうこの町の戦力では守り切れないな」
「そんな、どうすれば……」
「逃げた方がいいんじゃないか? 奴らはお前を狙ってこの町に来たんだろう?」
「そうだ、私のせいで……」
アイは逃げるどころか、盗賊たちの方向へ走り出した。
「おい! 何でそっちへ行くんだ!?」
「だって、私のせいでこの町が攻撃されてるんですよ!」
「……まったく」
アルティマはアイの後を追うように走り出した。