指輪
「まず、白魔術とはさっきも話した通り自分の精神エネルギーを使って行う魔術。魔術を使いすぎると精神エネルギーが減り体力を消耗していく。すべてを使い切ると気絶してしまうこともある。したがって、大魔術を精神エネルギーが少ないものが使おうとするとすぐに倒れてしまう。じゃが回復手段は色々ある。単純に休憩すること。アイテム、他者からの魔術。しかし、アイテムは高価なもので他者からの魔術は使えるものが少ない。したがって休憩するまでの間に戦闘の長さを見定め、ペース配分が重要となってくる。長期戦闘時は気を付けるのじゃぞ」
和樹が手を挙げた。
「なんじゃ?」
「もし大量の強力な魔族と戦闘することになった場合、少量の精神エネルギーを使った白魔術で対抗できない場合どうしたらいい?」
「いい質問じゃ。その場合、単独で遭遇した場合は逃げて近くの騎士に伝えるか、救難信号弾を上空に打ち上げろ。気が付けば騎士が救援に来るはずじゃ。しかしじゃ……」
「トイド様? どうされました?」
トイドはわずかな間無言で俯いた。
「もしお主ら、3人の前にそれほどの強敵が現れた場合、今の一般の騎士では対抗できないかもしれない。昔の魔族なら数で対抗すれば勝てたがおそらく和樹の話を聞く限り今は無理じゃろう。だからお主らを鍛えどんな魔族にも対抗できるようにする。わしが救援に行きたいところだが、わしにはエルファルトを守るという役目がある」
「わかった。まず何からしたらいい」
和樹はやる気に満ちていた。
トイドはまた小さな巾着袋から時計を小さくしたような指輪を3つ取り出した。
「これを指にはめなさい。これは訓練用の指輪で、取り付けられている小さな円柱は3段階、回せるようになっている。段階ごとに自分に適した精神エネルギー量、つまり魔力を使うと光輝き、過剰に使いすぎると微量の電気で痛みを与えて知らせてくれる」
トイドが3人に指輪を渡し、指にはめると個人の指のサイズに変化した。
「まずは右に1段階回しなさい。精神エネルギーの3段階の強、中、弱の弱からスタートする。まずは動かずに立ったままさっきと同じように魔力を流し込んでみよ」
3人とも指輪に変化がなかった。
「お主ら、魔力量はあるのに扱うのは下手糞じゃな。もっと集中せい!」
いち早く輝いたのはエリシスだったが、光はすぐ消えてしまった。
「トイド様! 出来ました!」
「甘い! その光を10分くらい維持し続けるのじゃ」
「わ、わかりました!」
和樹は2人のやり取りに気を取られないほど集中していた。
先ほど感じ取った流れを手に集めた。
その瞬間、和樹の指に痛みが走った。
「痛」
「和樹、お主は力を使いすぎじゃ。もう少し抑えよ」
「わかった」
するとコモナの指輪は光り輝き続けた。
「ほほう。その調子じゃ」
「3人のやり取り聞いていたから、何となくこんな感じかなと思っていたら出来た!」
「コモナは普段の戦闘で無意識に白魔術を使い身体強化をしているから、このくらいは出来るじゃろう。しかし姫は剣術を使う一瞬しか白魔術を使っていないからまだ持続してできないといったところか。和樹は論外じゃ。1段階目ができるようになった者は、次は2段階。そして3段階と進むのじゃ」
コモナは一足先に2段階目に進んだ。エリシスも遅れて次の段階に進んでいく。
和樹は1段階目をクリアできないまま、1日目の訓練が終わった。
「コモナと姫は先に帰ってゆっくり休むといい。和樹は残って訓練じゃ」
「トイド様。和樹にも休憩を与えてもいいのではないでしょうか?」
「姫、大丈夫じゃ。和樹はこの程度で弱るほどの人間じゃない。それに皆と違って和樹は転生者故、魔力の扱いは子供同然。人一倍頑張らないといけないのじゃ」
「……わかりました。コモナ行きましょう?」
「……うん。和樹、あまり無理しないでね」
「わかった」
心配そうに見つめる2人が去ったあとすぐに訓練の続きが始まった。
「っく」
「魔力の流しすぎじゃ。先ほどまでの修行で魔力の流れは見えたはずじゃ。最初は徐々にでいいんじゃ。いきなり1段階目の魔力に合わせるのではなく、少しづつ魔力を注いでいくのじゃ」
「少しづつ……」
和樹は目を閉じて集中した。トイドに言われた通り少しづつを意識して魔力を高めていく。
「そこじゃ!」
和樹がパッと目を開けると指輪は輝いていた。
「その状態を維持じゃ」
「わかった」
その後の和樹はすぐに2段階目に突入できた。
「今日はここまでじゃ。明日からもっと厳しくなるぞ。覚悟しておけ」
和樹とトイドが建物から出るとすでに夜になって暗くなっていた。そしてそこにはコモナとエリシスが待っていた。
「和樹が心配で外で待っていることにしちゃった」
「わ、私はコモナが1人でいるのが心配だから待っていただけ……」
「2人ともありがとう」
「明日も朝から訓練じゃ。今日はゆっくり休め」
和樹とコモナはエリシスに連れられて城で寝ることになった。
和樹はただ立ち止まっていただけなのに今までにない疲れを感じた。
以前泊まった部屋同様に大きなベッドがある広い部屋で寝ることになった和樹は、すぐにベッドに横になっていつの間にか寝てしまった。