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頼み

「ここはどこだ?」


 和樹は見覚えのある真っ暗な空間に居た。


「ここはあの神のいる空間か? それとも存在が消された者の世界か?」


『呆れた奴だ』


 聞き覚えのある脳に直接語り掛ける声だった。


「あの時の神のいる空間か」


 なぜか安心感を覚える和樹。


『まさか異世界に行って魔王をここに送り込むとは思わなかったぞ』


「成功したのか。魔王はどうした?」


『ここにおる』


 すると真っ暗な世界に1人の小さい体で顔がまだ幼く褐色肌で赤味がかった髪色の女の子が不安そうな顔で出てきた。

 こちらを眉間にしわを寄せ、二重で大きな目をしたとても目力のある目でこちらを睨みつけくる。

 こちらに警戒しているのか硬い表情をしていたが可愛らしそうな女の子に和樹には見えた。

 しかし、子供にしては威圧感がある。


「この子供があの魔王だっていうのか?」


 和樹は神の言葉に半信半疑だった。


『そうだ。元はこの子も転生者だ』


「なに! なんで転生者が魔王になんかなったんだ?」


『この子のいたころの地球は戦争の絶えない時代で戦いに巻き込まれ親は殺され、親に逃げるように言われ一人逃げ切れたが貧しく厳しい世界だった。

 戦争を憎みながらも何もできない自分を劇ながら餓死してここに来た。

 親は地球で生まれ変わることにしたが、この子はお前とは違い地球に憎しみを持ち、生まれ変わったら 今度こそ大きくなって戦争を始めるような奴を退治してやると言い始めた。

 一見子供の戯言に聞こえるが強い信念を感じた。

 お前と同じだ。

 強い信念を持つ者は地球で生まれ変わってもその信念を抱くことが多い。

 ここに来る者は強い信念や改心が必要なものが来るが2人は後者の改心が必要な分類だった。

 そういう人間は地球に行かせるのではなく、全く環境の違う異世界で生活することで改心することが多い。

 だから2人は異世界に送った。

 和樹は成功例。

 この子は稀な失敗例

 マナはこの子を止めるのと世界を良い方向に導いてくれると思い異世界に送った。』


 神がこの子事を話しているのに反応を示さないのを見る限り直接和樹の脳に話しかけているのでこの子には聞こえていないようであった。


「この子に何があった?」


『地球とは違う、異世界も厳しい世界。

 異世界には地球とは違う色々な力があるから送るときに何かしらの加護を与えるのだがこの子には改心のため人助けをするための回復させる力を与えた。

 最初は不安だらけだったが村人に助けられ、力を使って人々を癒してあげると頼られるようになり人を助ける事にやりがいや喜びを感じていた。

 しかし、魔族が村に攻め込んできて人々が死んでいった。

 この子に命を救う力までは与えなかった。

 回復しても回復しても生き返らない村人たちにまた何もできない自分に虚しさを感じさせてしまった

 魔族を倒したくてもその力がない。

 そこで黒魔術に手を出してしまった。

 悪魔は肉体を対価にするザキと同じで食べるタイプだった。

 肉体を差し出しては自分に回復を繰り返し、身体強化ではなく肉体強化をした。身体強化は魔術の一種で一時的な物でだが強力、肉体強化は永続的な物の代わりに効果は身体強化程の力はない。

 つまり度重なる黒魔術を使うごとにこの子は強くなり続けた。

 いつしか人間の体をやめて見た目は化け物とかした。

 そんな姿に人間は怯え逃げることになった。

 今まで回復してあげて喜んだ気持ちが味わえなくなり、別の方法で人々を守ろうとした。

 魔族の長になり魔族を統率して、争いの内容にしようとしたがそれも失敗に終わった。

 好戦的な魔族が戦いをしたい欲求を抑えられるはずもなく、戦いは続く。

 この子はもうこの世界を見捨てすべてを投げ出し滅ぼす力を欲した。

 そして自らの心を鬼に変え、悪魔に心を食わせてさらに力をつけた暴れまわる怪物を作り出した。

 その後、転生させたマナにより封印させられた』



「そんなことがあったのか……」



 ただの凶悪な魔王かと思いきや、壮絶な過去があることに驚いた。


『我は送り出すことはするが世界に直接介入することはできない。しようとするとあまりにも強大な力故世界が歪んでしまい崩壊する。

 お前をここに連れてこれたのは異世界でも地球でもここでもない異次元に存在していた故、我も干渉できた。

 そして我はお前に感謝をしたかった。

 我はこの子を正しく導けなく転生後も狂わせてしまった。

 そのことを我は後悔していた。

 そこに我のもとにこの子を送り届けてくれて元に戻すことができた。

 感謝する』



「俺は別にみんなのためにたまたまこうやっただけだ。感謝されるようなことではない」



『あのころとは見違えたぞ』


「一つ疑問がある」


『なんだ?』


「そんな強大な力があるなら脳でもいじって無理矢理、改心することもできるんじゃないのか?」


 少しの沈黙があった。


『確かにできる。しかし、我は、人間は自らを変うる力があるところが好きなのだ。逆に人間は醜い部分も多い。故に己で改心させ素晴らしい人生を送ってほしいと思っている』


「なるほどな…… 素晴らしい人生か。今なら何となく言っていることがわかる気がする」


『そんなお前だからこそ頼みたいことがある』


 神からの頼み事とはいったい何なのかと思い息を呑んだ。


『お前を異世界に戻す代わりにこの子も頼めないか? 今のお前にならこの子を正しく導いてくれると信じている』


 和樹にとって願ってもないことで嬉しさに溢れる話だが1つ欲を言わせてもらった。


「それは俺にとっても嬉しい話だが俺からも願いがある」


『なんだ?』


「不死の体を直してくれないか? 俺は皆と生きて同じように人生を歩みたい。そしていつしか素晴らしい人生だったと思いながら死にたい」


『素晴らしい…… お前に感謝を伝えるだけでなくこの子を頼める立派な人間になってこれほど嬉しいことはない。もちろんそれは我がお前に望んでいた答えだ。そして、戻ったら何をする?』


 和樹は即答であった。


「コモナが俺にしてくれたように皆に幸せな気持ちを教えたり助けてあげたりしたい」


『マナを転生させたのも間違えではなかった。マナの遺志はコモナを通し和樹に引き継がれあの異世界を平和にもたらすだろう。そのためには不死とは違う力をやろう。今のお前なら力の使い方を間違えることもないだろうから神に匹敵する力。死ぬまでの間、神の代行者として全知全能の力をやろう』


 和樹の体が白く輝き始めた。

 和樹は驚いていいのか呆れるところなのかわからなくなってしまった。

 

「その前にこの子と話をしてもいいか?」


『もちろんだ』


 和樹は真っ暗な世界を飛ぶようにその子に近づいた。

 警戒するその子を見て、和樹はしゃがんだ。


「俺は和樹。君の名前は?」


「……」


 黙り続ける少女。


「神。この子は異世界の記憶はあるのか?」


『魔王になった記憶は消し、回復の力もなくした。ある程度の魔力は残してあるが、お主はもう神の代行者だ。力を与えたいなら好きにするといい』


「……わかった」


 記憶がないということは魔王の時の記憶でこちらに転移させられたことを怒っているのではなく、こんな場所に居ることに対して、不安や怯えがあるのだと思った。


「話したくなったら話したらいい。今はこんな暗い所じゃなくて素晴らしい世界に行こう?」


 和樹は少女に手を差し伸べた。

 躊躇しながらもそっと少女は和樹の手を取った。




 和樹と少女は転移魔術で異世界に帰った。



『……頼んだぞ』


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