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召喚

「3人とも来たな」


 トイドは今までとは違う真剣な雰囲気をかもし出していた。

建物の中で訓練所を10人近くで取り囲んでいる。


「和樹。いよいよ黒魔術の修行じゃ。国王から許可をもらって周りの魔術師は和樹が暴走した時にここに止めておく結界を張ってもらう。心の準備は良いな?」


 和樹はゴクリとのどを鳴らした。


「大丈夫。何をしたらいい?」


「黒魔術を使うには悪魔を召喚して契約する必要がある。床を見てみるのじゃ」


 そこには青白く見たこともない文字が描かれ複雑な模様で書き記された円型の陣が準備されていた。


「これは精霊を呼び出し、精霊魔術を使うために使われる召喚陣じゃ。精霊の場合は魔力を流し込みそのものの魔力を気に入ったものが惹きつけられて召喚される。そしてこの陣は悪魔すら召喚できる。呼び出すには魔力と血が必要じゃ」


和樹は陣の中心に立った。

コモナとエリシスは心配そうに見つめ、周りの魔術師は薄紫の透明なバリアのようなものを張った。


「和樹。悪魔は個体によって要求するものが違う。気を付けるのじゃぞ」


「わかった」


 和樹は右手の親指を少し噛み、血を垂らした。

そして右手を床に付けて魔力を流した。

すると青白かった文字が赤黒く変色して黒いオーラが湧き出てきた。


「クックック。なかなか面白い味のする血」


 どこからともなく女性の声が聞こえてきた。

和樹の掌の近くで床から徐々に姿が浮かび上がってきた。

真っ赤な長い髪、黒い2本の角、目つきは鋭く黄色く光る。

翼と尻尾が生えた女性が出てきた。


「私を呼んだのは貴様か?」


「そうだ。力を貸せ」


 和樹はその女性の威圧感にも動じずに力を要求した。


「力を欲しいのか。お主は運がいいようで運が悪い」


「どういうことだ?」


「私の名はザキ。私は悪魔の中でも強い。力を欲するものには運のいい悪魔。しかし私は食べることが好きで好きでたまらない。したがって力を貸す対価はお主の体。名前はなんだ?」


「俺は和樹。確かに俺は運がいい。対価は俺の体でいい。これで契約成立か?」


「和樹は少しも怖気つかないのだな。いい度胸だ。契約成立だ」


「契約は無事にできたようじゃな。コモナと姫もこちらに来るのじゃ。ザキと言ったな。身体強化くらいなら対価はなんじゃ?」


「そうねー。血を少し頂くわ。和樹の血はとても美味しくて気にいったわ」


「よし。なら和樹、血を与えて身体強化をしてみよ。ただ今までの身体強化とは違うから気を付けるのじゃぞ。悪魔の力は絶大だ。その力を制御するのは容易ではない。おそらく最初は制御できずに暴れるだろう」


「何を言っているの。この爺わ。ただの練習で力を与え続けたら和樹は簡単に死ぬわよ?」


「見ていればわかる。コモナ。姫。準備はいいな?」


「はい」


 2人の返事を聞いた後、和樹はザキに右腕を差し出した。


「どうなってもしらないわよ」


 ザキは和樹の腕に噛み付いて血をゴクリと飲み込んだ。

すると和樹の体から黒いオーラが漏れ出し、うなり目つきが変わった。

トイドやコモナ、エリシスに向ける視線は敵意むき出しであった。

ザキはすぐに気が付いた。


「あれ? 私が噛んだ跡が一瞬で消えている」


「コモナ、姫、覚悟はいいな。2人も実戦訓練じゃ。しかし和樹はそこら辺の魔族より数倍強いと思え。殺す気で掛かれ。油断すると死ぬぞ。じゃが安心せい。わしが付いている」


 和樹は右腕を振り上げた。

そして地面に叩きつけると広範囲にわたって床が崩れそのひと振りで衝撃波を発生させた。

3人はジャンプで回避すると和樹はすでにさっきまでいた所にはいなかった。


「和樹はどこ?」


エリシスは落下中に和樹を探す。


「地面の中じゃ!」


 トイドの大声にエリシスは反応して剣で着地した。

すると着地と同時に和樹の手がエリシスの剣を掴んだ。

握りしめる手から血が流れるが和樹は気にせず地面から飛び出し剣を握りしめたままのエリシスごと壁に向かって吹き飛ばした。

叩きつけられるエリシス。


「身体強化を習ってなかったら危なかったわ。イメージ。イメージ」


エリシスはすぐに立ち上がり剣を上にかざし下に振り下ろした。

すると和樹の頭上から爆風が押しつけ風圧で膝をついた。


「コモナ! 今よ!」


 身体強化で磨きのかかったコモナは素早く和樹に接近して背後から蹴りを入れた。

吹き飛ぶ和樹。

壁に打ち付けられて砂ぼこりで和樹が見えなくなった。

すると煙の中から光を発しながらバチバチと音を鳴らしている。


「まずい! 2人とも私の近くに!」


 トイドはいち早く危険を察知して呼びかけ2人を背後に立たせた。

煙が晴れる間もなく和樹の手から龍の形をした雷が3人目掛けてものすごいスピードで押し寄せてきた。

雷に触れる床の瓦礫は粉々になりながら3人に向かってくる。

トイドの細身の体が一瞬で、筋肉で大きくなった。

両腕でトイドは雷を防ぐと袖がボロボロになった。

なんとか防ぎ切ったトイド。


「まさか理性を失った状態で魔術を使ってくるとは思わなかったぞ。ザキ。身体強化はあとどれぐらい続くのじゃ?」


「血は少ししか吸ってないからあと2,3分と言ったところかしら」


「……なるほど。では2人とももう少し頑張るぞ」


「はい」


 今までの修業とは比べ物にならないほど激しい戦闘が続いた。


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