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 王広間で皆椅子に座りながら、飲み物を飲んでいると和樹が唐突に話し出した。


「急な話だが俺はあと10年くらいで死ぬ」



 皆、あまりにも急な話に驚きつい手に持っていた飲み物を落としてしまった。


「和樹! どういうこと?」


 今にも泣き出しそうな顔でコモナが飛び寄ってきた。

 皆の顔も不安な表情をしている。


「俺の体が魔族の薬などの実験の影響で長くは生きれないみたいだ。ある程度は体に順応しているが、不死者の体ではない普通の肉体では耐えられないらしい。力で調べたら、薬は徐々に体を蝕み余命は約10年」


「そんなの力で治せばいいじゃない!」


 ついにコモナは声を荒げて泣き出してしまった。


「それはダメだ。俺は今まで不死者の体だけでなく魔族の実験であれだけ戦えたんだ。今となっては実験にも感謝している。都合よく体を直したら、そこから今度は死なないようにまた不死者と言った流れが生まれてくるかもしれない。何より俺は自然に生きその流れに任せて死にたいんだ。皆、力はあるのに使わない俺を許してくれ」



 コモナは思わず王広間から飛び出て行ってしまった。


「和樹の言い分もわかるが、あまりにも辛い現実じゃ」


「……私は和樹のその考えを尊重します」


「そうだな。私もエリシスと同じ意見だ」


 3人は許してくれた。


「和樹、死んじゃうの?」


 シュイは心配そうに見つめてくる。


「すぐには死なないよ。生き物は遅かれ早かれ死ぬものだから。俺は少しだけ皆より先に死んじゃうだけ。まだまだ時間はあるから、シュイ。いっぱい遊んだり、魔術の修行しよう」



「……わかった」


 まだ子供なのに物分かりのいいシュイに和樹は安心した。

 

 問題はコモナだった。

 シュイをエリシスに頼んで和樹はコモナが寝ている部屋に向かった。


 ノックをするが反応がない。

 勝手にドアを開けると、ラウンジの椅子にコモナは座り込んでいた。



「コモナ…… わかってくれ……」


 またコモナは泣き出しそうになった。


「……和樹の考えはわかる。私たちの種族は和樹の言うように自然にゆだねる。森で果実や生き物を狩り、食べて生き、死んだら森栄養になって巡る。 ……でも! 好きな人が10年後には死ぬって言われて考えがわかっていても寂しいこの気持ちは抑えられないよ……」


 和樹は一瞬コモナの言葉に耳を疑ってしまった。


「俺のことが好きだったのか?」


「そうよ! だからいつもあれだけ心配していたんじゃない……

 いつも和樹のことを考えている。和樹の頑張る姿を愛おしく思う反面、心配で仕方がなかった」


「……気が付いてやれなくてごめん。俺は恋とかそういうのしたことなくて……」


「和樹は私のこと好き? 嫌い?」


 和樹はその質問に慌てて答えた。


「嫌いなわけないだろう! 俺を助けてくれて支えてくれたコモナを嫌いなわけがない。この世界で一番大切だと思っている」


「嬉しい…… 一番大切に思ってくれているなら生きている間ずっとそばにいてくれる?」


 コモナは泣き顔ではなく笑顔で聞いてきた?


「もちろん!」


「なら、私と結婚して?」


 急な申し出に和樹は驚いた。


「え、でも…… 俺は10年後には……」


「その10年を幸せいっぱいなかけがえのない人生にシュイも一緒にしようよ!」


 和樹はコモナのこういったところに引かれていたのかもしれない。そしてこれが自分でもわからなかった恋だったのかもしれないと思った。


「わかった。結婚しよう」



 コモナは和樹にギュッと抱き着いた。

 和樹も抱きしめ返した。

 コモナは背伸びして和樹の頭に手をかけてコモナの顔に近づけてキスをした。



 そしてキスを終え一度離れると、コモナの顔つきが何かを必死にこらえる顔に一変した。


「和樹…… ザキ出して?」


「……わかった」


 ザキが和樹の影から現れると、コモナは手を握りしめた。


「ザキ! 今だから言えるけど前に私の和樹に勝手にキスしてたのよ!」


 今にも飛び掛かってきそうなコモナにザキは恐れて、和樹の背中に隠れた。


「わるかったよ。あれも対価の1つだ。仕方がないだう」


「わかっている…… わかっているけど…… なんか許せない!」



 さっきまでのシリアスな雰囲気とは一変めちゃくちゃな雰囲気に変わってしまった。




 すぐに2人は皆に報告して、祝福の言葉をもらい国王のご厚意で祝いの宴をしばらくたった後、コモナの母や村人も呼んで王城で執り行われることになった。


 大勢の人や亜人が交流しながら二人を祝福して、酒やご馳走を食べる。


 会場の一番奥の段差のある所に和樹とコモナは椅子に座りながら料理を食べていた。

 元の世界と違い、結婚式のような何かをするわけでもなくただ宴で祝福されるだけらしかった。


「コモナ。夫婦は何か夫婦になった証みたいなものはないのか?」


「特にないよ。肝心なのはお互いの気持ちだから」


「そっか……」


 和樹はふと手からあるものを作った。


「コモナ、左手を出して」


「……こうでいいの?」


 和樹はコモナの左手の薬指に自動でサイズが変わるシルバーに輝く指輪を身に付けた。

 和樹も自分の左手の薬指に指輪を身に付けた。


「綺麗な指輪だけど、何これ?」


「これは俺のいた世界の結婚した証を示すんだ。左手の薬指に同じ指輪を身に付ける」


「そうなんだ! 大切にするね」


 そのコモナの笑顔に和樹はいつ見てもコモナの笑顔を見ていると癒される気がした。



 しばらくすると宴が始まる前に少し話はしたがコモナの母がやってきた。


「あの時の和樹が、新たに出現した魔王を倒した英雄になって、偉大なる魔術師として無限の魔術師っていう立派な二つ名を持つようになったのにも驚いたけど、まさかコモナと結婚してくれるだなんて嬉しいわ。……私ももう家族なんだから、お母さんとかって呼んでもいいんだよ?」


「……お母さん。またお世話になります」


 2人して恥ずかしくて目をそらしてしまった。

 家族になった母は皆のいるところに戻った。


 今度はシュイがお皿に色々食べ物を載せて鼻歌を歌いながらやってきた。

 元気を取り戻し、他の人とも話せるようになったシュイを嬉しく思う和樹だったが、一瞬何かが引っかかった。


 和樹は一瞬悩んだがすぐに気が付いた。

「コモナ! 歌とか音楽って知っているか?」


 和樹はこの世界に来て、音色すら聞いたことがなかった。

 シュイの鼻歌で気が付いた。

 こんな大きな宴なら音楽の1つはあってもいいように思えた。


「何それ?」


 やはり、この世界には音楽が存在しない。


 シュイが和樹の隣に座り皿を置くと、いっぱい撫でた。


「シュイ! シュイのおかげで何となくわかった気がする! ありがとう」


「ん?」


 シュイは何が何だかわからなかった。



 和樹は立ち上がり試してみることにした。


「皆、盛り上がっているところすまない。ちょっと聞いてもらいたものがある」


 和樹は全知全能の力を使い、全く音楽の知識はないが元の世界を思い出しまずは癒されそうな音楽をその場に流してみた。


 バイオリンやピアノを中心にした美しい音色。

 その音色を聞いたものは酒を飲むのをやめ、皿を置き聞き入った。


 中にはあまりの美しい音色に心が震えて涙を流すものまでいた。


 次にポップな明るいテンポの良い音色。

 すると会場は盛り上がった。


 音楽を止めると拍手喝采で皆大喜びのようだ。


「今のは音楽という。今は魔術で流したがこれは木や金属で作る楽器というもので最初は難しいがうまくなれば今のような音を流すことができる。興味があるものはあとで教える」


 すると、和樹のもとに人々が押し寄せてきた。

 あまりの反応の良さに驚いた。



 和樹はこれをきっかけに色々と思いついた。


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