存在
「ちょっと試したいことがある。4人で魔王に攻撃するぞ!」
一斉に4人は魔王に攻撃を始める。
トイドとコモナの攻撃は揺らぐ程度で、エリシスの剣はかすり傷を与える程度。
そんな中和樹はひたすら魔王の広範囲高威力の攻撃を闇属性でどんどん吸収していく。
さらに魔王に触れて、魔王の魔力を吸い始めた。
「なるほど。我から魔力を抜き取ろうというのか! 面白い! 我の底知れぬ魔力が吸いきれるかやってみるといい!」
吸ってはいるが魔王の圧倒的な力の前になかなか攻撃できない。
ただの攻撃ですら衝撃波を出し、翼や尻尾そして両手で4人を平然と相手にする。
激しい戦闘が続く中遅れて兵達がやってきた。
「兵も来てくれたのか!」
和樹はさらに考えを巡らせた。
「今度は大勢の兵か。足手まといじゃないのか?」
和樹は笑った。
「そんなことはない。コモナ、エリシス、トイド。いったん引いて兵と共に俺に向かって魔術でも体術の衝撃波でも何でもいい! 攻撃してくれ!」
「和樹何言っているの?」
「姫、今は和樹を信じよう」
「コモナ。お前も思いっきり攻撃してこい! 俺が受け止めてやる!」
「わかった!」
3人は和樹を信じ丘の上に移動した。
和樹はまた胸に手を突き刺しザキに心臓を食べさせイメージした。
自分の体全体に闇属性を展開して引属性でこちらに吸い寄せるイメージ。
そして完成させると叫んだ。
「皆! 今だ!」
和樹の大声とともに皆各々の攻撃を開始した。
和樹は味方、魔王を含めたすべての力を吸収して力に変えていく。
「なるほど! そういうことか! いいだろう! しかし、過剰な魔力に体がどこまで耐えられるか見ものだ」
魔王もさらに攻撃の激しさを増した。
後方からは見方が攻撃してきてそれを吸収しつつ、前方からは魔王の攻撃を吸収していく。
吸収し続ける和樹の体は力に満ち溢れ体が悲鳴を上げてきた。
「……ザキ! これは黒魔術の力だから対価に変わりはないよな?」
「うん……」
「和樹様、何を考えていらっしゃるのですか?」
「俺は魔王を他者の命でしか倒せない。
けど俺はそんなこと絶対しない。
俺はこの世界を救いたい。
そして思いついた。
俺は魔王を倒せる奴を知っている。
ザキ。
俺の転移魔術は行ったところならイメージして行けるんだが……
異次元にまで繋げられる魔力量に必要な黒魔術の対価はあるか?
魔王を倒す力は俺の実力で決まるが魔力量なら今の俺は皆と、この魔王の力がある。
魔力量だけなら対価は他者の命より軽いはずだ!
俺の体はボロボロになっても俺だけで済む対価なら何でもいい!」
「……ある! けど……」
「なんだ?」
「存在…… 和樹は不死の体を直し皆とともに生きてそして死ぬことを望んでいる。だからこそ体でも精神でもない存在が消される和樹にとって一番辛い対価」
いつも元気なザキとは違い暗い声だった。
和樹は一瞬迷ったがすぐに覚悟は決まった。
「なるほど…… 不死者の俺は体でも精神でもなくそれ以上の対価がないと異次元にまで送れるほどの力はもらえないって事か。皆や魔王の力がなければこの魔術は使えなかったかもな…… けど! 俺だけで済むなら上等だ! やれ!」
「わかった」
ザキやウェルマは本当はこんなことはさせたくはないが和樹の覚悟を汚したくなかった。
和樹の腕が透けていくのを和樹は見て、さらに力がみなぎり体がついに耐えられなくなり膝をついた。
必死にこらえた
後方から攻撃してきた皆も和樹の異変に気が付き攻撃を中断した。
「ようやく体に限界が来たようだな! 俺の勝ちだな」
「……いや。俺の…… 勝ちだ!」
魔王の下に黒い転移魔術と引魔術を合わせたブラックホールのようなものを出現させた。
「なに! ウオォー!」
魔王はみるみる巨体が飲み込まれていく。
必死にあがく魔王だが今の和樹の魔術に対抗できる存在はこの異世界にはいない。
魔王は消え失せる寸前、和樹は言い残した。
「神にありがとうと言っておいてくれ」
魔王が消えると後方から歓喜の声が大地に響き渡った。
コモナとエリシスとトイドはすぐに和樹の所にやってきた。
「和樹! よくやっ……」
トイドが和樹を褒めようとするがすぐに異変に気が付いた。
「和樹…… 体が透けて……」
エリシスはあまりの光景に口を手で覆った。
「ザキ! ウェルマ! 何があったの!?」
コモナが珍しく声を荒げた。
ザキとウェルマが姿を現した。
「私が原因だ。私のせいだ…… 私が和樹を……」
悪魔のザキが涙を流し始め手でぬぐい始める。
「和樹様は魔王を倒すために他者の命だけは対価にしたくないと考えていました。
そして考え付いたのが和樹様は魔王を異次元に飛ばすために、皆さんや魔王から攻撃を闇魔術で受け続け、力を極限まで溜めた所でザキにさらに魔力を求めて黒魔術を使い要求しました。
魔王を倒すのではなく、魔力を求めるだけなら他者の命より軽いと考えたのですがその対価は……
存在でした……
不死の和樹様はいずれ不死の体を直し皆と共に生きにいずれ皆と同じように死にたいと望んでいました。
それが裏目に出て、体でも精神でもない和樹様にとって一番辛い存在が対価になってしまいました」
ウェルマは涙を流しながらも必死に状況を説明した。
そのことを聞いた3人はザキとウェルマ同様涙が出てきた。
エリシスは泣き崩れ膝をついた。
それをトイドが背中をさすり落ち着かせようとするが、トイドの目からも涙が止まらず袖でぬぐい顔を覆う。
コモナは徐々に薄れていく和樹の片腕を握りしめ語り掛ける。
「和樹…… なんでよ…… そんな無茶しないでよ…… これからも一緒に居ようよ…… 私こんな別れ嫌だよ……」
和樹は薄れゆく意識の中、コモナにちゃんと声を掛けたいがもうそんな気力がなく精いっぱいの小声で話し始めた。
「そんなみんな泣くな…… 俺だけの対価でマナの遺志や世界の危機を救えたんだから安いものだ…… みんなの命を対価にして魔王を倒す選択は俺にもできなかった…… 考え悩んだ結果、こうやって魔王を倒せてよかった…… これでもう魔王に対する不安は消えた…… 俺も一安心だ…… きっとマナも安心していると思う…… ただ、魔族だけでなく、コモナが俺にしてくれたようにこの世界で苦しんでいる皆の心を救ってあげたかったな…… っはー…… 存在が消えたらどうなるんだろうな…… あれ? なんか…… 眠くなってきちゃった…… ちょっと休むね…… みんな…… バイバイ」
するとコモナの手から和樹は消え失せた。
「和樹―――――――!」
コモナは号泣しながら叫ぶが存在の消えた和樹に届いたのだろうか。