我、朝市にて初めてのお使い。
「ーーーで、何の変鉄もない朝市に連れて来る事がお前の願いなのか?態々我を呼び出してまで何をしたかったと言うのだ?」
「願って無ぇよ、そんな事で態々魔力使うかっての。」
家を出る前、ゴタゴタで時間を食ったがまだ朝市が開かれる広場への門は閉じられている様ではある。
下り坂の一番奥に擂り鉢状の円形の市場、見渡せば何かしら特別な物がある訳でもなさそうだが、野菜…肉、軽食屋に生活用品。
たまにある宝石類の店も遠めで見ても分かる位のクズ宝石の加工品程度…そんな朝市の為に我を呼び出す?この女は阿呆なのか。妖しげな占い師も濁った目で嬉々と暗器の説明をしだす謎の道具屋も、建物の陰から袖を掴んでくる妖艶な女も居ない普通の朝市の準備風景がそこにはあった。
「黙って着いて来ーい、それと心の声駄々漏れだぞーの火球攻撃ー☆」
「馬鹿女、我以外に当たれば洒落にならんだろうが。」
ツッコミの台詞と共に投げつけられる火球を握り潰しながら女の後ろを着いて行く、このアマ至近距離で的確に顔狙って射ちやがったいつか絶対泣かす。…それにしても攻撃魔術を間近で目撃していると言うのに周りの人間共は何故にこんなに静かなんだ?
…否、違う此方を見ていない。朝市の門を凝視しながら「豚バラ鶏皮豚バラ鶏皮豚バラ豚バラ…」「味噌漬け味噌漬け味噌と醤油と煮干しに味醂…」「牛乳牛乳牛乳に檸檬でチーズ…美味しいオヤツ」「味の足し算引き算割り算で掛け算…。」
…我を産んだ母なる混沌よ、何か同じ雰囲気がするがコレ産んでないよね?
「ホレ、そろそろお前が言う『普通』の市の最終準備だ。来るぞー、『朝市秩序遵守隊』が。」
言うや否や市場の中央に浮かび上がる魔方陣、あれは転送の式か。光と共に現れる一群は、一見統率が取れているようだか軍の様な生真面目さは無く気心が知れている仲間と言った雰囲気の連中。魔方陣が消えると同時に各店舗に散り…何故に此方を魔物を見る様な目で見ているのだ。
「おい、今回は隣の町ギルドの所属の奴等じゃないか…この辺りじゃ最強との噂の。」
「あぁぁぁぁ、鉄壁のカサンドラさんが肉屋の守護って絶望的じゃんよぅー」
「確か魚屋前のアイツって刺身の賄賂で何とかなるんだっけ」
「八百屋の前にギルドマスターって難攻不落がとんでもないんだけどー。」
「いや、マスターは確か女子供には弱いからソコを突くね!その点うちの娘のオネダリスマイルのあざとさでーっ!!」
「お前ぇんちの娘って、こないだ孫姫様産まれた皇后様と同い年だったよな…。」
先程まで食材の名前をブツブツ言ってた連中…何言ってんだお前ら。そのざわめきを掻き消す様にギルドマスターであろう大男の朗々とした声が響く。
「いいかお前ら!今日の俺等は朝市秩序遵守隊だ!!」
『応』
「謝礼は大衆食堂『いきなり肉塊』の『肉丼トロリ玉子のせ』だそうだぞ!」
『ぅ応ぅぅうううう!!!!』
「死ぬ気で秩序を守れぇええええええええ!!!!」
『応』
「我等!」『朝市秩序遵守隊!』「守れ!」『朝市の秩序と平和!』「人間!」『話せばわかる!』「わからぬ奴等は」『皆オーク!』「そんな奴等は」『鉄拳制裁ぃいいいい!!!!』
…ギルド連中、お前らもこわい。
「おいっ、そんな事より作戦会議だー」
むにょょよよよん。
首回りをいきなりとられたかと思うと左半面に押し付けられる柔らかいものー、貧相な鶏ガラ平坦だと思っていたが意外な感触に思考が止まりその隙に女の成すがままに目線の高さを合わせられる。
「門が開けば手分けするぞ、狙うは真正面のー」
周りの喧騒でも聞こえるようにと耳に口付ける程の近くで囁かれる女の低めの声が心地好いー絶妙に心地好いむにょょよよよん…ひしめき合うむにょょ…基、人間に混じり女が指差す先は…野菜?
「その無駄な美貌であの正面の八百屋のおばちゃん堕とせ、あそこの金棒地面にぶっさして腕組みしてるでけぇババァな。周りの雑魚店員相手にしてっと体力削られるわ良い食材は手に入らんわ…無視なガン無視。
狙うは馬鈴薯・人参・玉葱の3種。オマケは最大限の恐縮と感謝で追加させたくなる様に下心を存分に刺激しろ。どーせ魅了のひとつも持ってんだろ?
私は香辛料を探しに行ってくる、アレが無ければ始まらん。
では幸運を祈るグッドラック☆」
「待て女、大体我はー」
『それではただいまより不定期開催朝市を開放いたします。』
「そんじゃなー☆」