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【聖暦3068年5月7日】
【場所◯ カルディナ川をこえた。北部領。山岳錯綜地帯】
【サイド◯ アルフォンス・ベルンとベルン公国軍1万2千騎】
◆◆◆
翌日の早暁。
朝陽が、赤紫の帯となって、大地を満たし始めた。
アルフォンスは自軍に進軍を命じた。
ベルン公国軍1万2千名は、全軍騎狼し、その後ろに八千の大狼が兵站部隊として後につづく。兵站部隊の大狼達の背中には、大量の軍事物資が乗せられており、ベルン公国軍の神速の機動を可能としていた。
アルフォンスは自軍の末端にいたるまで、戦略目標を明確に告げていた。
「狙いはシルヴァン皇子の首、ただ1つ」
ベルン公国軍は、北上して大陸最北端のアークトゥルス領に進撃するが、これはシルヴァンを誘き寄せるためであり、進撃途上でシルヴァンの所在を確認できた場合は、即座に反転して、シルヴァン本軍の撃滅にむかう。
将士達は、一兵卒にいたるまで、自軍の戦略目標を知り、それによって、戦意を昂揚させた。アルフォンスのやり方はこの時代にあって、きわめて先進的である。
また、今一つ先進的な軍略があった。
海軍との連携進撃作戦である。
ベルン公国の海軍大小300隻の軍船が、海から陸地を進むベルン公国軍本軍とともに、連携して航進する。
ベルン海軍は接岸可能な海岸、川で、通信、諜報、物資の補給、負傷者の収容等を行うのだ。
行軍開始の2日後、ベルン公国の北にながれるパロマ川を渡河し、その七日後、カルディナ川をこえ、山岳錯綜地帯に入った。
「随分と容易に渡河出来ましたわね……」
フローラの声には不安が滲んでいた。
「シルヴァン皇子からしてみれば、敵軍が、北部にくること自体は大歓迎だろうからな」
アルフォンスは、赤毛の愛狼ヴァールの首筋を撫でた。全身が炎のように赤いヴァール。そしてアルフォンス自身の鎧も赤で統一されている。
大狼と騎乗者の姿が融け合い、真紅の炎のようにゆらめいている。
アルフォンスは、弱々しい太陽を見やった。すでに南部とは空の色合いも、空気さえも違う。
三十分後、偵察兵がアルフォンスのもとに駆け込んで来た。
「敵軍を発見しました。北部領・アストライアの領主フェルスター侯爵が、大軍を率いて、こちらに進軍しております!」
「敵の兵数は?」
アルフォンスが問うと、伝令兵が緊迫感に満ちた声を放った。
「ゆうに2万をこえております。おそらく2万5千から、2万8千かと思われます」
「我が方の2倍だな」
アルフォンスは冷静な語調で言うと、オルブラヒトに顔をむけた。
「敵将・フェルスター侯爵とはいかなる人物か?」
オルブラヒトは老いた顔の半分をおおう白い髯をなでた。
「シルヴァン殿下とともに、ドール人と戦いつづけた歴戦の猛者にございます。残忍な男で、占領したドール人の村々を襲い、女子供を虐殺し、その光景を見ながら酒を飲むことを好んだそうです。忌むべき輩ですな」
アルフォンスは瞳に嫌悪と侮蔑の感情を滲ませるとフローラに視線を投じた。
「フローラ、地図を出してくれ」
「はっ」
アルフォンスは地図を眺めながら、数分黙考した後、作戦を決めた。




