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【完結済み】アルフォンス・サーガ  作者: 黒木理
第5章 双皇戦争 
49/58

7月20日。 

エストリア山脈の奥地にある南軍の食糧貯蔵庫が燃えていた。シルヴァンの宿将・ザイドル将軍は、食糧貯蔵庫が完全に焼失し、南部の守備兵を殲滅したことを確認すると、全軍を反転させた。

 

 この後の彼の任務は、南部領の中央部に位置するフォルネウス領に侵攻し、焼き討ちと劫掠を行い、南軍の農業生産能力を減殺することである。

 

 ザイドル将軍麾下二万は、エストリア山脈の細長い道を通り、フォルネウス領にむかった。

 

 雲間から洩れる陽光は白く冴え、山脈の岩肌をつよく焼いていた。

 ザイドル将軍麾下二万の隊列が、最も細く長く伸びきった時、突如として、峡谷に角笛が鳴り響いた。

 

 山道にめんした断崖の上に、ベルン公国軍の《銀狼神旗》が翻る。刹那、大狼にのったベルン軍が、断崖から飛び降りて、北軍めざして、落下した。

 

 ザイドル将軍ひきいる二万の北軍兵は、驚愕の叫びをあげた。


 ベルンの騎狼兵は、ほぼ垂直に切り立った断崖を平地のように疾駆して、こちらに雪崩れ込んでくる。


「応戦しろ! 弓箭隊、弓を射ろ!」

 

 将校達が叫ぶが、ザイドル軍が弓をつがえる前に、ベルン公国軍はザイドル軍に襲いかかった。

 

 ベルン兵の槍と剣が、北部兵を次々と討ち倒す。大狼が、北部兵の頭を噛み砕き、軍馬の首を食い千切る。北部兵の絶叫が峡谷に木霊し、血煙が山道をふきぬける。


「おのれ! まさか山から飛び降りるとは!」

 

 ザイドル将軍は、歯噛みして大剣の柄を握りしめた。斥候は10分に出して、警戒もしていた。だが、ベルン公国の大狼の踏破能力と、機動性はザイドル将軍の思惑を遙かにこえていた。


 山に斥候と注意をむけなかったのが、ザイドル将軍の敗因だった。あの切り立った断崖から、飛び降りてくるなど、予想もしていなかった。

 

 ザイドル将軍は自ら大剣をふるって応戦した。だが、ベルン公国軍は、4方向から、北軍を攻撃し、北軍の隊列と指揮系統を完全に破壊した。

 

 乱戦の中で、鋭く強い弓音が響いた。それは蠱惑的かつ、官能的ですらある音色だった。矢は白い閃光となって、吸い込まれるようにザイドル将軍の首を貫いた。

 

 ザイドル将軍は自身の首に突きささった矢を左手で引き抜くと、自分を射貫いた射手を見すえた。

 

 15歳前後の美しい少女だった。白金色の長い髪、紫水晶の瞳をした恐ろしい程に美しい少女。

 

 100メートルほども先にいるのに、なぜか鮮明に彼女の顔が見えた。


(このような小娘に射殺されるとは……)

 

 ザイドル将軍は自嘲の笑みを浮かべた後、口から血を吐き出して鞍上から転落した。

 

 ザイドル将軍が戦死した後、北軍は崩壊した。全軍が潰走し、アルフォンスは容赦のない追撃命令を下した。

 

 2時間後、北軍は一万二千の死傷者を出して壊滅した。降伏した兵士は三千名余。残りは逃散し、行方不明となった。

 

 アルフォンスは、小休止の後、全軍に陣地に戻るように命じた。ベルン公国軍は、北にむかって全力でかけた。







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