鬼の魔族
和樹の思惑通り、地中に魔族が進行していて崩れた岩の隙間から魔族達が這い上がろうとしている。
そこに岩の下敷きになって弱っている魔族に兵達が魔術で追い打ちをかける。
身体強化に魔力強化のされた兵達の攻撃は強化された魔族達にもダメージを与えられるほどに強くなった。
しかし、精霊魔術師が何体か魔族を倒しているが一般兵達の魔術では倒しきない魔族が多く下に降りて武器でとどめを刺しに出た。
すると2体の魔族が飛び出して崩れた岩の上に着地した。
三つ目の魔族と以前、和樹とコモナを圧倒した鬼のような魔族。
すぐに和樹は空を飛び接近した。
「まともに動けるのが俺とお前の2人だけとは情けない」
「お前、前にあった時とは大違いのようだな。おもしれぇ!」
和樹は三つ目の魔族以外にも幹部クラスがいるとは思っていたがまさか、あの時の魔族が現れるとは驚いた。
「奴らにこいつらが倒される前に俺は先に行って計画を進める。お前はこいつを足止めしろ」
「足止め? 殺せの間違いだろ!」
魔族の会話が終わると三つ目の魔族は翼を使い、空を飛び始め王都の方角に飛び始めた。
すぐに和樹は引と重の魔術で止めに入る。
三つ目の魔族も抵抗して、下に引き寄せられる力に抗いピタッと止まる。
すると、横から鬼の魔族が和樹にパンチを食らわせた。
その衝撃で和樹は吹き飛び魔術が解けた。
三つ目の魔族はすぐに飛び去った。
和樹は立ち上がり空を飛び始めるが、鬼の魔族が瞬時に距離を詰めて腕を振り下ろし和樹を地面に叩きつけ足止めする。
落下してからも攻撃が止まらない。
おそらく転移魔術で移動する時間も与えてもらえないほど動きが速い。
三つ目の魔族が王都に到着する目でわずかな時間があると考え、先に鬼の魔族を倒すことに和樹は考え直した。
すでに三つ目の魔族がいないので黒魔術で一気に殲滅できるが下で交戦中の兵達と、このあまりにも早い鬼の魔族を考え広範囲魔術は難しい。
「お前には魔術を使わせる隙を与えるな、とあいつに言われているからな」
三つ目の魔族も和樹の対策を考えていた。
和樹は攻撃されながら流れた血を手袋に変わっているザキに吸わせて、身体強化を発動させて応戦する。
胸に手を刺すが、鬼の魔族の攻撃で手がぶれてザキもうまく心臓を食べられない。
心臓を引き抜き一気に食べさせたいところだが、引き抜く一瞬立ち眩んでその隙に攻撃で心臓を落とすのが目に見えている。
左手に持つウェルマの杖で鬼の魔族の攻撃を防ぎつつ右手で胸に手を入れて少しずつザキは心臓を食べ進める。
2人の攻防しているところにコモナとエリシスが助太刀にきた。
コモナが和樹に夢中の鬼の魔族に右腕で強打を与えようとする。
とっさに鬼の魔族は距離を取った。
和樹はその隙にザキに心臓を食わせた。
「遅れてごめん。這い上がった魔族に足止め食らっちゃった」
「同じくすみません」
「いや…… 助かった」
和樹は右手に以前使用した氷魔術を展開した。
「ほう。その冷気。それがあいつを倒した魔術か」
この魔術を知ってもな、お怖気づかない鬼の魔族に和樹は何か裏があるように思えた。
「俺も本気で行こう。ベルガ。俺の腕を対価に身体強化をさせろ」
鬼の魔族の影から真っ黒な腕が出てきた。
和樹はすぐに何をしようとしているか気が付き瞬時に距離を詰めて右手で触れようとした。
鬼の魔族は大きく回避して距離を取った。
「お前ら、少し時間を稼げ」
すると地中から強化された魔族が現れた。
和樹の右手は鬼の魔族に使うため、左手に持っているウェルマの杖に黒炎の槍で反撃する。
一瞬で倒せたが、鬼の魔族その一瞬で充分であった。
陰から出ていた手は鬼の魔族の腕を引きちぎり陰に消えていった。
すると鬼の魔族の腕はみるみるに復活して背中から6本の腕が生えて計8本の腕になりさらに巨体に変貌した。
「お前だけが黒魔術を使うと思ったら大間違えだぞ! お前の実験のおかげでだいぶ俺は進化した。黒魔術の対価も安くなったもんだ。これからが本番だ!」
「お前の負けだ。俺ら3人に勝てると思うな!」
和樹は杖に魔力を溜め始めた。
「やらせるか!」
鬼の魔族が和樹に攻撃しようとしているところにコモナが割って入った。
鬼の魔族の圧倒的な手数の攻撃にコモナは和樹の身体強化により互角に乱打を繰り出す。
「エリシス! 今だよ!」
コモナが一瞬退くとエリシスの無数の風を纏った剣が強固な鬼の魔族の肉体を貫いた。
「何のこれしき!」
剣を抜こうとする鬼の魔族だが手遅れだった。
和樹の魔術が完成した。森属性で鬼の体を拘束しつつ雷属性で痺れさせ、さらに重属性で体に負荷をかけ手足を氷属性でさらに固める。
「クソッ! 動けない!」
「俺ら3人の連携を舐めるな」
和樹は一瞬で距離を詰め鬼の魔族の腹に右手で触り絶対零度の超低温でとどめを刺し粉々に粉砕した。
和樹は未だに戦闘中のコモナ、エリシスを含む兵達を引魔術で全員草原地帯まで退避させると胸に手を差し入れザキに心臓を食わせた。
そして魔族が外に逃げ出す前に瞬時に超広範囲魔術をイメージして、陥没地帯に範囲を絞り地面から空まで届く黒炎の柱を発生させ、魔族達を一撃で灰に変えた。
そしてすぐに草原地帯に居る王国騎士団長のもとに向かった。
「王都が危険かもしれない。すぐに俺は王都に転移魔術帰還する。兵達を待つ時間すらないかもしれない。だから先に行く!」
「わかった」
和樹は急ぐあまりコモナとエリシスを無理やり引魔術で連れて王都に帰還した。
王広間に着くとそこにはトイドと国王がいたが、慌ただしい気配や町が荒れている様子はなかった。
三つ目の魔族が到着していなく一安心はしたが、完全に安心しきれない状況だった。
「和樹。戦いはどうなったのじゃ?」
「強化された魔族は全滅させたが、三つ目の魔族がこちらに空から向かってきている」
「なんじゃと! すぐに北西の城壁に向かおう」
和樹はまた転移魔術を展開して城壁に向かった。
まだ三つ目の魔族が来ないうちに草原に居る兵達も帰還させた。