無限の魔術師
「無限の魔術師、和樹か…… 確かにふさわしい二つ名ね。よくコモナ思いついたわね」
エリシスの誉め言葉にコモナは少し恥ずかしく思えた。
「和樹は今までいくつもの魔術を生み出してきた。そこにさらに力を手に入れてふと思いついたの。限りの無い魔術師。無限の魔術師って」
「無限の魔術師?」
シュイはアイスクリームを食べ終えて、話に混ざってきた。
「俺の和樹っていう名前とは別に国王から新たにもう一つの栄誉ある名前をもらうことになったんだ。それが無限の魔術師」
自分で言っていて恥ずかしくなる和樹。
「魔術師って何?」
和樹は掌から色々な属性を小さく出して見せてあげた。
「これが魔術。そしてこの魔術を使う者を魔術師っていう」
和樹の掌から出てくる属性にシュイは興味津々であった。
「私も魔術師になれる?」
「シュイも魔術師になりたいのか?」
「なりたい!」
シュイの好奇心にあふれ元気な発言に和樹はふとシュイの頭に手を当てた。
「そっか。じゃああとで魔術の練習してみよう」
「わかった!」
シュイはとても嬉しそうだった。
「和樹よ。お主はこれからどうする? シュイの面倒を見るのはわかったが、その心を明るくするとはつまり何をする。そして今この世界にまだ居る魔族達はどうする?」
和樹は少し間をおいて話し出した。
「心に関しては考え中だ。魔族に関しては俺をもう倒す気はない。魔族も人間や亜人がともに仲良く生きれる世界を目指したい」
「魔族とともに生きれる世界か…… それは難しそうじゃの」
「そうだな。
けど俺の世界では同族同士で争い憎しみ合う時代もあったが人は変わる。
きっと魔族も変われると思うんだ。
少し前の俺は魔族を倒すことでしか止めることができなかった。
今の俺なら無理矢理、思考を変えさせて平和を作ることもできるかもしれない。
しかし、俺はそんな力の使い方をしたくない。
生き物の中でも知性の高い人間や亜人や魔族は変わることがいいところだと思っている。
コモナが俺を救ってくれて変わったように俺もしたいんだ。
中には変わることを拒む者もいるだろう。
だから無理に変えるのではなく心を明るく灯してあげてきっかけを作ってあげて、そこから己の考えで変わってもらいたい」
「今のお主にそんな力を与えたのも何となくわかる気がする」
コモナもエリシスも頷きわかっているようだった。
「ちょっと力を使って魔族という存在を調べてみる…… なぜ、人間や村を襲うかわかった。答えは魔族の好戦的で戦いに快楽を感じ自らが強者だと思っている生き物。そんな中言葉を発する生き物に対して叫びや怯えを見て快楽を感じることから襲うらしい」
「さすがすごい力じゃな」
「ちょっとお披露目の時にやってみようと思う事ができた……」
和樹は思いついたことでつい笑みを浮かべた。
お披露目の時間がやってきた。
王城の正面テラスに国王と和樹が立ち、シュイはコモナと手をつなぎながら少し後ろに立っていた。その横にはエリシスとトイドも後ろから和樹のお披露目を見物する。
王城広場や町の広場が見渡せるところに立ち、大勢の人々が見えた。
和樹はふと疑問に思った。
「こんなところで後ろの人々には声が届くのか?」
「届くのは王城広場に居る人だけだろうな。そこから噂が広がるから安心するといい」
和樹はそうだろうと思った。
「ちょっと恥ずかしいがやりたいことがあるのだがいいか? あと俺も話したいこともある」
「いいが、何をする気だ?」
国王は和樹のやりたい事というものがどれほどのものになってしまうかが、予想がつかず少し怖く思えた。
和樹はすると王城の真上や町の広場、隣国の人々がいるところや魔族がいるところまで世界全体に真正面から自分と国王が映る、テレビのような映像を大きく出現させた。
皆、見たこともないあまりの光景に驚いた。
『国王これは世界全体に出現させています。これなら世界の人に俺のことや声が伝わると思います』
国王は息を呑んで喋りだした。
「我はエルファルト国王のボルクス・キュバリエルである。そしてこの横に立つ者こそ、新たに出現した魔王を倒した新たな英雄、和樹と申す。この我々を見せている魔術も和樹が生み出したものである。この類まれなる魔術の才能と強さを評して英雄和樹ではなく、無限の魔術師、和樹という偉大なる魔術師として世界に和樹を紹介する!」
王都中から歓喜の声が響き渡った。
歓喜が少し落ち着くと和樹が緊張しながらも喋りだした。
「国王から紹介を受けた和樹だ。俺は皆に伝えたいことがある。
あえて言わせてもらう。
人や、亜人、魔族、生ある生き物、すべて醜い存在だ!
私欲で他の生き物を狩って食べ、同族や他族を殺したり、中には弱者をさげすむ。
悪い所を言い出したらきりがない。
しかし、俺らは変われる生き物だ!
自分が犯した罪を悔い改めることができる素晴らしい力を持っている。
俺もそうだ!
昔人生に嫌気が差して自ら罪を犯した……
しかし、俺は色々な経験や出会いを通して、心が昔とは大違いに変わることができた。
変わると今の俺には世界やそこに生きる者がとても美しく見える。
俺の勝手な自己満足かもしれないが俺はこの改心できた時の気持ちをなるべく多くの生き物に知ってもらいたい……
たまにでいい……
自分の心と向き合ってみてくれ
この魔術は魔族も見ている。
魔族にあえて言う。
自分を強者だと思い他者を虐げる行為はいずれ復讐の連鎖で自分に跳ね返ってくると思え。
魔族が生き物を殺せば、その生き物は恨みを持ちいずれ復讐しに来るだろう。
俺は見ているぞ。
今の俺は魔族達の長である魔王より遥かに強いと思え。
殺す覚悟があるものはいつでもその場で俺を殺してやると思え。
瞬時に俺が現れ相手をしてやる。
けどな、こんな脅しのようなことを言っているが俺は魔族とも仲良くなりたいと思っている。
魔族に殺された人間や亜人は大勢いるだろう。
けどそれは憎しみの連鎖を生み、戦争を作り出し更なる悲しみを生み出すと思え。
あとで俺は魔族と話しをしに行こうと思う。
その時はいがみ合うのではなく楽しく話せることを望んでいる。
そして最後に!
生き物は生き物を食べて生きて行っている。
これは殺しをしているのと変わりはない。
やめろという話ではなく、生き物は巡る。
草を小さな生き物が食べ、その生き物を大きな生き物が食べ、それを人間や亜人や魔族が食べる。
そしてその人間や亜人や魔族がしに土にかえりその養分を吸いまた草が生え、巡っていく。
そこで食事をするときは命をいただきますという意味でいただきますと言って生きるための糧として感謝を込めながら食べ始めてほしい。
長々と話したが聞いてくれたみんな、ありがとう」
そこで映像を切り和樹は城の中に入った。
横にいた国王はあまりの和樹の名演説に聞き入ってしまい目で追うだけで何も言えなかった。
国民達も同じでさっきのように歓声は出なかった。
「シュイ、待たせて悪かったな」
シュイはコモナの手を放し、和樹の手を握りに来た。
「大丈夫。和樹、かっこよかった」
「ありがとう」
微笑みながらシュイを撫でてあげるとまたクラっと立ち眩んだ。
「和樹、大丈夫?」
とっさにコモナが支えてくれた。
「ちょっと喋りすぎたかな。みんな、ちょっと話がある」
6人は王広間に向かった。