全知全能
和樹が日が昇り始めたころに目を覚ますと酒の飲みすぎで城内も街中も酔いつぶれる人々がいたのを感じて、そっと自宅の自分のベッドに転移させた。
シュイを起こさないようにラウンジに出た。
日が昇り切る前でまだ肌寒かった。
ラウンジにある椅子に座り背景を眺めていた。
昨日まで戦いがあったとは思えないほど穏やかな朝だった。
『和樹様。おはようございます』
『ウェルマもおはよう。どうした?』
ウェルマが姿を現した。
「和樹様のその力。前の比にならないほど強さを感じます」
「ウェルマにはお見通しだよな。……神に不死の体を直してもらったけど、また力をもらってな。力な名前は全知全能」
ウェルマは驚きのあまり一歩引いた。
「それはつまり神に等しい力ということですか?」
「そうみたいだ。神は俺にこの世界を平和に導いてもらいたいらしい」
「さすが和樹様です。私はそんな和樹様に仕えることができて光栄です」
『そんな力手に入れたのなら私らは用済みじゃないか』
ザキも現れた。
「確かに力に関して俺はこれ以上にない最強の力を手に入れた。けどザキとウェルマは力のためだけの存在だなんて思ってない。これからも一緒に居てくれないか?」
「もちろんです」
「フンッ。付き合ってやるよ」
ウェルマはザキも和樹にとってかけがえのない仲間である。
「ありがとう。それにしても本当に何でもありな力だな。知識を得るのはいいが人の心も読めるだろけど心を除くのは極力やめよう。この力ももう少し考えて使っていいもの使ってはいけない物を考えるべきだな」
「そうですね。過剰な力は己や周りを滅ぼす可能性もあります。不死の体ですら異常な能力ですが、神の力までとなると異常を通り越して想像を絶する力です」
「……そうだな」
ウェルマの言う通り和樹は力に飲まれないように気を付けようと気を引き締めた。
話をしている間に外が完全に明るくなり、シュイが起きてきた。
「シュイ。おはよう」
眠そうなシュイがザキとウェルマを見てパッと目を覚ました。
シュイはウェルマをじっと見つめる。
「綺麗……」
ウェルマはつい嬉しくなり、シュイに抱き着いた。
「嬉しい。シュイちゃんは見る目があるわね」
「シュイ! 私はどうだ!」
ザキも対抗してきた。
「んー…… カッコいい」
ザキも嬉しくなりシュイを撫でた。
「シュイ、この二人は俺の精霊と悪魔だ。力を貸してくれたり支えてくれる頼もしい仲間だ。とりあえず、朝ごはん食べに行こう。そしたら俺は皆に色々話さなくちゃいけないことがあるけど、シュイも来るか?」
「行く」
「それじゃあ行こうか」
「うん」
シュイは和樹の手を握り部屋を出た。
いつもは部屋に食事が届けられたが、今日は色々な話があり王広間に長テーブルが用意されてそこで朝食をとることになっていた。
王広間のドアを開けると、すでに皆座って待っていた。
「おはよう、和樹。遅いようだったから先に食べさせてもらっていよ」
国王は昨日の誘いを断ったことに怒ってはいそうになかった。
「昨日は誘いを断ってしまい申し訳ない。シュイが心配で……」
「その子はシュイというのか。まー2人とも座って食べよ」
和樹は少し離れた椅子の間隔を近づけて一番端にシュイを座らせてから和樹も話しやすいように皆の座る方に腰かけた。
座ってしばらくすると朝食が運ばれてきた。
食べ始め、しばらくするとシュイが和樹におねだりした。
「和樹。昨日の冷たくて甘いの食べたい!」
「……わかった」
和樹はシュイの死角になる横に手をまわしアイスクリームを出現させた。
「これでいい?」
「うん!」
シュイは美味しそうに食べ始めたが、今の和樹の動きに皆は注目していた。
シュイには見えないが皆の位置からは丸見えだった。
「和樹よ。今のもそうじゃが色々説明してはくれないか? 昨日はその子…… シュイじゃったか? シュイのために和樹がそばにいてやりたいということで話はなかなかできなかった」
「昨日は悪かった。今からゆっくり話そう」
皆の視線が和樹に集まった。
「昨日も言ったが、俺は確かにこの世界から存在が消えた。
そして目を覚ますと初めてこちらに送られた時と同じ空間に居た。
本当ならそこではなく別の次元に存在していたのだが神が俺を救い出してくれた。
そしてこの俺と同じ転生者のシュイを良い方向に導いてほしいと頼まれた。
頼まれる代わりに俺も神に頼んでコモナと出会ってから望んでいた不死者の体を直してほしいと頼み直してもらった。
俺がコモナが俺にしてくれたように皆に幸せな気持ちを教えたり助けてあげたりしたいと神に言ったらある力をくれた……
この力は魔王の時同様、ここだけの秘密にしてほしい……」
皆、息を呑み頷いた。
和樹は隣にシュイがいるので皆の頭に直接語り掛けた。
『その力の名は全知全能。神に匹敵する力を持つ。故に神の代行者と言われた』
コモナとエリシス以外の国王とトイドは初めての間隔でビクッと体が動いた。
『この力は恐らくできないことはない。人を蘇らせることも、この世界を滅ぼすこともまた不死身の体にできる力。神は俺にこの力をうまく使い自然に近い状態で世界を平和に導いてほしいのだと思う。そこまで大きくは考えてはいなかったが死ぬまで皆の心を明るくしたいと思っている。しかし、想像を絶する力故、皆を混乱に巻き込んだり俺が力に溺れて間違いを起こさないように皆俺を支えてくれ。話は終わりだ』
皆余りの出来事と予想外の話に汗を垂らした。
「まさか、これほどとわ…… 話は変わるが後で内容は変えるが再出現した魔王を討伐した英雄として和樹を国民に今日の昼頃お披露目したい。何か相応しい2つ名が欲しい所だな…… 今のことを考えると英雄だけでは収まらない気がする……」
みんな悩む中、コモナがポツンとつぶやいた。
「無限の魔術師…… なんてどうかな? これなら理不尽な力使っても納得されるかもしれない」
「それはいい! 和樹よ! 大勢の前で立つだけでいい。是非新たな英雄、無限の魔術師の和樹として国民達に紹介させてほしい」
「……わかった」
恥ずかしい気持ちもするが立つだけでいいなら和樹は国王の申し出に承諾した。
「ありがとう。それでは私は準備のため席を外させてもらう。皆はゆっくりしているといい」
国王はすぐにお披露目の準備のため王広間から出て行った。