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出会い

 和樹は目を覚まして体を起こした。


「大丈夫? あなた2日間も寝ていたのよ。私はコモナ。あなたは?」


 そこには人間と同じ顔をしているが頭には肌色に近い茶色い毛がふさふさ生えた耳、お尻にはもこもこして触ったら気持ちよさそうな尻尾の生えた美少女が立っていた。

 身長はそこまで大きくないが顔つきからしてあちらの世界では高校生くらいに見える年齢だろうか。

 

 和樹は初めて見る人間に近い生き物を見続けるが、名前を聞かれても返事はしなかった。


「……耳と尻尾が気になる? 亜人種の中の獣人種は初めて見るみたいね。2日間寝続けてお腹すいているだろうから軽い食べ物を持ってくるわね」


 王都とは違い木造で出来た部屋で数分待つと、皿に盛られた色とりどりの果実。

 その中のリンゴに似たピンク色の果実を手にした。

 一口食べてみるが味を感じなかった。

 すぐに果実を皿に戻した。


「もういらないの? いっぱい食べないと元気でないよ?」


 和樹は頷きすらしなかった。


「体に外傷はなかったしご飯も大丈夫なら気分転換に少し散歩しましょう。私たちの村を案内するわ」


 手を引っ張られ、立ち上がった。


 外に出るとそこには数百メートルはありそうな巨大な大木が生い茂る森が広がっていた。

 その大木に穴を空けて作った家がいくつも見えた。

 今出てきた家も大木の30メートルくらいありそうな高さにあった。

 そこからはコモナと同じように耳と尻尾が生えた獣人種や少し離れた場所に大きな湖が見えた。

 木を削って出来た螺旋階段を、木をぐるぐる回るように下に降りて行った。


「お。兄ちゃん体調は大丈夫かい?」


「お兄ちゃん魔族の大群を1人で倒したんでしょ? すごい!」


 小さい子から老人まで通りすがるすべての住民に話しかけられた。

 和樹が反応することはなかったが、コモナがうまく皆に対応してくれた。

 

 先に歩いているコモナが振り返った。


「あなたに見せたいところがあるの。ついて来て」


 先ほどまでの大木ほど大きくはないが木々が生い茂り、道もろくにない生き物のさえずりが聞こえてくる森の奥に進んでいく。

 木々の葉で木漏れ日しか入らない森を歩いていく。

 そして遠くに白っぽく光る森の終わりが見えてきた。

 

 到着するとそこには青白く輝く花畑が広がっていた。

 そこに咲く花々が輝き、風で揺らめくことで舞う花びらと飛び交う発光色の虫達の灯。

 

 その光景に和樹の心は震えた。


「……綺麗だ」


 和樹の口から考えていることがそのまますっと出た。

 声が勝手に出たことに自分自身、驚き口を手で覆った。

 コモナは嬉しそうだった。


「ここはね、精神的癒しの効果のある神秘的な場所なの。もしかしたら、あなたにも効果があるかもと思って連れてきたの。本当に良かった。それでは改めまして私はコモナ。あなたは?」


「……和樹」


 久しぶりに喋ることに戸惑いと恥じらいを感じた。


「和樹か。和樹は行くところはあるの?」


「……」


「どこから来たの?」


 和樹は何も答えようとしない。


「行くところも帰るところもないならしばらく私の家に居なよ!」


 しつこいコモナについに声を発した。


「俺にかまうな。すぐに出ていく。俺は魔族に追われている」


 コモナの優しく語りかけてくれるの言葉を和樹は冷たく返す。


「村なら大丈夫よ。結界で守られているから」


「結界?」


「結界は魔族から村や国を守る魔術の1種よ。だから安心して」


「……」


 和樹は判断しかねていた。


「今日はもう暗くなり始めたからとりあえず今日は泊っていきな。それで行きたいところが見つかったら旅立つといいよ。それまでは泊ってていいよ」


「……わかった」


 コモナは笑みを浮かべながら和樹の手を引っ張りながら青白く光る花から軽く左手で握り締めて一滴の蜜を右手の人差し指に垂らした。

 すると飛び交う発光している虫が指に止まりさらに光を強くした。

 その光で足元を照らし2人は村に帰っていった。


「お帰りなさい。ご飯できているわよ」


「お母さん。ただいま。和樹少し元気になったよ」


「和樹っていうのね。コモナがあなたを運んできた時は驚いたわ。話を聞いたら魔族を1人で倒したそうね。それを聞いて起きたら体には外傷がないから体にいいもの食べさせてあげようと思って朝から色々取りに行っていたわ」


 料理の並ぶ食卓に座ると、以前とは違い料理の匂いを嗅いだだけで口の中に唾液が溢れそうになった。

 黄金色の焼き目が入った焼き魚、油の滴る肉の串焼き、具材がたくさん入ったスープ、数種類の葉物が千切り交ぜられたサラダ。

 コモナが持ってきてくれたような綺麗に切り並べられた果実。

 

 ゴクリと唾液を飲み最初に串焼きを手に取った。

 口に近づければ近づけるほど美味しそうな匂いがしてきた。

 

 ガブリ。 

 口に入り噛んだ途端、肉から旨味が染み出る油を感じた。


「……美味い」


 すると勢いよく和樹は他の料理にも手を出した。


「あの森で癒され食欲も取り戻せたようね。よかった」


「こんなに私の料理を食べてくれるなんて嬉しいわ。まだまだあるから食べてね」


 和樹は1皿も残さずに料理を食べ切った。お腹がいっぱいになると眠気を感じてきた。


「和樹眠いの? 私達は片づけがあるから先に寝てていいよ。この奥の部屋に私のベッドがあるから」


「ここでいい」


 すると和樹はテーブルから立ち上がり部屋の隅に行き、床に寝転んだ。


「まったく和樹は……」


 コモナは和樹の上にそっと布をかけた。和樹はその温もりを感じながら久々にぐっすりと寝ることができた。





「和樹。朝だよ」


「……」


 まだ寝足りない和樹だがゆっくりと体を起こした。

 窓から見える外はまだ明るくなり始めたばかりであった。


「朝ごはん食べたら食材取りに行くよ」


 すでにテーブルには朝食が準備されていた。

 朝はシンプルでスープと果実だけであった。

 食事を軽く済ませると家をコモナと2人で出た。


「食材取りって何だ?」


「私たちの生活は自給自足。私たちは自然とともに生きている。森の木の実や生き物の命をいただき生活している。私たちが死んだらその体は自然に返し、その体の栄養で草木が育つ。その草を動物が食べて巡っていく。まずは山を登って川に向かい魚を取りましょう」


「ここから見えるあの湖では魚は取れないのか?」


「あそこは1体の巨大魚がいて危険で漁はできないの。浅瀬のところで水を汲むくらいしかできない」


「魚を退治はできないのか?」


「無理だよ。湖の中央付近の1番深い所に生息していて船で沖に少し出ると襲ってくるの。攻撃したくても動きが速いうえに鱗もとても硬くて多少の魔術や剣も通用しない。あの魚さえどうにかできればわざわざ遠くの川まで行く必要は無くなるんだけどね……」


 和樹はその湖の巨大魚が気になった。


「……ちょっと浅瀬に行ってみたい」


「いいけど、何するの?」


「……」


 村から湖までは森の中を抜けて数分で着いた。浅瀬には水を汲みに来ている住人が数人いた。


「それでここに来て何するの?」


「……あの辺か」



 コモナの言葉を無視して和樹は着地地点を大体決めて大きく跳躍して湖に着水した。


「ば、馬鹿! 早く戻ってきなさい!」


 慌てふためくコモナを無視して和樹は潜った。

 普通であれば窒息死してしまうが和樹には関係がなかった。

 

 泳いでいるとそこには数多くの魚が生息していたが和樹は目もくれずにさらに潜り続ける。

 10メートルくらい潜ると何か大きな魚影が動くのが見えた。

 その魚影はものすごい勢いでこちらに狙いを定めて襲い掛かるように大きな口を開けて近づいてきた。

 和樹には作戦があり何の抵抗をしようともせずに巨大魚に食べられた。

 

 胃袋に到着するころには食べられた時の噛み傷は治っていた。

 和樹は胃袋内に止まり一発、二発と次々と殴り続けていく。

 暴れ狂い胃の内容物を吐き出そうとする巨大魚に対し、和樹は胃袋を握りしめ渾身の一撃で胃を突き破り内臓にダメージを与えた。

 コモナが言っていた巨大魚と思われる魚を和樹は仕留めた。

 コモナや住民が心配そうに湖を見ていると、巨大魚が浮かび上がってきた。

 遅れて和樹も水面に顔を出した。


 その瞬間、皆の歓喜の声が森中に響いた。

 その歓喜の声からこの魚こそ、この湖の巨大魚で間違いがなさそうで和樹は安心した。

 ゆっくりと和樹は魚を掴みながら岸に向かって泳ぎ始め浅瀬に着いた。


 すると涙目のコモナが浅瀬に入りバシャバシャと走り寄ってくる。

 和樹の目の前まで来るとコモナは手を振りかざし和樹の頬をパシンッと叩いた。

 

 そのあと和樹にギュッと抱きしめた。


「馬鹿。心配したじゃない……」


「こいつで今日の食材は十分だよな」

 

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