イストール王国 内乱の予兆
王都ガロア。
日差しに温もりを感じられるようになった頃、次期国王ウリエは、龍人族の地へと進発する。
護衛も含めて総勢500人。
イストール王国としては、次期国王が親卒するにはかなり規模の小さい使節団となる。
これは、相手の受け入れ能力の問題と、周辺国に対して「自国と龍人族の国との親密さ」のアピールでもある。
そして、今回の訪問にはウリエ、フィリップ両王子の思惑もある。
それは、失脚したラムジー四世を擁立しようとしている者たちの炙り出しである。そのため、フィリップ王子も明日、地方視察の名目で王都を空けることになっている。
残るのはアデライード王女。先々代の王ラテール五世の第三子。ウリエの腹違いの姉に当たり、またフィリップから見れば腹違いの妹である。フィリップと同じく庶子ではあるが、聡明な王女として知られる。
ラテール五世の子供四人。先王ラムジー四世以外は聡明であるにもかかわらず、なぜラムジー四世が王になったのか。それはやはり正妻の子というのは立場も強くなるのだ。
王宮のテラスよりウリエの出立を見送るフィリップとアデライード。
「面白そうなところに行くのですよね、ウリエは。」
私が行きたかった、そう言わんばかりである。
ジゼルの報告によれば、他者族の共存共栄を目指しているという。そしてなによりも、建国の熱気に溢れる国。
民たちは希望と夢を抱き、彼の国の王リュウヤはそれに応えるべく動いているという。
そんな面白い国ならば、なおのこと自分が行きたかった。
「お前を行かせてもよかったのだが、それでは奴らが油断してくれぬからな。」
ラムジー四世派の貴族たち。彼らの行動を促すために、ウリエとフィリップは王都を離れる。ウリエはすぐには戻れないが、フィリップが戻ってくるまでの間、王都を守れるだけの人間が必要なのだ。
それに最も相応しいのがアデライード王女だった。その能力はもちろん、"女"であることが、より囮として相応しくさせている。
「聡明と言ってもたかが女。」
それがこの世界の認識であり、アデライードが残るのも、ラムジー四世派貴族の油断を誘うのだ。
リュウヤのように女性を積極的に登用しているのは、男尊女卑の傾向が強いこの世界において、例外中の例外。そのことが、アデライードをより一層惹きつけてやまない。
だが、まずは目の前の問題を片付けよう。彼の国に関しては、今回の功績を持ってウリエとフィリップに要求すれば良い。
「任せたぞ、アデライード。」
フィリップは明日の出立の準備のため、この場を離れる。
アデライードはフィリップに一礼すると、側に残るデュラスを見る。粘り強い指揮で知られる男は、今回は王宮の守備を担当する。
「私たちも準備をするとしましょう。」
デュラスの一礼を受け、アデライードはともに歩き出した。
ウリエは馬車の中で、ジゼルから彼の国の話を聞いている。
聞けば聞くほど興味深く、面白い。
身分にとらわれぬ登用。
敵であったとしても、優秀であれば登用する。
昨日今日麾下に入った者でも、能力があれば重用する。
女性であっても、能力次第で登用される。
特に最後の部分は、姉上も羨望しているに違いない。
「姉上が行きたがっていた理由がわかるな。」
今回、アデライードを納得させるために、兄フィリップとともに苦労したものだ。
「リュウヤ王は、"人が少ないからそうせざるを得ない"、そう仰られておりました。」
それは一面の事実ではあるだろう。
だが、それが続くならばそれは伝統となり、活力を継続させていくに違いない。
イストール王国にも取り入れるべきだろうが、どのように取り入れるのがよいのだろうか?それを探る必要もある。
イストール王国はそれなりに伝統もあるため、当然ながら改革に抵抗する勢力も現れるだろう。今回、ラムジー四世派を一掃したとしても、規模の違いだけで無くなりはしない。
「それにしても、随分とゆっくり進んでおりますがよろしいのですか?」
「彼の国にも到着予定は伝えている。だから、ジゼルが心配する必要はないさ。」
本来なら3日あれば到着する。それを7日かけるのだから、随分と遅く感じられる。
それもジゼル、フィリップ、アデライードの策の一環である。
いざとなればすぐに戻り、ラムジー四世派を討つ。
当然ながら、敵もそのことを理解しているため、ウリエがすぐに戻れない距離を測っているだろう。それはフィリップの動きも同様に監視してもいるだろう。両者が容易に戻れない距離に到達した時、一斉に蜂起する。
アデライードはそれに備えるための準備を整える。アデライードのための時間稼ぎでもある。
「ラムジー四世派貴族たち、私の動きにイラついていることだろうな。」
ウリエは馬車に揺られながら呟いていた。
今度はイストール王国編となります。
4〜5回で終わる予定ですが、終われるかなあ?