未来のための食料計画
本日、3回目の投稿。
冬も半ばが過ぎた、そう思われる頃、重要な議題が出される。
育てる作物の品種と、作付け面積をどうするか。
最優先されるのは、この地域の主食であるパンの原材料となる小麦。
あとは野菜類だが、この地域で栽培されている物、また、この地で栽培可能な物はあるのか。また、その栽培期間はどれくらいなのか?
ルドラが説明する。
現在、開拓されている面積では年間必要量が賄えない。だから森の外周部の、まだどの国にも属していない地域を開墾して、小麦の生産にあてる。すでに人間が集落を形成している場所もあるが、そこを取り込むことで、耕作可能地は劇的に増加する。
「人間の集落を取り込むのは良いが、争いになることはないのか?」
ヴォルンドルが疑問を呈する。
リュウヤの方針は、なるべく周辺国との軋轢を避けるというものだ。それを考慮すれば、当然の疑問だろう。
「そのあたりは、すでに調べてあります。」
重税から逃れるために流れてきた者。奴隷階級だったが、過酷な扱いに耐えきれずに逃げ出した者が中心であり、点在している集落の8割が、組み込まれることに同意しているのだという。
「条件は、盗賊や魔物、他国から守ること。それのみとのことです。」
領民となるならば、それを守るのは義務である。だからその条件は構わない。
ただ、気にかかるのは逃亡奴隷の存在だ。
元の所有者が所有権を主張してきたらどうするのか?
紛争に繋がりかねない。場合によっては買い取る必要もあるかもしれないが、それ以上に懸念しなければならないのは、そういった事例を知った奴隷たちが、一斉に脱走してこちらに来た場合だ。
他国との協調を優先するならば、逃亡奴隷たちを捕らえて帰すことになる。だが、それはこの国の方針とは異なってしまう。
「逃亡奴隷たちを捜索する者は、現れなかったのか?」
現れなかったのであれば、所有権放棄を主張して守ることになるだろう。それで引き下がれは良いが、引き下がらなかった場合は、領民の防衛として戦うことになるだろう。
「捜索者はいなかったと、そう確認しております。」
そこまで確認がとれているのなら、外周部の集落を編入してもいいだろう。
そうなると、小麦は外周部で耕作を行う。
森の中では、作物の試験栽培と果樹栽培を行う。
また、エルフが主食としている豆類の栽培も、森の中で行うことになる。
あとは、養鶏・養豚・牧畜ができないか。
養鶏は、それぞれの開拓地の住民に飼育させればいいだろう。鶏卵は良質な栄養源になるし、鶏も低脂肪高タンパク質の良い食材になる。廃鶏になれば、いい出汁のでる食材だ。
豚や牛は、パドヴァを通じて購入して、試験飼育する必要がある。牛に関しては、馬の飼育ができているのだから、問題はないのではないか?
他に必要になりそうなのは、羊や山羊か。特に羊は、その毛が衣類にも使えるし、肉も食べられる。放牧のノウハウが得られれば・・・。
「いかんなあ。」
リュウヤが呟く。
「どうなされました、陛下。」
呟きを耳にしたサクヤが、リュウヤに話しかける。
「いや、ひとつ目処がついたら、あれもこれもやれたらと考え出してしまってな。欲深いものだと思ったんだよ。」
苦笑しながらリュウヤは言う。そんなリュウヤにつられて、皆、苦笑した。
どうやら、皆んな同じ思いらしい。建国の苦しみであると共に、楽しみでもあるのだろう。自分たちの描く理想や夢を盛り込めるのは、建国の第1世代の特権でもあるのだから。
「先のことよりも、今は目の前の事案を片付けよう。」
リュウヤはそう言うと、森の外周部の集落の取り込みを図ること。その際に、住民の名簿の作成と、この地に来た経緯の聞き取り。特に逃亡奴隷はいつ来たかの確認。
また、エストレイシアにはその集落の防衛プランの作成。必要であれば砦を建設、もしくは集落そのものを要塞化することも検討する。ただその際の人手には、ドヴェルグやドワーフを出せないため、軍とルドラ達で行うこと。それらが決定される。
エルフたちが石人形を作成、使役すればなんとかなるだろう。
それらが決定されると、会議は終了となり解散する。
会議終了後、リュウヤはエストレイシアを呼び止める。
リュウヤの目配せにより、タカオら親衛隊とミーティアが席を外し、残っているのはリュウヤとエストレイシア、フェミリンスの3人になる。
「こちら側にも、デックアールヴの諜報網はあるのか?」
これは質問というより確認である。調和者によって生み出され、その役割を担うならば諜報網は必要不可欠なものなのだから。
エストレイシアは不敵な笑みを浮かべる。それは肯定ということだ。
「奴隷の相場と、奴隷が絡む仕事の賃金相場を調べてくれ。可能な限り詳細に。」
それは、森の外周部の集落にいる逃亡奴隷を守るために必要不可欠なこと。
その意図を理解して、エストレイシアは退室する。
「よろしいのですか?」
フェミリンスの問い。
「領民とすることを決めたんだ。ならば、全力で守るだけだ。」
こともなげに答えるリュウヤ。
「意外だったか?」
リュウヤ以外の者が同じことをすれば、意外に思っただろう。その発想は、おそらくはこの世界の住人にはない。フェミリンス自身、なぜ奴隷にそこまでしなくてはならないのか、そういう思いがある。
だが、元々リュウヤはこの世界の住人ではない。だから、意外には思わない。常識が違うのだから。
そのリュウヤがもたらすものが、この世界にどんな影響を与えるのだろうか?
リュウヤの暴走の可能性とともに、それも見極めなくてはならない。
「では、俺も行くとしよう。」
今日は、ギイに頼んでおいた道具の試作品を見なければならない。あれができれば、木材加工の幅が広がるはず。
歩き出すリュウヤの後を追って、フェミリンスも歩き出した。
まだ、内政・日常回が続きます。