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胸騒ぎ

 草原での戦いはこちらの勝利で終わったが魔王を狙っていることを知っている5人はまだ安心できなかった。


 戦いを終えた夜、兵達は勝利を喜びお互いの健闘を称えあった。

 しかし、通常であれば勝利の宴でもやるところだが国王は兵達にはまだ警戒を怠らないように指示を出している。


 5人は王広間で他の兵達とは違い浮かれることなく、話し合いは続けていた。


「魔王が狙いと考えると、諦めたとは思えない。きっとまた仕掛けてくる」


 国王の言う通りだった。


「今回はなぜ引いたのじゃろうな……」


「きっと和樹がすごい魔術で魔族の骨で出来た大きなドラゴンを倒したからだよ!」


「スケルトンドラゴンか。あの精霊はドラゴン種の中でも特に厄介な奴じゃ。どうやって倒したんじゃ?」


「スケルトンドラゴンだけじゃない。その召喚主は魔族の幹部で、他の魔族より治癒力が高いと言っていた。スケルトンドラゴンと融合していくら攻撃して骨を砕いてもすぐに復活する厄介な奴だった。三つ目の魔族がいる以上、遠距離から黒魔術の高威力な魔術で攻撃して跡形もなく消すこともできなかったので最初は苦戦した。そして思いついた。闇魔術で吸収されないように接近戦で直接相手に触れて黒魔術で強化した、絶対零度の超低温の氷属性で骨を冷却し粉々に粉砕した」


「なるほど。おそらく今回、引いたのは和樹の強さのおかげじゃろう。魔族の幹部を倒したことで、何らかの作戦を遂行するのに支障が出たのとその攻撃は三つ目の魔族にも有効な攻撃手段故、危険とみなして引いたのじゃろう」


「お父様。それで偵察に向かわせた航空騎士からの連絡はありましたか?」


「報告ではまた深遠の谷の方角に戻っているそうだ」


「また魔族を集めるつもりか……」


「安心できない以上、女、子供を王都に戻すわけにはいかない。継続して魔族の監視は続ける。今日の所はもう皆休むといい」



 5人は解散して、和樹はまた王城の一室で寝ることになったがふかふかなベッドの上で横になりながら何か胸騒ぎがした。

 なかなか寝付けない和樹は、心配で転移魔術を使い魔族の動きを追うことにした。

 時間帯的にまだ深遠の谷には戻り切れてないと思い、荒野に向かった。


 やはり魔族の群れは荒野を移動中であった。

 魔族達は休むことなく進み続ける。

 最初に荒野で見た時の魔族の数と比べて今の魔族は半数以下にまで減っていた。

 それでも大群には変わりがなかった。

 夜通し歩き続けた魔族は次の日の明け方のころには深遠の谷に近づいていた。

 日が差してくると和樹は一度王都に戻り、皆に偵察にしばらく出ると言い残しまた転移魔術で深遠の谷に向かった。

 

 すでに日は完全に昇り、和樹は魔族から視認されないほどの上空から魔族達を監視して深遠の谷の奥深くに入って行き始めていくのを見た。

 日が傾き始めるころには魔族はすべて谷の中に入って行った。


 夜になっても監視をし続ける和樹だが魔族側に動きが無いように思えた。

 他の場所から魔族を呼ぶでもなく、さらに移動を開始するでもなく、ただ上からでは谷に籠っているようにしか見えなかった。


 和樹は夜の間に一度、そっと谷の近くに降りた。


『ウェルマ。魔族はいるか?』


『はい。今は動かずにいるようです』


『よし、今日はいったん戻ろう』


 和樹は気づかれないように一度その場から離れて、転移魔術で王都に戻った。


 次の朝も和樹は深遠の谷に向かった。


 明るいうちに谷の近くに降りて監視をすると気づかれてしまう可能性があるので日が出ている間は上空から鋭い日差しと髪がなびくほどの強い風に耐えながら監視をし続けた。


 そして暗くなり、しばらく経ってから和樹は谷の近くにまた降りた。


『ウェルマ。魔族の様子はどうだ?』


『数に変わりはありませんが…… 魔力が回復したのか魔力値の高い個体がだいぶ増えたように思えます』


『魔族達は休憩して魔力を回復してから行動を起こすつもりなのか……』


『可能性はあります』


『よし今日はこの辺で戻ろう』



 和樹は帰った後もベッドの上で横になりながら今度魔族達が何をしてくるのかを考えた。

 何かが引っかかる感じで和樹は悩んだ。


「ザキ。ウェルマ。起きているか?」


「何か用か?」


「なんでしょうか?」


「魔族達は次どうやって攻め込んでくると思う?」


 2人は考え込んだ。


「魔族を増員させるわけでもなく、ただ谷で回復するだけの状態。何かが引っかかる感じがする。何かを待っているのか、それとも別の理由があるのか。……魔族は谷の奥深くに居て、潜入して催眠ガスで情報を聞き出すのも難しい。回復…… もしかして!」


「どうした和樹?」


「何かわかりましたか?」


「もしかして回復じゃなくて強化されているんじゃないか? 俺達が戦ってきた魔族の中には3種類のタイプがいた。普通の魔族。強化された魔族。そして幹部。前の戦いはあまりにも多い数と俺が先制攻撃したせいで進行を早めたが、本当は遠くからやってくる魔族すべてを強化する予定だったとしたら…… だから荒野や草原地帯の戦いのときは強化された魔族が多数いたが全魔族がそうだったわけではない。もしウェルマが感じ取った、魔力値が高くなった魔族というのが回復ではなく強化を意味しているのだとしたら……」


 和樹は飛び起きて転移魔術を展開した。


「確認に行くぞ!」


 ザキとウェルマを出現させたまますぐに慌てて深遠の谷に向かった。



「ウェルマ。まだ魔族はいるか?」


「魔族の反応ありません!」



「何!」


 和樹は驚きと焦りを感じながら、上空に飛んだ。

 周りを見渡しても魔族の姿が見えない。

 遅れてザキとウェルマも到着する。


「魔族はどこだ。陸にも空にもいない…… もしかして!」


 今度は谷に向かって躊躇なく底まで降下する和樹。

 到着すると手から火を灯して周りを明るく照らすが確かにウェルマの言うように魔族の姿が全くなかった。

 奥に行っても魔族がいない。

 一度引き返し、和樹は2人に合流した。

 和樹は慌てながらウェルマに話しかけた。


「ウェルマ。魔力の痕跡とか感じることもできるか?」


「できます」


「なら地面に何か魔力の痕跡がないか調べてくれ」


「わかりました」


 ウェルマは地面に手を当て魔力を流し込んだ。


「地面に何らかの広範囲魔術の痕跡があります!」


「やっぱり。ウェルマ。感知するのは魔術なのか? それともウェルマが使える特有のスキルか何か?」


「詳しいことは後で説明しますが、精霊の特有のスキルでもあるのですが私のような上位精霊は特にそういった感じ取ることに優れているのです」



「俺にも魔術として使えればいいのに……」



「そうですね…… 言葉で言うとだ第六感。しかし、それをイメージするのは難しいですね……」


 悩む和樹だったがすぐに閃いた。


「そうだ! 魔族が地中に居るなら黒魔術で超広範囲に森属性で地中に根を張り巡らさせて、広範囲に根に干渉して動き回る奴らがいたら恐らく魔族かもしれない!」


「なるほど! さすが和樹様!」


「ザキ! また心臓を使った黒魔術を頼む」


 また和樹の心臓が食べられるのが嬉しくてつい顔に笑みを浮かべながら、和樹の胸の中に手を入れ心臓を抜き取った。

 ぺろりと食べ終わると和樹に力を与えた。


 和樹はイメージした。

 深遠の谷すら超えさらに広範囲に深く毛細血管のように細かく生える根を想像した。

 イメージが固まると、和樹は力を手に集中させて地面に押しつけた。

 

 すると和樹の手から根っこが生え地面に勢いよく潜っていく。

そして軽く辺りが揺れ始めた。

 目には見えないが和樹にはみるみる伸びていく根を感じている。

 根が超広範囲に伸びていく影響で地震のように揺れている。


 すると深遠の谷の真下は王都に向かって長く空洞になっているのを感じた。

 

 さらに範囲を広げ、深遠の谷から荒野に入り始めてしばらくすると、根が折られたのを感じ取った。

 ある程度の場所を把握できた和樹はそのまま王都に向けて空洞ができていない所まで根を先回りさせた。


 

 手から生え始めた根を一度折って、転移魔術を展開した。


「一度戻るぞ。みんなに報告する」


 3人は急ぎ王城に戻った。


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