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1冊の本

「森をめちゃくちゃにしちゃったな」


「そうだね。でも木々や草はまたゆっくりとだけど生えてくれる。倒れた木々は責任もって船造りに使わせていただこうね。早速1,2本持って帰りましょう?」


 するとコモナはひょいっと大木を1本担ぎあげた。

 女性の小柄な体からは想像もつかない光景に和樹は驚いた。


「コモナは力持ちなんだな」


「私のこと初めて名前で呼んでくれたね。嬉しい。私はね、魔法は使えないけど身体能力には自信があるの。和樹ほどじゃないけどこの村では強いほうなのよ? それより早く行きましょう。きっと森からすごい音がしたって皆が集まっているかもしれない」


 和樹も大木を1本担ぎ上げて村に戻ることにした。

 道中、生き物の姿が見え始め少し安心する和樹。

 森を抜け村に到着するとやはり集まっていた。

 心配そうに見つめる住人。


 和樹の前に1歩でて、今にも喋りだしそうなコモナを和樹は肩を掴み止めた。

 大木を下すと頭を下げた。


「すまない。ここの森を傷つけてしまった」


 皆和樹の行動に唖然とした。


「兄ちゃん。元気出たみたいじゃないか。コモナ。さすがあのお方の孫だな。森のことは安心していい。ちょうど木材が足りなくなりそうだったんだ。なにより兄ちゃんが元気になれてよかった。宴会の時は直接言えなかったが改めて巨大魚を退治してくれてありがとう」


「ありがとう」


 男性の感謝の言葉に連れられて周りの皆もありがとうと言ってくれた」


「……俺にも船造り手伝わせてくれ。森から木を運んでくる」


 颯爽と走り出す和樹。

 以前とは違う、感謝の言葉がすごく嬉しく思えた。

 次々と運ぶ和樹に大勢の人から感謝の声が途絶えない。

 そんな他者のために何かをすることに心が満たされ清々しい気分を味わった。

 

 次の日もその次の日も和樹は村の手伝いに勤しんだ。



 休憩中の和樹にコモナが飲み物を持ってきてくれた。

「和樹。毎日頑張っているけど無理しちゃ駄目だよ?」


「いいんだ。俺がみんなのために何かしてあげたいんだ。今までに味わったことのない、いい気分になれる。これもすべてコモナのおかげだ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、鍵の件は少し怖かった。もし和樹を止められなかったらどうしようって。お祖母ちゃんにも思い出させることは近道だけどとても危険だと教わった。中には思い出さないほうがいい人だっている。でも和樹は、鍵を掛けたまま心を知ろうとしていたから……」


「鍵が解けてコモナの話を聞けたから、元の世界では味わえなかった気持ちをこちらでわかりそうな気がするんだ」


「和樹ならきっとすぐわかるよ。すぐじゃなくても不死者なんだから時間はいくらでもある。でも私達はいずれ死んじゃうけど和樹はこのままだと、どんな環境になっても生き続ける運命なのよね。不死者の体はいい事だけではないのかもね」


「それもそうだな。これから先永遠に出会いと別れを繰り返すのは辛いな」


「これからどうする? その体を治す方法を探しに行ってみる?」


「俺はコモナが俺を救ってくれたように俺もみんなを救ってあげたい。コモナの祖母は心の学者と言っていたが、何か資料のようなものはないのか?」


「うちにあるわよ? ただよくわからない文字が書いてあって魔術が施されている鍵がかかっているの」


 コモナの祖母の部屋に訪れる。

 本の表紙には英語でタッチと書かれ手形が書かれてあった。

 鍵が開いた。

 暗号化された文字が日本語に変わっていく。


「何この文字?」


「俺がいた元の世界の国の言葉だよ。祖母は俺と同じ転生者だ」


『この本を開けられて文字が読めるということは、あなたはおそらく転生者だろう。

 本には転生者にしか開けられない鍵とその者の国の言葉で表示されるように魔術を施してある。

 あとこの本を預けている私の家族を知っている者ならきっといい転生者であることを願っている。

 私の名前はマナ。

 さて、なぜ私がわざわざこの本を残そうとしたのかを話そう。

 理由はこの本の読める転生者のあなたに秘密裏に未来を託したいから。

 転生者のあなたならおそらく神から力をもらっているだろう。

 私がもらったものは人々を守る力だった。

 私は病気になってしまい、もっと多くの人を救いたいと思いながら病死してしまった。

 そんな私に神はこの力をくれてここに転生させてくれた。

 私は世界を脅かす魔族を長、魔王を封印することしかできなかった。

 魔王は王都エルファルトの地下に封印されている。

 もともと魔王がいた時代には王都は存在しなかった。

 エルファルトはその魔王の封印を他の魔族に解かせないために作られた。

 国民は王都に魔王が封印されていることは知らない。

 知っているのは私とトイドという私の相方と王のみ。

 もしこのことが広まると混乱につながり情報が魔族に知られてしまう。

 それを避けて極秘事項にされている。

 魔王を倒した英雄と称えられたが本当は倒すほどの力は私にはなかった。

 魔王はいつ復活するかわからない。

 私はあなたに魔王を消滅させるか、もしくは復活した時のために力をつけてほしい。

 私も封印した後、消滅させる力をつけようとしたが多少の力では消滅させることができずに逆に魔王を復活させることになってしまう。

 禁忌とされている力を使って倒そうとも考えた。

 それは黒魔術。

 悪魔の力を借りて強大な力を得る。

 しかしその力にはそれ相応の代償とその者の力量にも関係してくる。

 誰かが黒魔術を使ったからと言って魔王を倒せるわけではない。

 私の力では倒せる可能性はあったが、トイドの力では黒魔術を使っても倒せないことを知った。

 私の代償は他者の命。私は元の世界で自殺願望の抱く人のカウンセラーの仕事をしていた。

 そんな私が他者の命を使うことはできなかった。

 しかし、魔王は恐らく黒魔術を使わないと倒せないレベルで理不尽なまでに強い。

 あなたには黒魔術を使ってもらうことになるかもしれない。

 しかし、代償は人それぞれ。

 強力な力でも使用者の力によって対価は変わってくる。

 あなたは神からの力で私以上の強者で対価が軽いことを祈っている。

 私の願いを聞き入れてくれるのであればエルファルトにいるトイドを訪ねて、【マナの遺志を継ぐもの】と言えば力を貸してくれると思う。

 それでは未来を託した。』


 そっと和樹は本を閉じた。


「なんて書いてあったの?」


「エルファルトに行かなくちゃ……」


「なぜ?」


「体を治す方法を探すのもあるけど、会いたい人物ができた」


「なら私もついていくわ! お母さんに言ってくる」


 次の日の朝、エルファルトに向かった。


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