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「和樹、おはよう」


 昨日同様に朝早く体をゆすぶられ起こされた。

 和樹はゆっくりと起き上がり、すでに用意されている朝食を冷めないうちに3人で食べ始めた。


「和樹、食材取りが終わったら話があるんだけどいい?」


「コモナ。食材は私がやるわ。和樹について行ってあげなさい」


「お母さんいいの?」


「いいわよ。村の恩人がなにか困っているなら手伝ってあげなさい……」


 2人はわずかな間、見つめあった。


「……わかった。じゃあ和樹行きましょう」


 手を振るお母さんを横目に、コモナに背中を押されて2人は外に出た。

 下まで降りると木材を湖の方に運ぶ住人を多く見かけた。


「きっとみんな和樹のおかげで、湖で魚が取れるようになったから船を造ろうとしているのね」


「見に行くのか?」


「その前に少し話さない?」


 コモナは人気の少ない森の方に向かった。少し森に入ると立ち止まった。


「ここに来る前に何かあった? 魔族と戦う、もっと前。私でよければ相談に乗るよ?」


「……黙れ!」

 

 実験体、神の呪い、元の世界。

 思い出したくもない嫌な思いが溢れ出た。

 和樹は意図せず怒鳴ってしまったことに困惑して、その場に留まれずにコモナから逃げるように走り出した。



 元の世界とは明らかに違う自分の走る速さに実験後から茫然と生きていた和樹の思考とは違い、現実を改めて実感して嫌気がさしてきた。

 立ち塞がる木々はなぎ倒し続けた。


「クソッ! クソッ! これも全部ここにこんな体で送り付けた神のせいだ! 魔族も決して許さない!」


 暴れる和樹に木々は拳で穴が空き、続々と倒される。

 草木は騒めき生き物は逃げるようにいなくなった。

 暴れても解消されないことにさらに虚しさを感じた。

 

 暴れることを辞めた和樹は空が見えるほど木々がなぎ倒された場所に座り込んだ。

 すると草陰から少し落ち着いた和樹を確認してコモナが歩み寄ってきた。


「……大丈夫? まさか和樹の心の鍵が怒りだとは思わなかった」


 和樹にはコモナの発言の意味が全く理解できなかった。


「鍵? 何のことだ?」


 コモナが少し笑った。


「和樹、今なら自分の心がわかるんじゃない?」


「な……」


 コモナが言うように少し前の心とは違う、ハッキリとした心を感じた。


「私のお祖母ちゃんはこの村に来てからは心の研究をする学者になった。その影響もあって小さい頃に色々教わった。昨日の夜まで忘れていたんだけど和樹に撫でられて思い出した。昔よくお祖母ちゃんに教わったことを覚えると頭撫でてくれたの。教わったことの中に心を閉ざした者のことも聞いた」


「心を閉ざした者?」


「過剰なストレスや苦痛が原因で心を閉ざし、その原因になるものから心を守ろうと鍵をするの。鍵をしている間、心のダメージは減るけどその代わりに他の感情や感覚、表情も薄れていく。もしかしたら和樹もそうなんじゃないかと思った」


「鍵はどこにある?」


「……心のどこか。どこかというよりなにか。そのなにかは人それぞれ。何か見るのか。誰かに会うのか。鍵をかけた本人ですらわからなくなる。普通に鍵を探すのはとても難しく時間がかかる。けど近道はある」


「近道?」


「鍵をかけた時のことを思い出すこと。けどこれは慎重にしなくちゃいけない。思い出すと言事は、その辛かったことすべてをその思い出した瞬間に凝縮されて心にダメージを与える。中にはそのダメージに耐えかねて暴れたり、自ら死を選ぶものもいる」


「だから俺は暴れたのか……」


「自殺しようとしたら私が必ず止めようと近くで見ていたの。昨日の夜も言ったけど、心の底から感じたものは勝手に口に出る。それで聞いていたけど、神や魔族って言っていたけど何かあったの? よかったら私に和樹の話を聞かせて。力になりたいの」


「なんでそこまでしてくれるんだ?」


「私が森が騒めいているのに気が付いて、見に行ったらたまたま見かけた和樹を助けた。けど助ける以外に何か運命や役目みたいなものを感じたの」


「それだけでここまでしてくれるのか?」


「最初はそれだけだったけど、今は違う。巨大魚の件とか他にも色々あるけどこれ以上は言わない!」


 クスッと和樹は少し笑った。


「あ。初めて笑った」


 以前とは違いコモナの笑顔が明るく見えた。


「笑うだろ。たったそれだけの理由でここまで心配してくれるんだから。だけどその心配の必要はない。俺は死なない」


「よかった」


 わずかな静けさの後、和樹は語ることにした。


「正確には死なないんじゃない。死ねないんだ」


 コモナには和樹の言っている意味が理解できなかった。


「どういうこと?」


「俺はこの世界の人間じゃない。異世界で死んだらこっちに送られた」


「え? たぶんそれ転生者だよ! だって異世界から死んだらこっちに来たんでしょ? 私のお祖母ちゃんも転生者だよ! ……でもなんで死んじゃったの?」


「自殺だよ」


「……なんでそんなことしちゃったの?」


「あの辛いだけの世界に生きる意味が分からなかった。そしていっその事自殺してその世界から逃げようと思った。まさか自殺したら不死身の体で生き返らせられるとは思わなかったけどな。そしたらいきなり魔族の実験体にされて苦痛の続く日々。そしていつしか感覚や感情がなり人ならざる力の身体能力を得た。なんで神は俺にこんな体で転生させたのかな……」


「あちらでもこちらでも辛く苦痛を味わい生きる意味を見出せずに辛かったんだね。でもきっと神様は命の大切さを知ってもらうために不死身の体にしてくださったのよ」


 和樹はコモナから空に視線を移した。

 コモナの言葉の意味を考えた。


「命の大切さか……そんなこと考えたことなかった。何かを考えだすとすぐ何もかも嫌気がさして死にたくなる気持ちでいっぱいになっていた」


「和樹の人生は新しく始まったばかり。今までは辛かったかもしれないけどこれから生きていてよかったと思えるような素晴らしい生活を送ればいいのよ」


「これからか……」


「生きるということは楽しいさや幸せな嬉しい気持ちだけでは成り立たない。そんな生き方が出来たとしてもそれは徐々に幸せな気持ちの価値が薄れ、今度は退屈な生き方になるかもしれない。生き物は皆、大変なことや辛いことを体験することになる。だからこそ、それを乗り越えた先に価値あるんだよ。夢や達成感、そして幸せが。和樹は辛い人生の先の何かを見つけられた?」


「辛い人生の先……」


「まだでしょ? まーこんな偉そうに言っているけど、これもお祖母ちゃんから教わったことなんだけどね。正直、私もまだ夢は見つかってない。今は、日々命を大切に生きようとしている。……私が和樹を支えてあげるから一緒に自分の歩む道を見つけてみない?」


「……勝手にしな」


 コモナの話を聞いたら断れなかった。


「勝手についていくね!」


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