初めてのスケート、天ぷら、そしてイライラ。
夜も明けて、ふたりはそれぞれの部屋へと戻って行く。
軽い足取りのサクヤを見送った後、リュウヤはふたりの人物に捕まる。
ギイとエストレイシアだ。
「昨日、湖で酒の肴に良さそうな物を振る舞ったと聞いたんじゃが?」
「それは、軍の食料確保に役立つものなのだろうか?」
親衛隊は、各種族による混成部隊。
ということは、当然ながらリュウヤがなにかをすれば、それぞれの上層部の耳に入ってしまう・・・。
俺は身近にスパイを置いているのか?
ふとそう考えてしまう。
いや、広まること自体はいい。冬の間のタンパク源にならないかと、そういう考えもあったのだから。自分たちで捕って、食べればいいだけのことだろう。
だが、それを自分が振る舞うことを前提にされるのは、なにか間違ってないか?
だが、リュウヤの抵抗むなしく、今日も湖に行くことになってしまうのである。
今日は会議出席メンバーに加えて、ドワーフの使節団とサギリとリュウネも参加している。
そしてリュウヤは、今回も遊ぶ道具を用意させていたりする。
マドゥライに命じて作らせた、ブレード付きの靴。そうスケート靴だ。
フィギュア王国名古屋の出身とはいえ、リュウヤ自身は軽く滑るくらいしかできない。いや、今の身体ならば、羽生結弦超えができるかもしれない。ただ、この世界で点数をつける者は誰もいないのだが。
なので、リュウヤは軽く滑る程度で満足する。
そして、サクヤとリュウネはスケート靴を履き、リュウヤのレクチャーを受けながら初めてのスケートに挑戦する。
初めての、見たこともないスケート。歩くこともままならず、転びそうになる。すると、リュウヤがそれを抱きとめる。
「も、申し訳ありません!」
サクヤが顔を真っ赤にしている。
「初めてなのだから、謝ることはない。」
リュウヤはそう言って笑う。
その光景を見ていたギイは、
「うまいことやりよるな、リュウヤのヤツ。」
そう呟きつつ、温かい目で眺めている。
大量の小魚が釣り上げられる。
それらを、水で軽く溶いた小麦粉の衣をつけて揚げる。
ひたすら揚げる。
ただひたすらに。
揚げたハナから無くなっていく。
そして、リュウヤのイライラが募る。
「おまえらには手伝おうという気はないのか!」
「いや、今日は陛下が振る舞ってくださると聞いていたのですが。」
しれっとエストレイシアは言う。
いや、エストレイシア、お前はあの場にいて聞いてたよな?俺の抵抗を。
リュウヤの視界に、琥珀色の液体をコップに注ぐギイの姿が入る。
「ギイ!!酒の持ち込みは禁止だと言っただろう!!」
「硬いこと言うなって。」
あっさりと流すギイ。
「お前たちも一緒になって飲むんじゃない!!」
リュウヤのイライラが募る一日であった。