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英雄トイド

「お父様。少しお話よろしいですか?」


「急に何事だ?」


「以前、私を助けてくれた者がお父様に話したいことがあるそうです」


「……ほう。わかった。連れてきなさい」


 すると以前も通った大きな扉が開いた。

 2人はゆっくりとボルクス王の座る王座から、少し離れたエリシスの隣まで歩いた。


「さて、話があると聞いたが話せるようにはなったのか?」


「はい。あの時は失礼しました。名前は和樹と言います」


「和樹か。表情も以前とは大違いだな。それでは話を聞こう」


 和樹は自分が異世界から来た転生者であること。

 魔族に実験体にされたこと。

 その実験が原因で魔族が力をつけていることを話した。

 英雄マナの孫娘に助けられたことを話した。


「まさか転生者とマナの孫娘だったとは思わなかった。これから2人はどうする予定だ?」


「魔族の件は俺に責任があります。魔族に対抗するため、エルファルトにいるという英雄トイドに会って力をつけてもらう予定です」


「なるほど。我々も兵や冒険者を集める必要があるか……」


「お父様! 私も和樹とともにトイド様の元で鍛錬を積んできてもよろしいですか?」


「……いいだろう。3人とも下がっていいぞ」


 エリシスを先頭に城の廊下を歩く3人。


「……姫様って呼んだ方がいいのか?」


「エリシスでいいわよ。私も和樹って呼ばせてもらうし」


「私もいいかな? コモナでいいよ」


「よろしくね、コモナ」


「それでトイドはどこにいるんだ?」


「きっと酒場よ。毎日のように酒を浴びるほど飲んでいるからね。けどあの方が力を貸してくれるとは思わないんだけど。今まで弟子にさせてといった人は大勢いるが全員断ったわ」


「……話すだけ話してみるさ」



 城から歩いて10分程度のところの路地裏に到着した。


「きっとここよ」


 中に入るが、客は1人だけ。

 昼間からカウンターの机で酔いつぶれて寝ている白髪に流し白髭の老人。

 机には空の酒瓶が何本も並ばれてあった。


「いらっしゃい。これは姫様。今日はどういったご用件ですか?」


 カウンターの多くから髭面でスキンヘッドの中年男性が出てきた。


「少しお邪魔させてもらうわ。ちょっとトイド様に用があってきました」


「トイドさん! トイドさん! あんたにお客さんだよ」


「んんー? そんなやつおいかえしぇ。ヒィック。それより酒だ。お酒もう1杯」


「トイド様。私達3人にお力添えしてもらえませんか?」


「力だぁ? そんなもの自分で何とかせい」


 こちらを見向きもしないトイドに和樹は近づいて行った。

 また寝ようとしているところに耳元で誰にも聞こえないように囁いた。


「マナの遺志を継ぐものだ」


 寝かけていたトイドがとっさに振り返った。

 その瞳に酔いは一切感じられなかった。


「お主、何者だ?」


「転生者の和樹だ」


「……そちらの娘はマナの孫娘だな。大きくなったな」


「え? 私を知っているの?」


「小さい頃に会ったことがある。若い頃のマナによく似ている」


「力が欲しいのじゃな。いいじゃろう。着いてまいれ」


「和樹! あなた何言ったの? あのトイド様から教えてもらえるなんてすごいわ」


「……今は秘密だ」



 3人はトイドに着いていった。街中を抜けるとそこにはドーム状の建物があった。


「ここは戦闘訓練や練習に使われる建物じゃ。ドーム内の中は治癒力を高める効果がある。故にここを修行の場所とする」


 中に入ると中央は広場になっており高い壁の上に周りは椅子が設置してある闘技場のようにも見えた。


「まずは3人でわしに殺す気でかかってまいれ」


「3人がかりで大丈夫なのですか?」


「今のお主らならわしに傷1つ付けられないだろう」


「わかりました。和樹。コモナ。行くわよ」


 エリシスは腰に巻き付けてある鞘から剣を抜いた。


「姫は剣術士か。さて他の2人は……」


 和樹とコモナはトイドの両サイドに回り込み、すでに攻撃態勢に入っていた。

 足に力をためて低空ジャンプで一気に距離を詰める2人。

 トイドは拳が当たる寸前で2人の攻撃を受け流し吹き飛ばした。

 間を空けずにエリシスが剣でトイドの胴体めがけて突き攻撃をした。

 しかしその剣を指2本で受け止める。


「なに……」


 剣を引き抜き後方に跳躍してトイドから距離を取った。


「コモナは白魔術を用いた拳闘士か」


「え? 私が魔術?」


「コモナだけじゃない。姫もだ。しかし和樹からは魔術の流れは感じなかった。……なるほど。和樹は単純に身体能力のみで戦っているのか。それでは今度はこちらから攻撃しよう」


 トイドは一瞬でエリシスの背後に回り込んだ。横から片腕を薙ぎ払う。


「ほう。いい反射神経じゃ」


 エリシスはとっさに剣で攻撃を防いだ。

 しかし、その一撃を防いだダメージは両腕に蓄積されて腕の震えが止まらない。

 そこにコモナがすかさずトイドの背後から攻撃を仕掛けるが、エリシス同様片腕の指で止められた。


「コモナは動きが単純すぎる。パワーもまだまだじゃ。ほれ、姫と休んでおれ」


 コモナの腕を掴みエリシスの方に投げ飛ばした。2人とも避けきれず衝突した。


「さて、問題はお主じゃ。和樹。まだ何か力を隠しているじゃろう?」


「やっていればわかる」


「ほう。ならお主には少しだけ本気で行くとしよう。避けきれないと重傷を負うぞ」


 トイドが左手を前に出し右手を後ろに引く構えを取ると先ほどまでとは違う空気感。

 足場にヒビが入るほどの力強い一直線の突進攻撃。

 和樹は何も構えずにトイドの攻撃を見ている。

 トイドは避けようともしない和樹の姿勢に心配と違和感を脳によぎる。

 トイドは攻撃を止めずに、和樹の胸にめがけて強烈な手で突き攻撃をした。

 和樹の体を突き抜けるトイドの腕。

 和樹はチャンスと思うや否やその腕を両腕で掴んだ。


「何? 致命傷なはず」


 いったん距離を取ろうとする慌てるトイドだが和樹に腕を掴まれて逃げることができない。

 和樹はそのまま頭を振りかぶり、頭突きをした。

 その衝撃でトイドは軽く吹き飛んだ。

 視線を和樹に戻すと、いくら治癒力を高める建物であっても異常なまでの治癒力ですでに空いたはずの体の穴が塞がっていた。


「なるほど。それがお主の力か。まさか一撃食らうとは思わなかったぞ。なんとなくわかった。3人とも集まれ」


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