国名決定
午後の会議。
参加者にヴィティージェの弟子、テオダートが加わる。
師ヴィティージェが国民の教育事業に力を入れるため、代わりに法典整備の責任者となったのである。
そのテオダートの紹介と、挨拶により会議は始まる。
まず、リュウヤから国名を「シヴァ」とすることを提案される。
これに関しては、特に異論は出なかった。そのため、国名は「シヴァ」として承認される。
今後、この国は「龍の王国シヴァ」として周辺諸国に認識されることになる。
そして、次の議題に移る。
それは、"リュウヤの名前を改めること"である。
その本題に入る前に、リュウヤが元々この世界の住人ではないことを伝える。
すでに知っている龍人族とドヴェルグ。
勘付いていたリョースアールヴとデックアールヴ。
知らなかったドワーフとエルフ、人間たち。
反応はそれぞれである。だが、リュウヤの発想があまりに自分たちと違うのこともあり、納得する。
「名前を改める、ですか。」
ヴィティージェが呟き、皆も一様に口を閉ざす。
それは否定的な沈黙ではなく、どのような名が相応しいか考えているようだった。
リュウヤがこの地に骨を埋める覚悟であること、それは皆に理解されたようである。
「今すぐに、ということではない。この冬の間に決めればよいだろう。」
それぞれ持ち帰って、7日後に改めて決議することにする。
次の議題。
春に来る予定のイストール王国への返礼使節団の派遣。
正使としてラムスンド。副使にユリウス。
ラムスンドがいない間、彼が担当していたサクヤの補佐は、ギイとルドラが分担して行うことを伝える。
また、同行する文官はサクヤが、護衛と武官はエストレイシアがそれぞれ選抜すること。
それらが伝えられる。
「ユリウス。しっかりと見聞を広げて来い。それは、お前がパドヴァを治める時、大いに力になるだろう。」
リュウヤが、パドヴァの今後について言明したのは初めてのことである。リュウヤがパドヴァの統治を永続させる気がないことは、言葉にはしていないが龍人族やドヴェルグたちには知られていることだ。だが、最近合流した者たちは知らない。だからそれを言明することで、リュウヤが領土を拡大しようという意思がないことを、後から合流した者たちにも知らしめる。
「ありがとうございます、陛下。」
ユリウスは大きく頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
それが、この日の会議の終了の合図となった。
「まだ不安か?フェミリンス。」
フェミリンスを呼び止めたエストレイシアが問いかける。
自らの出自を明確にして、その上でこの地に骨を埋める覚悟を見せたリュウヤ。
先日は、内示とはいえサクヤとの婚約を発表。
支配下においたパドヴァ王国を、ユリウス王子に返還することを言明。
どうみても、この世界の調和を乱すようなことをするようには見えない。無論、前期名君から後期暴君へと変化する可能性はあるだろう。ならば、
「我らが、道を踏み外さないように導けば良いのではないか?」
フェミリンスもエストレイシアの言いたいことは理解している。
だが、どうしても譲れないものがある。だから、
「たしかに貴女の言う通りですね。」
そう言いはしても、心中は別。
フェミリンスの考え、エストレイシアはわかっているのだろう。
溜息をひとつつくと、
「そのわだかまりが無くなるとよいのだがな。」
そう言って、訓練の指揮を執るためその場を離れていく。
「そう簡単に割り切れるものではないのです、エストレイシア。」
誰に聞かせるでもなく、呟いていた。