訓練
次の日の朝を迎え、すぐに昨日と同じ場所で訓練が始まった。
「昨日の段階で皆、2段階目までは出来て3段階目も少しは出来るようになってきたじゃろう。それでは次の段階じゃ。指輪を外して、わしと3人で実戦訓練じゃ。もう自分の魔力調整はある程度分かったじゃろう。自分で魔力調整してペース配分を考えて最初にやったようにかかってまいれ」
いち早く動いたのは和樹であった。
瞬時にトイドの後ろに回り込み、右手に魔力を少し集めて殴りかかった。
「いいスピードじゃ。じゃがスピードと力を意識しすぎて防御が疎かになっているぞ」
トイドは容易く攻撃をよけて和樹の腹に蹴りを入れた。
遠くに和樹は吹き飛んだがすぐに体勢を取り戻した。
「そうじゃ。攻撃されてもすぐに体勢を整え次に攻撃が来ることを警戒するのじゃ。2人は来ぬのか? ならこちらから行くぞ!」
2人の視界からトイドが一瞬で消えた。
周りを見渡してもどこにもいない。
「ここじゃよ」
トイドはコモナの頭上から蹴りかかった。
瞬時にコモナは両腕で蹴りを防いだ。
その一瞬の2人の硬直を見逃さずにエリシスが剣で切りかかった。
トイドはコモナの腕を足台にしてくるりと回転して回避した。
「コモナはいい反射神経じゃ。そして隙を見逃さない姫もなかなか。おそらく、普通の魔族ならそのくらいの力で対抗できるじゃろう。わしじゃなければ3人の攻撃をもろに食らっていたはずじゃ。今のは1段階目の魔力量。今度は2段階目を意識して戦ってみよ」
昨日までの修行と違って、トイドの攻撃によるダメージ、魔力を使う疲労感、過酷さは桁違いであった。
3人はさらに魔力量を上げて攻撃を開始した。
「和樹は元々の身体能力が高いゆえに白魔術を使い身体強化したことでさらにスピードとパワーが格段に上がっている。コモナはその反射神経で瞬時に攻防に対応できるようになった。姫はすでに剣技を身に付けているゆえに鋭い太刀筋になった」
3人とも成長はしているが未だにトイドに一撃も与えることはできていなかった。
和樹以上の身体能力、コモナ以上の反射神経でエリシスの剣筋を見極めすべて防ぎ回避した。
「さて次の段階に移る。次は魔術を訓練じゃ。仕組みはシンプルだが難しい。魔術を使うにはイメージが重要となってくる。よく呪文を唱える者もいるがあれはイメージしやすいようにしているからじゃ。ここから先は己で鍛えるのじゃ。何度も言うが肝心なのはイメージじゃ」
「無属性の私はどうしたらいいのですか?」
「コモナの無属性はイメージをどういう風に身体強化したいかじゃ。ただし、皆気を付けるのじゃぞ。魔術はただの身体強化より魔力を使う」
「俺は何でも使えるのか?」
「素質はあるが使いこなせるかは和樹次第じゃ。とりあえず掌にでも自分に合った属性を出す練習から始めてみるといい」
イメージするのは簡単だがそれを具現化させるのは今までと違う難しさがあった。
3人とも苦戦した。
「苦戦しているようじゃな。普通ならこれに1ヶ月はかかる訓練じゃ。焦らずにやることじゃな。何度も言うが肝心なのはイメージじゃ」
毎日同じことを繰り返し、魔力の使い過ぎで座り込むほど練習に皆励んだ。
トイドは1ヶ月と言ったが3人は2週間で掌に属性魔術を出せるようになった。
和樹は複数の属性を出せるようにまでなった。
「ほっほっほ。ここまで来るのはなかなか早かったの。ここからはその具現化した魔術をどう使うかじゃ。具現化するコツさえつかめばあとは早い。放つでも身にまとうでもそれも個人の自由じゃ。それもすべてイメージ。しかし、過剰なイメージで大魔術を放って力尽きないようにな。さて久々に手合わせしてみるか。かかってまいれ」
和樹は右手に火、左手に風。
トイドを中心に大きな炎の竜巻を発生させた。
トイドは逃げるように炎の竜巻から飛び出してきた。
「まさか火と風の混合大魔術を使うとは驚かされたわ。わしじゃなければ死んでいたぞ」
「あんたはその程度じゃ死なないだろ。今だ! コモナ!」
「わかった!」
コモナは右手に魔力を集め遠距離から殴り、衝撃波を発生させた。
「なぬ!」
トイドは衝撃波をよけきれず壁に向かって吹き飛ばされた。
「今度は私です!」
エリシスは風を纏った体で驚異的なスピードでトイドに近づき風の斬撃を食らわせた。
砂煙が舞う中、トイドが歩いて出てきた。服には汚れや切れた痕があった。
「これは参った。まさかここまでやるとわ。そろそろわしも本気で行かぬといけない時が来たようじゃな。行くぞ!」
4人の戦闘は以前とは比べ物にならないほどの過激な戦いが始まった。
10分後、トイドは立っていたが3人は座り込んでいた。
「ここまで戦えるようになったのは驚きじゃぞ。和樹の数多くの強大な魔法。さらにパワーが増したコモナ。スピードと鋭さが増した姫。明日も訓練じゃ。じゃがその前に今日はゆっくり休むといい。明日からが過酷な訓練になるじゃろう」
トイドは3人を見送った。
「まさかここまで成長するとはな。じゃが本番は明日じゃ」
トイドの顔がいつも以上に真剣な眼差しで3人の後姿を見ていた。