決戦
陥没した荒野に移動すると、すでに魔王のクリスタルは崩れ終わりかけていた。
「ほう。懐かしいな。トイド」
魔王が口を開いた。
「遅かったか……」
マナや5人が恐れていた最悪の事態になってしまった。
「ザキ、今の俺なら魔王を倒す対価はなんだ?」
和樹は手袋のザキに話しかけ、ザキも掌の口で喋りだした。
「少しは対価が変わって他者の命ではなくなった…… でも……」
「どうした! 言え!」
「他者という不特定な物じゃなくて、コモナの命になった……」
和樹は対価が変わったことに少し期待したがまさか和樹を救いここまで支えてくれた一番大切なコモナを対価にされたことに魔王復活の追い打ちをかけるように絶望した。
おそらく不特定の他者の命の中には元々コモナは含まれ他にも色々な大切な人が含まれていた。
しかし、和樹が強くなったことで不特定な多数ではなくコモナに変わった。
「そんなことできるわけがない! 他の手段を考える」
「我を倒すだと? ……なるほど。マナに匹敵する強者か。面白い。トイドよ。また昔の戦いの続きと行こうか! 今回は前回のようにはいかぬぞ!」
魔王は完全にクリスタルから解き放たれ巨体を動いだした。
口を大きく広げ、こちらに巨大なブレスを放った。
和樹とトイドは横に大きく回避したが着弾による爆風が押し寄せた。
和樹はブレスが通り過ぎた後ろの光景を見た。
そこには山が1つ吹き飛ぶほどの大きな跡が残っていた。
「和樹! 魔王はわしやさっきの三つ目の魔族ほど早くはないが力と硬さが桁違いだ。気をつけろ!」
和樹は身をもって魔族の強さを体験し始めた。
「さすがに避けるか。ならこれならどうだ!」
また口から大きな力の塊を出して頭上に打ち上げた。
「まずい! 和樹! 全力で頭上に魔力障壁じゃ!」
和樹はすぐに魔力障壁を作ると、その大きな力の塊は分散してレーザーの雨を降らせるように広範囲に攻撃してきた。
降り注ぐレーザーを防いでいる2人を魔王は自分自身にレーザーを食らっているが自分自身に食らいながらお構いなしにこちらに接近し長い尻尾で2人を横から吹き飛ばした。
吹き飛ばされる勢いを引魔術で何とか止めたが、確かに圧倒的な硬さもある。
和樹は考える。
黒魔術でコモナの命を対価にしている以上、おそらく心臓を使った黒魔術も通用しない程の強さを持っている。
考えろ、考えろ、と頭の中で言い聞かせた。
「トイド。前は魔王をどうやって封印させたんだ?」
「前はわしが魔王に攻撃を体術で受け流し、マナは力を溜めることに集中して一切攻撃しないで回避に専念してそれを数時間続けてようやく魔力を貯め終えた封印魔術で魔王を封じ込めたのじゃ」
「2人ともこの魔王とよくそんな長時間戦闘出来たな」
「攻撃は一切せずに避ける事しかできなかっただけじゃ」
「トイド。俺に考える時間をくれ。倒して見せる!」
トイドは真剣でまだ諦めていない和樹の眼差しを見て、笑みを浮かべた。
「任せておけ。わしはお主の可能性に賭ける!」
トイドは精霊を纏わせた体で速さを活かして魔王にたいして効かないが打撃を与えていく。
和樹も後方からトイドをサポートしつつ考える。
まず和樹は胸に手を刺し込みザキに心臓を食べさせる。
そこから黒魔術を使い、先の戦いで兵達に使った強化魔術を2人だけに使うことでより強力な身体能力と魔力を手に入れた。
魔王もトイドのスピードについていけずにいる。
そして打撃を食らうと昔は怯みもしなかった魔王が少し揺らいだ。
魔王はトイドのスピードに対抗して全方位に全身から衝撃波を発生させた。
トイドが衝撃波を受け止めると、魔王は手で薙ぎ払い攻撃を行う。
和樹の森と風と引属性の魔術で攻撃力を抑えた。
何とかトイドは攻撃を受け止めたが、その衝撃でトイドの足場が陥没した。
そんな激しい戦闘が続く荒野に、コモナやエリシスは気が付いた。
2人は一度王都の真下から揺れを感じて、最悪の事態を想定したがしばらく経っても魔王や魔族が出てくる気配が無くどうしようか迷っていたところに、先の戦いの荒野の方から空にピカピカと光ったり凄まじい轟音がこちらまで響いてくるのが聞こえた。
エリシスは航空騎士に命令した。
「上空から先の荒野方面に行き何が起きているか確認しに行ってください! もしそこに和樹とトイド様がいたら救援信号弾を空に打ち上げてください」
すぐに航空騎士は大きな鳥に乗り飛び立ち、偵察に向かった。
コモナとエリシスは胸騒ぎがするなか荒野の方向を見つめる。
数十分後、救援信号弾が空に打ち上がった。
コモナとエリシスは悟った。
トイドが王都を離れたということはつまり魔王が復活したということ。
「兵達は荒野に向けて進軍を開始してください。荒野で和樹とトイド様が魔王と戦闘している可能性が高いです。危険ではありますが世界の危機に我々が黙って安全な場所に居ていいはずがありません!」
周りの兵達は驚きのあまり静まり返った。
魔王と聞いて恐れを感じる者が大勢いた。
「すぐに動いてください! 私とコモナは先に行きます! コモナ行くよ!」
「うん!」
2人精霊を纏い城壁を飛び下り、荒野に向かった。
コモナは身体能力を活かして素早く駆け抜けていく。
エリシスは風魔術で爆風を背後に発生し続けて複数の剣で体を安定しつつ移動する。
その頃、荒野で戦っている2人と魔王はさらに戦いに激しさが増していた。
いくら攻撃してもひるむだけで致命的なダメージを与えられてはいない状況に変わりはなかった。
「めんどくせぇ! ここら一帯吹き飛ばしてやる!」
魔王は大きな翼を羽ばたかせ上空に飛んだ。
そしてまた口に魔力を溜めているが先ほどまでの魔力の塊より大きく形成した。
「和樹! あれはまずい!」
「任せろ!」
和樹はまた胸に手を突き刺しザキに食わせ、黒魔術でウェルマの杖でさらに増幅した闇属性の障壁を展開した。
魔王は以前、和樹が魔族達に奇襲した時の天空からの攻撃レーザーのように口からブレスを解き放った。
すぐに2人に向かってブレスは押し寄せてきたが、和樹が闇属性の障壁で吸収していく。
攻撃を終えた魔王は驚いた。
「なんだと? ……闇魔術か!」
和樹は上空に居る魔王に空で飛び接近した。
そして下から至近距離で上に居る魔王にウェルマの杖でさらに増幅した魔王のブレスを跳ね返した
「うおぉー!」
魔王は地面に落下して倒れた。
和樹もトイドのそばに着地した。
「やったか?」
「……いや、まだだ!」
魔王はまた立ち上がった。
「なかなかやるな小僧。こうでなくては面白くない!」
しばらく戦闘が続くと魔王が気が付いた。
「……誰か来たな。増援か?」
和樹とトイドのもとに上からコモナとエリシスが着地して登場した。
「やっぱり。あれが魔王ね」
「和樹が無事でよかった」
「2人とも気が付いて来たのか。……でもこいつは強すぎる。下がってろ!」
「強いのは重々承知だよ。でもここで戦わないと世界が危ない!」
「エリシスの言う通りだよ。それに和樹は先の戦いみたいにもっと私達を信じて?」
和樹はこんな状況なのに嬉しくなって笑みを浮かべた。
「……本当に俺は2人に出会えてよかった。信じる! 行くぞ!」
和樹は2人にも黒魔術で強化魔術を使い付与した。
「いいだろう! 4人で来るといい!」