湖面凍結と魚釣り
一体何が起きたのでしょうか?
今まで最高550くらいのPVが、倍近い1,000オーバー。
とても驚いております。
この日、リュウヤは湖に来ていた。
森の探索と管理を担当しているエルフたちから、湖が凍結したという報告を受けたからだ。
氷の厚さは、場所によっては1メートルを超えており、上に乗ったくらいではビクともしない。
「このような状況では、魚を捕ることができません。」
いや、まさにその通り。
下手に氷を割って、その影響がどこまで広がるのかもわからない。一箇所割ったら全体に広がり、全員湖に落ちたなんてことになったら、シャレにならん。
リュウヤは凍結した湖面を、中央に向けて歩きだす。
「へ、陛下、そのまま進まれては危険です!」
声の主はマテオ。最近、側仕えに加わったパドヴァ出身の人間である。
軍組織の再編に伴い、リュウヤの側仕え、いわば親衛隊も再編されている。多種族国家となっている以上、特定の種族に偏らせるのは、たとえリュウヤにその意思が無くとも、種族間の優劣を連想させてしまいかねない。それは国民に亀裂を生み、国の礎に崩壊させる。特にリュウヤの側仕えとなれば、注目度も高い。別の見方をするならば、リュウヤの意思を示すにはもってこいとも言える。
その中でもマテオは出色の存在だった。パドヴァでも騎士団に所属していたわけではなく、農民出身の兵士だった。しかも兵士になったのはこの地に来てからだ。
際立った技量を持つわけではない。選ばれたのは、その朴訥とした人柄から。とにかく真面目。
マテオ自身もまさか自分が、王様の側仕えなんてものになるとは思いもしておらず、礼儀作法などは全然ダメだが、それでも必死に礼儀作法を学び、口上も必死になって覚えようとする姿は好感を持って迎え入れられている。
そのせいか、とにかくリュウヤの安全に関しては凄まじいほどの注意をはらっている。時にはリュウヤが閉口してしまうほどに。
「大丈夫だ。お前も来い、マテオ。」
その言葉に、マテオはリュウヤに続き、他の者も続いていく。
現在リュウヤに従っている親衛隊は10人。
龍人族タカオを隊長に、人間族がマテオともう1人。ドヴェルグ1人、ドワーフが2人。エルフ2人に両アールヴが1人ずつ。それに秘書官であるミーティアもいる。
さらに湖面凍結の調査に来ているエルフたち十数人。
「どこまで行ける?」
調査団団長を務めるルーカンに問う。
「あの旗のあるあたりまでは、安全を確認しています。」
ルーカンの指差す先に、長い木の先に赤い布をつけた簡素な旗が見える。
岸からおよそ200メートル。
「あのあたりで氷の厚さはどれくらいだ?」
「だいたい50センチほどかと。」
その返事を聞くと、ドワーフのひとりに声をかける。
「カイドゥ、持ってきているか?」
「はい、陛下。」
そう言って出したのは、ドワーフが石材を切り出す際に使用する手動ドリル。
その手動ドリルを氷に突き立てると、穴を開けていく。
氷を貫通すると、今度はドヴェルグのドラフから道具を受け取る。
細い糸に小さな釣り針がいくつも付いている。
そして、今度はエルフのトラスニークから小さな虫の幼虫を受け取る。
腐食した木の中にいたのを採取したものだ。
それを釣り針につけると、穴の中に垂らしていく。
数分後。
小さな魚が数匹釣り上げられる。
日本で行われるワカサギ釣りの応用だ。
さらに持ち込ませた火鉢と鍋と油。
釣り上げた小魚を素揚げする。ワカサギといえば天ぷらだろう。
まず一匹。自分で試食する。
これはいける。
そう判断すると、みんなに食べさせてみる。
あっという間に無くなる。
まだ物欲しそうな皆んなに向かって、
「お前たちも釣れ!」
そう言って道具を渡す。
皆んな一斉に穴を開け、釣り糸を垂らしていった。
その夜。
リュウヤはサクヤを伴って、王宮外に作ったカマクラの中にいた。
その中央には火鉢と油がたっぷりと入った鍋。そして昼間に釣り上げてきた小魚が多数と、河で取れた海老たち。そして酒。
それをこの場で揚げて、ふたりきりの天ぷらパーティ。
食材は小魚と海老だけと、物足りないものはあるが、今は仕方ない。
カマクラは、今回は最初からギイとエストレイシアに手伝わせたため、非常に良くできている。
前回、サクヤの説教をかわしたふたりに、その後どうなったかを懇々と話し、協力させたのだ。
「リュウヤ様、先日はすいませんでした。」
「?」
「私、リュウネに嫉妬していました。」
「嫉妬?」
「はい。いつも、私より先に新しい遊びをしたり、人目を憚らずに接することができたり・・・。」
目を伏せて続ける。
「私には、そうすることができなくて。簡単に飛び越えてできてしまうリュウネに嫉妬していたんです。」
それが出来るのは、リュウネの幼さと無邪気さ。言ってしまえば子供だから。
サクヤのような立場もないからこそ取れる行動に、嫉妬していたという。リュウネにそれをぶつけるのは、あまりにも大人気なく感じられて出来ず、その分をリュウヤにぶつけてしまったのだという。
そんなサクヤの頭にポンっと手を乗せる。
「サクヤは悪くないさ。サクヤのそんな気持ちに気づかず、そんな気持ちにさせてしまった俺が悪いんだよ。」
「いえ、違いま・・・、ん。」
"違います"、そう言おうとしたサクヤの口をリュウヤが自分の唇で塞ぐ。
「その話しはここまで。ここからは楽しもう。」
リュウヤの言葉にサクヤは自分の唇に手を当て、
「はい。」
小さく返事をする。
湖で振る舞ったものと違い、小麦粉を水で軽く溶き、衣をつけて揚げる。
サクヤは見たこともない調理法に、興味津々といったところだ。
やがて揚げたての小魚(名前がわからない)や海老を食べる。
「・・・っ!」
「気をつけないと、火傷するぞ。」
サクヤは口を押さえながら、
「注意するのが遅いです。」
そう言って涙目になっている。
"ごめん、ごめん"と言いながら、リュウヤは揚げ続ける。
口の中の火傷も治ったのか、もう一度、今度は熱さに気をつけながら食べる。
「美味しいです!」
顔をほころばせ、サクヤは食べすすめる。
互いにある程度食べ、酒を飲む。
こうやってふたりで飲むのは初めてのことだ。
「こういう時は、日本酒の方が雰囲気が出るんだろうな。」
天ぷらを食べながらの雪見酒。相当にいい雰囲気になるだろうが、いま手にしているのはウォッカに似たアルコール度数がやたらと高い酒。火酒とも呼ばれるドヴェルグ特製のものだ。
元が日本人なだけに、ここはやはり日本酒が飲みたくなる。
「日本酒、ですか?」
少し酔いが回っているのか、頬を少し赤く染めたサクヤが問う。
「俺のいた国で作ってた、米という穀物からできる酒だよ。」
この世界に米があるのかわからないため、作ることはできない。
「故郷は恋しいですか?」
リュウヤはサクヤの顔を見る。少し酔っているようだが、それでも真剣な目で自分を見ている。
「恋しいものだよ、食べ物がね。」
あちらの世界で恋しいもの。やはり食べ物だろう。
現代の国々で、恐らくは最も食に情熱を注ぐ国、日本。そんな国に育ったのだ。食べ物だけは、とても恋しく思う。だから、
「あちらの世界で食べていたものを、なるべくこの世界でも再現してみたいと思っているよ。」
その言葉にサクヤはクスリと笑う。
「リュウヤ様は、料理人だったのですか?」
サクヤら、この世界の人々からみたら当然の疑問かもしれない。こんな見たこともない調理法ができるのだから。
「いや、違う。この程度なら、あちらの世界の住人なら大抵の人はできるよ。」
この天ぷらだって、塩かポン酢、醤油と大根おろしがあればもっと美味しくなっただろう。
「でしたら、この国が安定したら、作ってください。たくさんの料理を。」
私が一番に試食いたしますから、そう悪戯っぽくサクヤが言う。
その言葉にリュウヤは苦笑するが、意外とそれもいいかもしれない。
サクヤの頭を肩に乗せ、そんなことを考えていた。
読んでくださっている方々、ありがとうございます。
好き勝手に書いているものを、これほど多くの方々に読んでもらえるとは思いもしませんでした。
今後も、できれば末永くよろしくお願いします




