少女
和樹は全知全能の力で和樹が消えたタイミングに転移魔術で5人が泣きコモナが叫ぶ後ろに現れた。
「コモナ。そんな大声出さなくても聞こえているよ」
5人は幻聴と思いながらも思わず振り返った。
5人とも涙を流した酷い顔をしながら幻を見ているかのように目をこすり驚き困惑する。
コモナが泣きながらゆっくりと近づいてくる?
「本物の和樹なの? 幻覚じゃないの?」
和樹はコモナの頭にそっと手を載せた。
「本物だよ。……ただいま」
コモナは涙を止め、右手に力を溜め始めた。
和樹は危険を感じた。
「心配したじゃない! 馬鹿―――!」
コモナの想いのこもったパンチを和樹は防ごうともせずに腹に食らった。
全知全能の和樹だがその攻撃はあえてまともに食らった。
腹を抱える和樹をコモナはギュッと抱きしめた。
「……おかえり」
5人は悲しみの涙ではなく嬉しくて泣いていた。
そして少女は急に状況の変わった世界に驚き、和樹の腕を思わずギュッと握り始めた。
「和樹。その少女は誰じゃ?」
「んー新しい転生者ってところかな?」
和樹はこの子の魔王だったことは死ぬまで誰にも話さないと決めていた。
きっと自分が魔王だと知るといらない心配をさせてしまうと思い和樹はそうしようと決めていた。
「転生者じゃと? 和樹よ。一体何があった?」
5人からしてみたら消えたと思ったらいきなり後ろに居たのだから不思議に思っても仕方がない事だった。
「確かに俺は存在が消えた。そこを神が助けてくれて、この少女を導くように頼まれたんだ。そこで俺も頼んで不死者の体を直してもらった」
「そんなことが起こったのか。……じゃが和樹が無事で何よりじゃ。ここで長話をするのもあれじゃから一度王都に戻ろう」
「そうだな」
和樹はこの場に居るすべての者を王都の王城広場に転移魔術ではなく、瞬間移動させた。
今起きた出来事に皆驚きや戸惑いを感じた。
「何が起きたのじゃ? これも和樹がやったのか?」
「転移に近いけどどっちかというと瞬間移動。 ちょっと色々あって神から別の力をもらったから試してみた」
「その辺も色々聞こう。まずは国王と話そう」
7人は王広間に入った。
国王には魔王復活で皆が荒野に向かったとの知らせしか入ってなく、王座に座り険しい顔をしている国王が驚きのあまり立ち上がった。
「皆、無事に戻ったか! 魔王はどうなった?」
「お父様、落ち着いてください。和樹が見事、魔王を倒しました」
「なに! ……よくやってくれた。和樹。心から感謝する」
国王は和樹に頭を下げて礼を言った。
「もう魔王の心配はないし、魔族も大丈夫だ。今日は頑張った兵達に勝利の宴でもしてあげたらいい」
「そうだな。すぐに手配する」
「女、子供は俺が王都にすぐ戻しておく。きっと家族に会いたがっている人もいるだろう」
「感謝する」
和樹はエルファルト王国の女、子供を全世界察知を使い隣国に和樹の分身を作り今度は驚かせないように転移魔術で移動させた。
家族に久々に会えて喜ぶ人や、家族が死に悲しむ人。
今の和樹の力なら死者も生き返らせられるかもしれない。
しかし、それは世界の理から逸脱しすぎているうえに混乱をまねきかねないことを和樹はわかっていた。
和樹は全知全能の力を無理に使って人の心を動かすのではなくそのきっかけを作るために使おうと考えていた。
その日の夜は王都全体で勝利の宴が始まった。
酒場はもちろん広場や道端でも大人たちはお酒を飲み勝利の美酒に酔った。
和樹は王城内で行われる宴に国王から誘われたが、少女のそばにいてあげたかったので断り2人で和樹が寝ていた部屋でベッドの上に2人で居た。
「寒くはないか?」
「……」
黙り込む少女を見ているとこの異世界に来て実験室から抜け出した後の自分を見ているようであった。
それで思い出した。
「ちょっと散歩に行かないか? 綺麗な場所に連れて行ってあげる」
和樹はまた手を差し伸べた。
少女は恐る恐る手を乗っけてた。
「目を閉じてごらん」
少女はゆっくりと目を閉じた。
「目を開けてごらん」
少女は目を閉じてすぐに風を感じ、目を開けるとそこには以前和樹がコモナに連れてきてもらった青白く輝く花の台地が広がっていた。
少女は目を見開きその光景の美しさに見惚れた。
周りを飛び交う、発光虫に戯れ花に触り匂いを嗅ぐ。
子供らしく跳ねたり走ったり、和樹は見ていて微笑ましく思えた。
和樹はその場に座り込んだ。
「綺麗な所だろ。俺もここは大好きだ」
和樹が喋りだすと少女は動きを止め和樹の顔を見つめた。
「いきなり目を覚ましたら真っ暗な世界に頭の中に直接語り掛けてくる神やそんな異様な所に居る俺にとても不安を感じただろう。
こっちに来てもそうだ。
地球とは違う、見慣れない種族の人や場所や建物。
不安なことだらけだよな。
俺もそうだった。
いきなり神に異世界に呪いのように思えた力を付けられて飛ばされて、いきなり見知らぬ世界と生物。
男の俺でも不安になったんだ。
お前が不安になっても仕方がない。
……あの地球もこの異世界も今は生きづらく感じるだろう。
俺もあの地球には生きづらさを感じていた。
でも今なら地球や異世界、悪い部分だけが見るんじゃなくていい部分も見えてくる。
お互いまだ若い。
一緒にいい部分をいっぱい見に行かないか?
怖いものからは俺が全部守ってやる」
少女は唐突に口を開けた。
「シュイ」
「シュイ?」
「うん。名前」
「そっか。シュイっていうのか。いい名前だな。俺は和樹。よろしくな、シュイ」
シュイとの心の距離が少し縮まった気がして和樹は嬉しかった。
「お腹すいた……」
「何も食べてなかったもんな。何食べたい?」
「んー…… わからない」
「じゃあ目をまた閉じてごらん?」
シュイは頷き、目を閉じた。
「目を開けてごらん」
シュイの目の前には、真っ白な大きなシートの上に和樹は地球の子供が好きそうなオムライス、ステーキや焼き魚、サラダからフルーツ、デザートのアイスクリームまで手あたり次第、料理を並べた。
「わー! 食べていいの?」
「もちろん。色々ゆっくり食べてみな」
シュイはゆっくり食べずに色々口にしていく。
美味しそうに食べ進めるシュイを見ているとまた昔コモナの母が作ってくれた料理の時のことを思い出した。
思い出に浸りながら和樹も久しぶりに地球の料理を食べ始めた。
シュイが咽ると背中をさすってあげてオレンジジュースを飲ませてあげたり口元に着いた食べ物を吹いてあげたり、家族を知らない和樹にも、まるでこれが家族のような食事なのかなと思った。
「お腹いっぱい」
シュイは色々と食べるがやはり子供の胃袋。
あの時の和樹のように完食とはいかなかった。
「シュイ。今日は料理を俺が用意したけど、あとで一緒に料理の食材取り行こう」
「わかった」
お腹いっぱいになったシュイはあくびをした。
「眠くなったか。今日は帰ろう。背中に乗りな」
和樹がしゃがむとシュイは背中に乗っかった。
今回は転移魔術でゆっくりと部屋に戻った。
シュイをベッドに寝かせ、和樹はラウンジに出て外を眺めた。
未だにはしゃぐ人々。
今日の夜はいつにもまして色々と明るく見えた。
すると和樹は立ち眩み自分の体に違和感があった。
全知全能で体を調べて気が付いたことがあったが今は寝ることにした