イストール王国 ジゼルの帰還
イストール王国王都ガロア。
フィリップとウリエ、ふたりの王子は帰国したジゼルの報告を受けている。
この時点で、彼らは彼の国が国名を定めたことを知らない。
リュウヤの言動から、その方針を見極める。
パドヴァの王族や貴族の子供たちの遇しかた。
自分たちの常識とは全く違う。ジゼルの見立てでは、彼らに国を返すだろうとのこと。
自分たちならばどうしただろう?
少なくとも、国を返すなどということはしない。王族の男子はともかく、貴族の子供はどうしただろう?売り飛ばすか、功績のあった将軍にでも与えるか。
いや、それは王族の娘たちも同様の運命だろう。運が良ければ、征服した国の王の側室になれるかもしれないが、そこまでだ。
人権意識などというものが希薄、というよりも皆無な世界なのだ。
「異常、だな。」
フィリップが呟き、その呟きにウリエも頷く。
はっきり言ってしまえば甘い。その甘さがなにを招くことになるか?他国からの侮りを受け、戦争になるかもしれない。リュウヤという男の力を知らなければ。
ジゼルの報告は続く。
彼の国の国民は、移住団を含めてリュウヤの統治を好意的に受け止めているとのこと。
リュウヤ自身も巡視を行い、領民の生活に気を配り、時には共に汗を流す。
まだ国として立ち上がったばかりの、新国家ならではの光景だろう。イストール王国のような国では、リュウヤの真似はできない。
ただ、そのおかげか、生産効率は非常に高くなっているそうだ。
さらに、リョースアールヴ、デックアールヴ、ドワーフの三者からの援軍要請と出動。極めて短時間でそれを治め、リョースアールヴとデックアールヴをその配下に収めると同時に、ドワーフと同盟を結ぶ。
さらには敵対していたエルフたちを許し、配下にしたこと、その争乱の背後に「白の教団」なるものがいたことも報告される。
ドワーフとの同盟により、北方の備えとしたのだろうことは、容易に想像できる。
「随分と陣容が強化されたようだな。デックアールヴも配下にしたのならば、噂に名高い"戦巫女"もいるのだろう?」
ジゼルが答える。
「はい。一度演習を見学させていただいたのですが、その指揮ぶりは見事なものでした。」
そして、エストレイシアが軍の総指揮官に就任したことも、併せて報告。
「それもですが兄上、エルフが加わったということは、森の管理、防衛も相当な質的向上があるのではありませんか?」
元々エルフは、「森の賢人」といわれるほどに森に詳しい。彼らがあの森を掌握したら、森そのものが堅固な要塞となり得る。
植物に詳しい彼らが居れば、食用の植物も見つけるだろうし、その栽培も行われるだろう。食料事情の大幅改善も見込まれる。
「急速な国力増強もあるか。」
この地域のパワーバランスがどうなるか?
予断を許さない状況になりそうだ。
ジゼルが退室し、ふたりは協議を続ける。
ジゼルの報告によってわかったリュウヤの方針。
拡大路線はとらない。敵対した時はともかく、基本的には友好関係を結ぶ。
敵対したとしても、不必要な血を流さないようにする。
種族間に差を設けず、平等に扱う。
トール族の事例を見る限り、彼の国では奴隷はいない。
敵対した者には苛烈な攻撃を行う。
イストールとしては、友好関係を継続する方針なので全体としては良い。問題になりそうなのが、イストールにも存在する奴隷の扱いか。
ジゼルの報告では、自分の行う施策を他国に押し付けることはなさそうではある。それでも問題になるのは、彼の国に脱走奴隷が逃げ込んだ場合だ。その時の対応をどうするか。
春の訪問で協議する重要な議題になる。
「そういえばウリエ。リュウヤ殿が婚約するそうだが、その土産はどうするのだ?」
「それについては、すでに指示を出してあります。個人としても、羊毛製品を持って行こうと考えています。」
イストール王国の特産品である羊毛製品。悪くはないだろう。フィリップは大きく頷く。
「ですが兄上。兄上はいつ結婚なさるのですか?アルトドルフ候の御令嬢と仲が良いと聞き及んでおりますが。」
「・・・なぜ知ってる?」
「人の口に戸板は立てられないものですよ。」
「ま、まあ、そのうち、な。」
「わかりました。ジュディト殿には、もう少し待っていただけるように話しておきますよ。」
弟の言葉に、フィリップは憮然としていた。




