表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】アルフォンス・サーガ  作者: 黒木理
第5章 双皇戦争 
53/58

その後、両軍は睨み合いをはじめた。斥候同士の衝突や、小規模な戦闘のみが続いた。

 

 ときおり、アルフォンスは南軍を率いて、偽兵工作や、陽動を仕掛けたが、シルヴァンはその天才的な直感力でことごとく、アルフォンスの詭計を見抜き、陣地防御に徹した。

 

 失敗を重ねて、アルフォンスは憤然としたが、シルヴァンもまた苛立ちを募らせていた。南軍の情報、ことにカルディナ川の以南の情報が完全に遮断され、情報が入ってこなくなったのだ。


「南部の鼠賊どもめ、知恵をつけおったな」

 

 情報戦を得手とするシルヴァンにとって、敵軍の情勢が読み取れないほど不快なことはなかった。

 戦況はアルフォンスとシルヴァンの根比べとでも言うべき状況に推移した。

 

 10月上旬。ふいに雨滴が空から滴りおちた。空を覆いつくす雨雲から雨粒が滴り落ちる。静かな雨が、両軍の陣営と大地に降り注いだ。

 

 アルフォンスは幕舎から飛び出ると、全身の鎧をうつ雨に安堵と興奮の笑みを浮かべた。オルブラヒト、パミーナ、フローラ、ミストルーンが、彼に続いて幕舎から出る。


「きた……。雨だ……」

 

 それは、黒瑪瑙の瞳の少年が心から待ちわびたものだった。


「ようやく雨期がきましたな」

 

 傍らに立つオルブラヒトが、荘厳な声で言った。この地方は、毎年、10月上旬から十一月中旬ごろまで雨期に入る。この雨期こそが、アルフォンスの「北軍撃滅作戦」の要だった。


「……雨……が、……きた……ね……」


「はい。待ちわびた雨でございます」

 

 パミーナとフローラが、双方の美貌に雨を弾かせながら言う。


「アル、これで勝てるか?」

 

ミストルーンが問うと、アルフォンスは笑みを浮かべた。


「勝てます」   



◆◆◆◆◆



 降り出した雨は、静かに大地に降り注ぎ続けた。途切れることなく、大地と川を満たしてく。地面は泥濘とかし、パロマ川の川幅は徐々に大きくなっていった。

 

 もともと河畔であるため、ただでさえ軟弱な地盤は、泥の沼地のように変質していく。

 

 両軍ともに降りしきる雨の中に佇み、雨滴に叩かれつづけた。

十一月二十三日。早暁。

 突如として、雨が止んだ。曇天が薄くなり、やがて消え、朝陽が東の地平線にあがり、世界が白金色にそまった。

 大きな虹が空に浮かび、鮮烈な色彩が人間たちの目を奪う。

 

 北軍の陣地から、戦場とは思えぬ暢気な歓声があがった。だが歓声は数分後、不吉などよめきに変質した。

 

 北軍の兵士たちの眼球に、パロマ川の上流から航進してくる数100の軍船の姿が写し込まれたのだ。

 

 正体不明の軍船には、南軍の軍旗である《女神旗》が掲げられていた。


「南軍の軍船だ!」


「迎撃態勢をとれ!」


「投石器と弩で、軍船を打ち壊せ!」

 

 北軍の上級将校たちが怒声を放った。戦闘態勢への移行は迅速であり、北軍の精強さと練度の高さを示していた。


「上流から軍船だと!」

 

 北部の皇帝シルヴァンは報告を受けると、白い愛馬に飛び乗って、パロマ川の岸にむかった。

 西風が強く吹き付け、シルヴァンの黒いマントと黄金と黒の鎧を叩く。

突如として出現した300隻をこえる軍船を見て、さすがのシルヴァンも息をのんだ。


(上流から南軍の軍船がくるとは、どういうことだ?)

 

 シルヴァンほどの天才でも、原因が分からなかった。

 

 アルフォンスは、雨期の水を利用したのだ。彼は予め南にあるレリア湖に南軍の軍船を集結させた。


 そしてレリア湖とパロマ川につながっている旧河道を掘り起こして、整備した。そして雨期が来て、増水するとレリア湖の堰を切って、水を旧河道に流し込んだ。

 

 流し込まれた水と雨により、旧河道に水が満ちた。レリア湖とパロマ川がつながり、レリア湖に集結していた南部の軍船が、一斉にパロマ川の上流から、北軍の舟橋にむかって航走したのだ。

 

 上流から下流にむかう帆船は、西風をうけて恐るべき速度で進んだ。やがて大型の軍船の脇から、五十余艘の小船がパロマ橋にむかって、航走した。

 

 船には油が染み込ませてあり、油をつめた布袋が搭載されていた。南部の軍船から火矢が投じられ、五十余艘の船は業火につつまれた火船かせんとかした。

 

 北軍は、北岸と南岸の陣地から、投石器で南軍の軍船を攻撃したが、

南軍の火船の航行速度が速すぎて命中しない。


 シルヴァンが双眸に怒気が爆ぜるのと、火船がパロマ橋に激突するのは同時だった。

 

 五十余艘の船が、パロマ橋に次々に衝突し、腹に響く衝突音が、パロマ川の水面に連続して響いた。船の火が木製の橋に燃え移り、強風にあおられて瞬く間に橋を炎で満たす。

 

 北部兵から悲鳴に近いどよめきがあがった。パロマ川にかけられた橋は4つ。その内の1つが猛煙とともに焼かれていく。

 

 北軍の軍船は橋の下流にあり、橋に邪魔されて上流にいる南軍の船を攻撃できない。 


「皇帝陛下を守るのだ! 我に続け!」

 

 北軍の猛将ゾルターンが、鞍上から怒号した。戦士の直感で、北岸で決戦が行われると予知し、精鋭500騎をひきいて、まだ焼かれていない最東部の舟橋をかけて北岸に辿り着く。

 

 ゾルターンが北岸に到着したのと、同時にアルフォンスひきいるベルン公国軍が、北から襲来したとの報告が、シルヴァンのもとに届いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ