わがまま
8年にもなるとカナもだいぶ大きくなり和樹が体調が悪いのはわかり始めていた。
「パパ。大丈夫?」
そうやって声をかけてくれるカナをいつも大丈夫だよと言いながら撫でてあげた。
シュイは立派な大人の魔術師になり、最初は和樹の体調をよくさせようと薬草を探したり研究していい薬を作ろうとしていた。和樹とコモナがそれを見ていてある程度の嘘を入れて話をした。
和樹はシュイと同じ転生者で、神様が改心のために不死者の力をもらい、魔族にも力をもらい、その力で自らを犠牲にして魔王を倒した。
そこでいなくなるはずだった和樹は神様に救われて、シュイを導くように頼まれ、前から望んでいた不死者の力を取り除いてもらった。
皆のいる世界に戻ると、魔王を倒した新たな英雄、無限の魔術師と称されたが、不死者の体を失った影響で、自らの力に体がもたないと言った。
余命は後2年と告げると、シュイは一時的な感情で力を吸い出そうと言い出すが和樹は自然の流れで生き、そして死にたいと告げた。
シュイは今まで和樹の背中を見てきていたのでその考えは理解できたが悲しさが抑えられなくしばらく泣き始めてしまった。
その時、久々にコモナもシュイと共に涙を流し悲しみを共有した。
シュイがしばらくして落ち着くことができた。
9年目に入ると和樹は徐々に歩けなくなり、ベッドで寝る生活になってしまった。
コモナに負担を掛けないように体を洗ったり、トイレなどは力を使った。
カナは毎日外から花を摘んできてくれた
「パパ。これで元気になってね」
和樹はありがとうと言いながらまた撫でてあげる。
エリシスやトイド、国王まで見舞いに来てくれた。
その時いつ死ぬか正確な日にちを先に伝えておいた。
死ぬ1ヵ月前に入ると、和樹はコモナやカナやシュイを見ているともっとそばに居たい。
成長を見届けたいと思い、力を使おうか迷ってしまう自分を押し殺した。
カナを撫でる力もなくなってしまい、カナが寂しそうにしているのをコモナが抱きしめてコモナ自身泣きそうな顔をしているのを見て辛く思う。
そしてついにその日が来た。
ベッドの周りにコモナ、カナ、シュイ、エリシス、トイド、国王が囲むように見守る。
和樹の体は痩せ細り、覇気のない表情をしていた。
皆必死に涙をこらえる。
和樹は最後の自らの力を使って皆に遺言を残す。
「……国王。今でも変わらないが国王に対して失礼な言葉遣いですまない。」
「……気にするな。私と和樹の仲だ」
「世界を変えようと思い国そのものをあそこまで大きく変えてしまった。きっと国王も大変だっただろう。本当に感謝している。これからもエリシスとともに国を豊かに支え民を良き方向に導いてくれ」
「……わかった」
「……トイド。本当に世話になった。トイドがいなかったら俺はあそこまで強くなれなかっただろう」
「……わしこそ、友のマナの遺志を継いで見事成し遂げてくれた和樹にはとても感謝している」
「マナか…… 死んだら会えるのかな……」
「安心せい。わしもすぐに行く」
「……馬鹿。……まだ来るな。シュイや大きくなったらカナの修行も頼む……」
「任せておけ」
「……エリシス。共に訓練し戦い抜いた友として感謝している」
「私こそ、和樹のような方と共に戦えたこと光栄に思います」
「国王と共に国と民をよろしく頼む」
「……わかりました」
「エリシスなら立派な女王になれる」
「……ありがとうございます」
「……シュイ。出会った時、不安そうな顔してこちらを見ていた顔を今でも思い出せる。今は美人で立派な魔術師になったな」
「……すべて、師匠のおかげです」
「シュイならもっと強くなれる。強くなって困っている人を助けられるような偉大なる魔術師になれ」
「もちろんです……」
「お前ならコモナや俺の考えを継げることができると思う。その心カナが大きくなったら教えてあげてほしい。カナやコモナを支えてやってくれ」
「……はい」
「カナ。お父さん、別の世界に行っちゃうけどいつもカナのこと見ているからね」
「……帰ってくる?」
「帰れないけど、いつもカナの心の中に居るよ」
「パパ! 行っちゃやだよ! もっと撫でてよ!」
和樹は最後の力を振り絞りカナの頭の上に腕を置いた。
カナはその手をギュッと握りしめる。
「……コモナ。……カナを頼む。父親の俺がいなくなって寂しい生活を送らせてしまうかもしれない」
「……あとは任せて和樹」
「コモナに出会えて本当に良かった。きっと出会わなければ俺は道を間違え改心できずに苦しむだけの人生だったかもしれない」
「……私も和樹に出会えてよかったよ」
「今もそうだが、わがままや勝手なことをしてばかりだった。最初は湖の中に飛び込み、黒魔術に手を出し、魔王を1人で何も言わずに消えて、そして今もこうして俺のわがままで皆を悲しませている」
「……本当だよ。いつもいつも心配ばかりさせて…… でもそんな和樹が私は大好きだった」
「……俺もだ。死ぬってわかった上で結婚してくれてありがとう。
コモナに出会ってから今に至るまでとても幸せで素晴らしい人生だった。俺が死んだら早くいい男見つけて再婚しろよ」
「……馬鹿」
最初は涙をこらえていた皆だが声を掛けられるたび涙を我慢できずに流れ始めた。
「……俺の体はあの青白い綺麗な花畑が見えるところに埋めてくれると嬉しい。……最初で最後の使い方だけど、これぐらいの力の使い方なら神様も許してくれるかな」
和樹は全知全能の力を使い、皆の涙を止め、悲しみを無くした。
皆すぐに気が付いた。
「和樹! こんなのずるいよ!」
「……コモナ、ごめんな。最後のわがままだ。許して、く……れ」
カナの頭の上に載っていた手がパタリと倒れた。
涙が出て、悲しくて仕方がない場面なのにそれができないことに皆、心が泣いた。
これで完結となります。
最終話まで読んでいただきありがとうございました。
勢いで書いたのもあり誤字脱字が多かったと思います。
場面が見えづらいところがあったと思うので最初の話から徐々に修正を入れていく予定です。
評価や感想をいただければ今回の作品や次回の作品に活かしていきたいと思います!