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 その夜は住人総出で宴会をすることになった。

 村の広場に横たわった時、見上げるほどの厚さがあった巨大魚が住人によって調理され骨だけになった。

 それでもなおものすごい大きさで残されていた。

 

 机の上に料理が並び住人で賑わう広場に和樹と1人の隣に男性が巨大魚の骨を背に皆の前に立った。

 無理矢理立たされた和樹は皆の視線に耐えられずに俯いてしまった。


「今夜は大昔から湖の主として生息していた巨大魚をこの和樹が仕留めた。我々の中には村のためにこの巨大魚に挑み亡くなった家族もいるだろう。しかし、それも今日までだ! これからは湖で漁ができ、村はさらに豊かになるだろう。生き物を狩った者たちとして命に感謝を込めて我々の生きる糧として頂こう。まずは乾杯だ!」


 皆、飲み物が入った杯を片手に持った。


「和樹に乾杯!」


「乾杯!」


 

 皆の乾杯とともに宴会が始まった。


 和樹の座ったテーブルには他のテーブルより品数が多く、どれも美味しそうに見えるが元の世界でも大勢で食べることが苦手だった和樹は落ち着かずに料理に手を出せていなかった。


「和樹どうしたの? 食べないの?」


 茶色いタレのついた魚の切り身の串焼きを片手にコモナが歩み寄ってきた。


「これ美味しいよ。食べてみな」


 コモナは自分の串焼きを和樹の口元に差し出した。

 タレの食欲をそそる匂いが伝わってくる。

 思わずかぶりついた。

 肉のような脂の乗った白身を食べると和樹の緊張は少し和らいだ。


 料理から宴会を皆に視線を移した。

 自分がしたことでここまで皆がはしゃぐことに和樹は不思議な気持ちを感じた。


「コモナは巨大魚を退治されてどんな気持ちだ?」


「嬉しいよ。私は特に嬉しい……」


 コモナは嬉しいと言いながら笑顔で喜ぶのではなく少し俯いた。


「私のお祖母ちゃん。昔はすごい人だったんだけど王都のために力を使ってほとんど力が無くなっちゃった後にこの村に来たんだけど、もしお祖母ちゃんが力が無くなる前に来てくれてたらきっとだいぶ昔にあの巨大魚は倒されていたと思う。お祖母ちゃんの娘である私のお母さんが代わりに倒そうとしたんだけど、お父さんがそれを止めて村のためにあの巨大魚をお父さんが退治しようと挑んで深手を負って死んじゃったの。私の家族はまだいいほう。中には食べられて、別れを言えなかった家族もいる。この世は、弱肉強食。巨大魚も生きるためにご飯や縄張りを守ろうと必死なんだと思う。わかってはいるけど家族や周りの人が死ぬのは特に悲しいよね」


 コモナは急に涙を流し始めた。


「だから、和樹が湖に飛び込んだ時はお父さんやみんなと同じようになっちゃうんじゃないかと心配で仕方がなかった。……ごめん。いろいろ思い出したら涙が出てきちゃった。すぐに泣くのをやめるから」


 必死に涙を手でぬぐうが止まらなかった。


「無断で勝手なことをした。ただ食材を取ろうとしただけだった」


「それでも私を含め、和樹が成し遂げたことに皆感謝しているよ。でもあまり無茶しないでね」


 感謝も目の前で泣かれたことのない和樹にはコモナにどう接したらいいかわからなかった。それより自分の胸のあたりに感じる違和感に戸惑う。


「……コモナは感謝されたらどんな感じになる?」


 瞼は赤いが泣き止んだコモナにこの違和感の原因を知るために聞いてみた。


「感じというより、やってよかったとなと思えるかな。相手に感謝されるほどの影響を与えられたから

ね。感謝されるといい気分になって私まで嬉しくなるかな」


「嬉しい……」


「どうしたの?」


 和樹は左腕を胸に当てた。


「俺は嬉しいのか? この辺りに違和感がある」


「きっと嬉しいんじゃないかな。私が逆の立場でここまでみんなに感謝されたら嬉しいな」


「そっか……」


「でも心は人それぞれ。もしかしたら和樹が感じているものは違うのかもしれない。自分の心を理解するのは難しい。相手の心を理解するのはもっと難しい。だから、みんな自分の考えを相手に言葉で伝える」


「心……」


「自分の心がわからないなら、まず言葉や行動に起こしてみるのがいいんじゃないかな。そこから答えやヒントが見つかるかもしれないよ。今は食べましょう」


 和樹は料理に手を出し始めた。



 

 

 しばらく経ち、ご飯を済ませた和樹は1人、大木の階段を登り上から未だに盛り上がる広場を座りながら見渡しコモナの言葉を思い出していた。


「言葉や行動……」


 するとコモナが現れた。


「こんなところにいた。少し離席したら急にいなくなっているから探しちゃったよ。どうかしたの?」


「……」


「私がさっき言ったこと気にしているの?」


「……」


 沈黙を続ける和樹を見たコモナは何となく察し和樹の横に座った。


「……悩ませちゃったか」


「自分のことがわからない」


「さっきも言ったけど言葉や行動に起こしてみるといいよ。和樹は他の人より口数が少ないけど多少は喋っている。……なら次は行動で試してみる? 話に出た嬉しいって気持ちがどんな感じか確かめてみようよ」


「そんなことできるのか?」


「んー難しいけどやらないよりやってみるほうが絶対にいい」


 するとコモナは和樹の頭を撫で始めた。


「何をしているんだ?」


「ナデナデ。何か感じる? 気分はどう?」


「何も感じない」


「そっかー。私は撫でられると嬉しいけどな」

 

 少し落ち込むコモナの頭に和樹は手を伸ばし、されたことを同じようにやってみた。

 サラサラの髪にピクリと反応する耳。


「こんなことが嬉しいのか?」


「……うん」


 コモナは顔をそむけた。

 するとパッとこちらに振り返った。


「わかった! 今までの和樹を考えれば簡単なことだよ。和樹は今まで癒しの効果がある森では綺麗と言って、お母さんの料理には美味いと答えたわ! 綺麗も美味いも感じ取った心の声よ。きっと和樹は心の底から感じたものは勝手に口に出るよ! その言葉が心のヒントになるよ! 嬉しいことがあれば、きっと嬉しいとかそれに近い言葉を出すよ!」


「なるほど」


「明日からは食材探しをしながら色々なことを試してみましょう!」


「わかった」


「それもだよ! わかったって事は、和樹は自分の心を知りたいんだよ。知りたくないならきっと断ったと思う。今日はもう夜遅いからこれくらいにして、寝ましょう」


 コモナの言葉には説得力がある気がして和樹はコモナに少し頼ろうとしていた。


 そんな話が合ったなか、宴会で住民の勢いがまだ収まりきらないうちに2人は家に戻った。

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