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王都入国

 和樹は無心でただ歩き始めた。

 歩いていると瓦礫に埋まった者たちと違い言葉も喋らない見たこともない生物を見かけた。

 

 洞窟を出てすぐの荒れ果てた荒野では巨大な蟻地獄のような穴があり下で何かがうごめいているのを見かけたり、荒野を過ぎた後の平原では空に大きな鳥のような生き物が飛び交っていた。


 夜でも元の世界とは違い月のようなものが2つ薄っすらと明るく大地を照らしていたので夜でも歩き続けた。

 

 空腹は感じなかったが疲れは感じ座り込み、地べたに寝転んで仮眠をして起きてまた歩き始める。


 もう何回朝を迎えるかわからなくなるほど歩き続けると、最初の朽ちた荒野から一変、草木が生い茂る森に入っていた。


 森の中は小さな昆虫が飛び交い様々な声が聞こえて他の場所と比べると生命感にあふれた場所だった。 

 そんな木々の根が生えて足場の悪い森の中を歩き続けると草木が生えていない車1台通れるくらいの土で出来た道に着いた。


 そこからは道に沿って歩き続けた。

 太陽が沈み始めて辺りが薄暗くなり始めた頃、進む方向に馬車が1台とそれを守るように元の世界と同じ姿をした人間と思われる銀色に輝く鎧をまとった騎士と思われる6人とブロンドロングヘアーでスレンダーでモデルのような美女が10メートル近い大きな角が4本生えたカブトムシのような昆虫と戦闘中だった。

 

 和樹は歩みを止めず、躊躇せずに近づいて行った。

 戦闘中の者達にも気を遣わずに通り過ぎようとすると昆虫の攻撃対象が近づいてくる和樹に変わった。


「あなた! 危ないわよ!」


 

 羽を出し羽ばたかせ突進してくる攻撃を和樹は容易く角の1本を左腕で止め、昆虫の動きを止めた。

 余った右腕で昆虫の頭に強打を与えた。

 昆虫の頑丈そうな外殻はその1撃で陥没してその中心からひびが全身に入った。


 周りの者は驚きを隠せないようだった。


「キングカブトの硬い外殻を一撃で……」


 和樹は何もなかったかのようにまた歩き出す。

 するとブロンド美女がそのまま動き出した和樹を追いかけ、腕を掴んだ。

 和樹は歩みを止めた。


「待ってください。助けてくれてありがとうございます。是非王都でお礼をさせてください」


 普通であればこれだけの美女に通り過ぎようとした時に腕を掴まれたら何かしら心に変化があるはずだが和樹にそんなことを気にするような心の状態ではなかった。 


「なりません! このような見ず知らずの者を連れて行くなど!」


 騎士達は和樹を警戒している。


「この方が助けてくれなかったら私たちの武器では傷1つ付けられなかったキングカブトに私達は殺されていたのかもしれないのですよ?」


「……わかりました」

 

 騎士たちはブロンド美女と話し合いで納得はしたが険しい表情は変わらなかった。

 歩き続けようとする和樹はブロンド美女に腕を無理やり引っ張り、馬車の中に連れ込まれこもうとするがびくとも動かない和樹。

 女が騎士たちを呼び和樹を持ち上げ無理矢理座らされた。


「私はエリシス・キュバリエル。あなたは?」


「……」


 和樹は美女の話にも耳を傾けず目もくれず外を見続ける。


「どこから来たの?」


「……」

 

沈黙を続ける和樹。

 反応のないことに困るエリシスを無視しし続けると森を出てすぐに大きな門を潜り抜けた。

 人々が賑わう町の中をさらに進み、馬車は止まった。


「着きましたよ。王都エルファルト国の王城に!」


 馬車から降ろされると目の前には巨大な城が町の高いところにある中心部に建っていた。


「こちらです」


大きな門が開き、城の中に入るととても広い空間に大きな柱が何本も立ち天井には大きなシャンデリア、夜の暗さを明るく灯す数多のランプ。

 赤い絨毯が敷かれてその上に髭を生やした金髪で豪華に着飾る中年男性と両サイドに騎士が綺麗に整列していた。


「エリシス。無事でよかった。先に戻った騎士から話を聞いたときは心配で仕方がなかったぞ。……この者が助けてくれた者か。ありがとう。感謝する。ここで長話をするのではなく王広間でしよう」


 中年男性を先頭にエリシスは歩き始めた。

 和樹は騎士に肩を組まれて運ばれるように連れていかれた。

 王広間のドアも大きく、騎士に開けられると最奥部に段差の上に豪華な金色で細工が施された椅子とまた両サイドに騎士が整列していた。

 中年男性が椅子に座った。


「改めて自己紹介する。私はエルファルト国、国王のボルクス・キュバリエル。そしてそなたは何と申す」


「……」


 国王の言葉にも反応を示さなかった。


「無礼な!」


 サイドにいた騎士の一言で騎士全員が和樹に剣を向けた。


「やめなさい! あなた方じゃこの方に束になっても敵いませんよ」


 エリシスが咄嗟に和樹に向ける警戒心や無礼な態度に怒る騎士達を止めに入った。


「ほう。この我の護衛役の精鋭部隊の騎士が束になっても敵わないというのか。それほどの強者か」


 国王が冷静に会話を進めるところを見た騎士達は剣を収めた。


「はい。お父様。この方は強固な外殻を持つ魔族のキングカブトを何の武器も使わずに拳の1撃で瞬殺しました」


「それはすごい。それにしても、なぜこの者はこのように黙り続けているのだ?」


「わかりませんが、何か精神的なダメージを負っているようで答えてもらえないのです」


「それでは仕方がない。褒美やこの者の素性は後回しだ。今はこの者に休息を与えよ。話はそれからだ。丁重にもてなす様に」


 すると、入ってきたドアとは別の小さなドアから2人の女性が出てきて手を引かれながら別室に向かった。

 小さな部屋に到着して正面にまだ進めるが人が2人分通れるだけの隙間を空けて大きな壁でこちらの部屋と向こうの空間を見えないように遮られている。

 


 和樹は女性2人に体を覆っていたボロボロの布を脱がされ全裸にされたが、恥ずかしさも感じずに奥に連れていかれた。

 そこには中央に大きな浴槽があった。

 浴槽の近くに座らされて女性は浴槽の水を桶ですくい1度頭の上から水をかけた。

 女性たちは白い布を取り出し和樹の体をこすり洗い始めた。

 汚れ切った体が綺麗になると浴槽に肩まで水風呂に入った。

 元の世界ではお湯が普通の風呂で水風呂は初めてで寒く感じるはずだったが和樹には冷たさも感じなくなっていた。


風呂が終わり、用意された肌色に近い黄色いズボン、白いシャツに茶色いコート着せられて寝室まで連れていかれた。

 フルーツやパン、スープ、焼いた肉などの食事を用意されていたが手を付けなかった。

 和樹はただ窓越しに見える外の風景を眺めていた。

 この街を見渡せるほど高いところに建っている城からは町を眺め始めた。

 大体の建物はレンガで出来ていた。

 夜でもところどころに火で灯されていて、歩く人々も見えた。

 

 ただ眺めていること数時間後、国中に響く大きな鐘が連続して鳴らされた。

 城からは兵が慌ただしく走り出していくのが見えた。

 先ほどまで町中を歩いていた人はすぐに建物内に走り込む。


 数分後、エリシスが慌てて部屋に入ってきた。


「魔族の軍勢が南門に近づきつつあるという報告が入りました。是非、あなたのお力をお貸しください」

 

 また手を引かれ和樹はエリシスに南門の見張り台まで連れていかれた。

 


門から50メートルくらい離れた所に見覚えのある化け物が大勢集まりつつあった。

 そこで和樹はあの化け物が魔族だと知った。

 奥の森からさらに魔族は増えている。

 魔族の視線が和樹に向けられたのを和樹は気が付いた。

 

 とっさに20メートルの高さはある見張り台から和樹は飛び下りた。

 和樹の着地に合わせて魔族がこちらに走り出してきた。


 横に広がっていた魔族達が一斉に和樹の周りに集まっていく。

 魔族は和樹に飛び掛かり蹴りやパンチをしてきて攻撃を避けたり腕で受け止めたりするが、以前実験室にいた魔族とは強さが違う気がした。

 パワー、スピード、硬さ。

 和樹が倒せないレベルではなかったが、その数百体近く。

 以前のように簡単に倒すことができずに苦戦しながらそのまま魔族を引き付けるように奥の森に走っていった。

 魔族は和樹を追いかけてくる。

 狙いは王都ではなく和樹であるのは明白だった。


 森の中に逃げ込むことが出来た和樹を魔族は集団攻撃ができずにいた。

 そこを和樹は暗闇に乗じて音を頼りに確実に1体1体仕留めていった。

 

 倒し続けた和樹は周りから魔族の走り回る音が聞こえなくなるのに気が付いた。

 不死者の和樹でも疲労は溜まって膝をついた。

 朦朧とする和樹を木の上から降ってきた誰かに腕を肩に回しゆっくりと運ばれた。

 

 顔を確認する前に和樹は気を失った。

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