アデル・ルター ~孤独を感じている人に向けて~
あなたは細やかな装飾の施された鉄扉をじっと見据えた。魔王はこの扉の向こうであなたを待ち受けている。勇者であるあなたは胸の高まりを感じながら、重くて大きな扉に手を触れた。そして、勇気を振り絞ってそれを押し開けた。
しかし、そこに魔王の姿はなかった。代わりに、二重回しをまとったカエルの魔物が赤いカーペットの上に座り込んでいた。
カエルの背後の数段高い場所には黄金色に輝く玉座が設置されており、さらにその後方には魔王の権威を示す壮大な紋章が描かれている。この玉座の間は六本の松明によって照らされていた。紋章のすぐ横に掛けられている二本と、部屋の中央の二本、そして入ってすぐのところにある二本だ。
「美しいところだろう? この宮殿は」とカエルは語りだした。低く沈んだ声だ。彼は立ち上がって話を続ける。「ここの魔王は皮肉なことに人間情緒を好む方でな、そこらの魔物のように暗い雰囲気を漂わせるものを好まなかったんだ。そこで建てられたのが、このアダレントヴィス宮殿ってわけだ。外部も内部も明るく輝いていて見えただろう? 人間の文明にも劣らない壮麗さだ」
あなたはカエルに名乗るよう促した。
「ああ、申し遅れたな。俺の名はアデル・ルター。この宮廷に設けられていた歴史省という行政機関に勤めていた」
あなたは魔王がどこにいるのか聞いた。
「おいおい、もう少し話を掘り下げてもいいんじゃないのか?」アデルは皮肉気に肩をすくめる。「まあいい、魔王様はとっくに逃げてしまった。俺が逃げるよう働きかけたんだ。ついでに他の仲間たちも一緒にな」
あなたは彼に、どうして自分は逃げなかったのか尋ねた。
「良い質問だ」にやりと笑って指を立てる。「だが、これから言う俺の答えを理解することはできるかな?」言葉を区切る。「俺が逃げなかったのは、逃げる必要がなかったからだ」
あなたにはよくわからなかった。
「理解できていないようだな、勇者さん。いいだろう、説明しよう」嘲るような笑みを浮かべ、片手の平を上に向ける。「勇者さん、お前さんはこの宮殿になぜやって来た? いいや、答えなくていい。わかっているんだ。ここの魔王を倒すためだろう? ということは、だ。きっとお前さんはこの宮殿の魔物すべてを皆殺しするつもりだったのだろう? 違う? たとえそうだとしても、ここの住んでいた者の多くがお前さんの剣に斬られることは確かだっただろう。俺だって、魔物ではあるが、仲間を失えば悲しい気持ちになる。だから俺はみんなを避難させたんだ。そう、彼らは逃げる必要があったんだ。だけど、俺にはその必要がなかった。なぜか、誰も俺を失って悲しまないからな」
あなたは疑いの目をアデルに向けた。
「本当に誰もいないのか、と言いたそうな顔をしているな」不服気に鼻を鳴らし、つまらなさそうにうつむく。「ああ、そうだな。確かに誰かは俺を失って悲しむことはあるかもしれない」顔を上げ、あなたを見つめた。「だがな、そんなことはどうだっていいんだ。誰かに悲しまれたって、俺はもはや嬉しくないんだ」
あなたはアデルの瞳に狼狽した。彼の言葉は否定的だが、瞳は積極的な決意と勇気に満ちていたからだ。
アデルは静かに深呼吸をした。「さて、世間話はここまでとしよう」片腕を横に広げる。「勇者よ、剣を構えろ」重く剛強な声だ。
あなたは言われた通り剣を構える。
「ここでお前さんは俺と戦わなければならないんだ。俺はお前さんと戦わなければならないんだ。きっと俺はお前さんに殺されるだろうが、それでも俺は戦わなければならないんだ。きっと俺が死んだって誰も悲しまないだろうが、俺は戦わなければならないんだ。それは、俺の仕事のためだ。俺の交友のためだ。俺の愛のためだ!」
あなたはアデルに向かって一直線に走り出した。