三つ目の魔族
兵達もすぐに城壁に上り警戒態勢に入った。
和樹も空を飛び上空から北西の草原地帯から森林地帯を眺めるが三つ目の魔族が見当たらない。
一度、降りてトイドに状況を説明する。
「上からも三つ目の魔族が見えない。どこに行ったんだ?」
「戦いに負けるという可能性が見えてきて逃げたということはないか?」
「それはないと思う。向こうで三つ目の魔術に接近して計画を進めると言っていた。まだ三つ目の魔族にも策があるのかもしれない」
「いくら三つ目の魔族が強いとはいえ、マナが作り出したこの王都を丸く空も地中も強力な結界に1人でどうこうなるはずがない」
すると王都の真上から天空より巨大な黒い稲妻が落ちてきた。
「これは! 魔族の攻撃じゃ!」
薄っすらと虹色に輝く結界がその攻撃を一瞬防いだがすぐに結界を消し去られた。
「どこからじゃ! こんなことできるのは強力な黒魔術しかありえない。ただの魔族の攻撃にこんなことできるわけがない。マナの魔力消失という対価で作り上げた黒魔術の結界を壊すとは…… どこから攻撃してきたかわからない以上、あの場所に向かうぞ!」
「わかった。コモナ、エリシス。城壁の守りは任せた。結界が壊された今いつどこから魔族が入り込んでもおかしくない」
「わかった」
「わかりました」
和樹はすぐに転移魔術で魔王が封印されている部屋に移動した。
まだ魔王は無事であった。
「ここはまだ無事のようじゃが安心できない。相手がマナの結界を破った以上、ここの結界も簡単に壊せるじゃろう」
「……今のうちに魔王をどこかに転移魔術で移動させておくか?」
「なるほど。確かにいいかもしれないがどこに移動させる? 人目につかず魔族現れない場所……。 他の国の地中にでも転移させたいところじゃが他の国にも結界がある。入れられないうえに入れようだなんて知れたら国王が責任を負うことになる」
「……どうすればいいんだ」
2人で深く悩み考えているとその場が少し揺れ始めた。
和樹はこの感覚に身に覚えがあった。
「三つ目の魔族、また地中からここに直接向かってきている! こっちからだ!」
和樹とトイドはクリスタルを背にした位置に立った。
「は! 地中の結界が壊されていく! ……最後の結界が壊された!」
和樹はすぐに手を胸に突き刺しザキに血と心臓を食わせ、トイドは精霊を身にまとった。
「まずい! 和樹! どこでも構わないから転移魔術でお主が魔王を連れていけ! ここはわしが食い止める!」
すると轟音がものすごい勢いで近づいてきて和樹は嫌な予感がして黒魔術で強化した闇魔術を展開した。
すると壁を突き破って和樹の使った天空からのレーザーのような攻撃を広範囲にではなく凝縮させたレーザーで攻撃してきた。
「うおぉー!」
和樹は必死にその攻撃を防ぎ続ける。
あまりにも強力な魔術を受け続けて攻撃が収まるころには和樹は汗を流し、膝をついた。
穴の奥から三つ目の魔族が突っ込んできた。
トイドが咄嗟に防ぐ。
一瞬2人が力のぶつかり合いで硬直すると離れて距離を取った。
和樹は膝をついたまま転移魔術を発動させ引属性で魔王が封じられたクリスタルをまず浮かせ始めた。
「やらせん! サルド! 最後の願いだ! 私の命と引き換えにわずかな時間でいいから強力な力をよこせ!」
三つ目の魔族はすぐに今まで以上に威圧感を発しながら動き出した。
クリスタルが浮かび、あと少しで転移魔術に入り始めようとした時、和樹を吹き飛ばした。
和樹とトイドは三つ目の魔族の動きを察知できないほど早かった。
転移魔術は解けてクリスタルはまた床に突き刺さるように落ちた。
和樹とトイドは慌てて三つ目の魔族に攻撃をし始める。
トイドが三つ目の魔族に急接近して拳で目にもとまらぬ連続攻撃をするがすべて受け流し、逆にカウンターで一撃トイドに拳で打撃を与え吹き飛ばした。
壁にめり込むトイド。
トイドがわずかに稼いでくれた時間で和樹はまたクリスタルの前に回り込み、心臓を食べさせて三つ目の魔族を森、雷、重、氷を黒魔術で強化した拘束魔術をしつつ転移魔術を発動させて引魔術でまた魔王を動かし始めた。
「今の命を対価にした俺にこの程度じゃ止められぬわー!」
三つ目の魔族は眉間の第三の目から強力なレーザーを直線に放った。
その攻撃は和樹も防ぎきれず体に穴が空き貫通してクリスタルにもダメージを与えつつ転移魔術に押し込んだ。
「……クックック。
これで我ら魔族の祈願は叶った。
最初はお前らを甘く見て全魔族を強化してから陸から攻めようとしたが先に奇襲にあい、先を急いで強化しきる前に進行させた結果失敗した。
計画を変え地中から攻めようとすると森属性の魔術が張り巡らされているのに気が付き、場所はバレていることは把握できた。
そこからお前が立ち去り森属性の範囲もを抜けるとさらに計画をさらに変更して魔族を二手に分けた。
本部隊はそのまま進行させ、保険の魔族を北西方角からではなく少し軌道を変えて北から王都に接近させた。
俺は昔から召喚魔術の研究をしていて最初の計画は王都の結界を破壊できるほどの存在の召喚だったが何度も失敗したがお前を召喚していい実験データが取れた。
だが制御しきれず取り逃がしてしまった。
しかし、その実験データだけでも我々魔族を強化するには十分だった。
身体強化や魔力強化できる薬を開発して魔族達に飲ませた。
これで最初の目標は魔族自身を強化して黒魔術に耐えうる強力な肉体を手に入れ達成された。
そして、次の段階に移った。
次は相性のいい黒魔術を発動させられる強力な悪魔の召喚。
これにはさほど手間もかからず数回の召喚で終わった。
その悪魔の対価は同族の命を引き換えに力を与える悪魔。
故に魔族を集めた。
そしてまんまとお前らは引っ掛かり別の魔族舞台に気づかず保険の魔族を使い結界を壊していった。
本当なら俺も魔王様とともにこの世界を支配するつもりであったが、お前らの戦いで魔族をだいぶ失い結界破壊だけでこちらに向かった魔族は大体消え失せ、残りの魔族で一度攻撃をしたが闇属性で防がれてしまった。
仕方がなく自分自身を対価にしなくては魔王様を封印しているクリスタルを破壊できなくなったのは誤差だった。
魔王様がこの世界を支配するのを見届けたかった……」
三つ目の魔族はそう言い残すと灰になり消え失せた。
トイドは三つ目の魔族の攻撃を受けたせいで辛そうな顔をしているが立ち上がった。
和樹も腕と胸に空いた穴も塞がった。
「三つ目の魔族もいなくなったことだ。すぐに魔王のもとに向かおう! どこに転移させたのだ?」
「先ほどまで戦っていた荒野だ。行こう。ひびが入っただけで間に合うかもしれない」
2人は転移魔術を通りその光景に絶望した。