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龍帝記  作者: 久万聖
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雪害、雪遊び、そして説教。

しばらくは、内政と日常が続きます。

 想定していなかった大雪。


 その大雪による悪影響。


 それに最初に気づいたのはエルフたちだった。


 トライア山脈の北側に住んでいただけあって、この地の建物の雪への脆弱性に気づくのが早かった。


 このままでは、民の住居が雪によって押し潰される。そう報告を受けたリュウヤの行動は早かった。自身が日本において建設業に従事していたことも関係していたかもしれない。


 すぐさま必要な生活物資を持って、王宮へ避難するように命令を発した。


 またエストレイシアに命じて軍を動員。さらにトール族も動員して王宮への避難を完了させた。

 もともと最盛期には、2万人を超えるドヴェルグと数千人の龍人族。そしてそれに仕える者たちがこの岩山の王宮に住んでおり、民の収容スペースは十分にあることに感謝する。

 一週間後、避難命令が正しかったことが証明された。

 建物の8割が全壊。残りの2割もほとんどが半壊しており、無事な建物はほとんど無かった。

 そのため都市計画だけでなく、住居に関しても一から設計をやり直すことになった。


 トライア山脈の北側に住んでいたエルフや両アールヴたちの意見を参考に、リュウヤが建設業に従事していた経験を加味して再設計。それをエルフたちに見せて微調整を行う。それを何度も繰り返してできた設計図を元にドヴェルグとドワーフが模型を作り、それを住民に提示する。そこで住民の意見を取り入れて調整を行った。


 そして、春が来たらすぐに建てられるように、木材の加工を行う。


 ただ、この避難には思わぬ効果があった。まず、迅速に避難命令を出して対応したリュウヤの功績が住民に認められたこと。そしてリュウヤにとって嬉しい誤算となったのが、住民の文字の読み書きの習得のための時間が作れたことだ。


 文字の読み書きの習得。今はその利点を彼らは理解できないだろうが、そう遠くないうちに必ず気づく。取り引きをするときの契約を交わす時、自分で文書を確認できれば相手に誤魔化される可能性は低くなる。そのことを理解できるようになれば、大人たちは子供の教育の利点に気づくだろう。



 春に向けて、住居の再建の目処が立つと、リュウヤはリュウネと子供らを連れて雪遊びに興じる。

 建材を加工した際の端切れでソリを作ってソリ遊び。


 また同じように端切れで作ったスキー板でスキー。


 そしてなにより雪合戦。


 この雪合戦には、軍も参加させる本格的なものだ。チームを8つ作りトーナメント戦を行う。


 ルールは簡単。両陣営の本陣に立てられた旗を奪う。それだけだ。


 子供たちもいるため、無理はできないし大人たちは手加減も必要になる。それだけでなく、種族も混成となっており、また子供たちを守りながら戦わなければならないため、そういった戦術も求められる。


 指揮官の適性をみる目的もあったりするのだ。


 そして、リュウヤとエストレイシアは審判役である。


 当初はエストレイシアも参加しようとしていたのだが、


「お前が参加したら勝負にならん。」


 とリュウヤに止められたのだ。

 その雪合戦の始まる様子をサクヤらは呆れたように見ている。


「みんな子供みたい。」


 そう呟くのはミーティアだった。




 やがて雪合戦も終わり、子供たちは王宮内へと帰っていく。

 それを見送り、リュウヤは残った軍の者たちに訓示する。


「今回、子供らがいなければ勝てた、そう思っている者はいないか?」


 そう言って皆を見る。


「もしそう思っているなら、認識を改めろ。戦いは、自分たちの望む形で行えることなど、ほとんど無いのだからな。」


 護衛しながらも勝利を目指さなければならない状況だってある。また、訓練もろくにできていない新兵を指揮しながら、勝利を目指さなければならない時だってある。

 今回の雪合戦は、そういう状況を想定できていたかどうかを見るためのもの。


「さて、お前たちにその想定ができていたかな?」


 言葉がない。どうやら想定できていなかったようだ。


「訓練とは、漫然とするものではない。その訓練を行う意図を読めねば、何も上達はしない。身体を動かすだけでなく、頭の中も働かせろ。よいな?」


「「はい!」」


 リュウヤの言葉をどこまで理解したか、それは今後の彼らの行動を見なければわからない。そのあたりは、エストレイシアが判断するだろう。

 訓示が終わると、リュウヤはミーティアらを引き連れて王宮へと戻っていった。



 その夜。


 リュウヤはこっそりと王宮を出る。


 雪国育ちの人間には理解できないだろうが、雪国以外の土地で生活している人間にとって一度はやってみたいこと。カマクラ作りと、その中で過ごすことだ。


 ドヴェルグたちに作らせたショベルを片手に、カマクラ作りに精を出す。


「りゅーやさま、なにしてるの?」


 いきなり背後から話しかけられる。


「カマクラというものを作っている・・・」


 あれ?

 この声と喋り方は・・・。

 振り返ると、やはりリュウネだ。


「カマクラってなに?」


「雪で家を作るんだよ。」


 リュウヤの返答に目を輝かせる。


「りゅーねも一緒につくる!!」


 こうなるともう止まらない。下手に帰そうとすれば、大騒ぎをしてみんなにバレてしまう。

 仕方ない。一緒に作成しよう。

 そして、不恰好ながらも形になりかけたとき、今度はギイが酒を持ってやってくる。


「なにをしとるんじゃ?」


 リュウネがそれに答える。


「雪でおうちを作ってるの。」


「ほう!それは面白そうじゃ。」


 少し待っておれ、そう言って王宮の中に入ると、すぐに戻って来た。なぜかエストレイシアを連れて。


「なにやら面白いことをしていると聞いていたが・・・」


 カマクラを見ると、


「なるほど。雪中訓練に使えそうだ。」


 なぜか参加することになる。

 リュウヤ、リュウネ、ギイ、エストレイシアで改めてカマクラを作ると、ギイが持ち込んだ火鉢を囲む。


「以外と中は暖かいのだな。」


 エストレイシアが感心したように言う。

 ギイは持ち込んだ干し肉をツマミに、酒を飲む。ただ、この中で眠るわけにはいかないので、ちびりちびりと舐めるように呑んでいた。


 リュウネははしゃぎ疲れたのか、うつらうつらとしており、リュウヤに抱えられ、マントにくるまっている。

 そして夜は更けて、明けていく。



 朝。



 カマクラを堪能した4人は王宮へと戻ろうとする。


 その前に立ちはだかる人影。


 その姿を見た時、リュウヤは周囲の気温が更に低下したように感じられた。


「陛下。」


 とてもにこやかな表情と裏腹に、その言葉には凄まじい冷気を纏っている。


「随分と楽しまれたようですね?」


「いや、まあ、そ、そうだな・・・」


「おや、楽しまれなかったのですか?」


「そ、そんなことはないぞ。」


「では、もっと楽しまれたようなお顔をされてはいかがです?」


 サクヤによる無限ループ地獄にはまってしまったリュウヤを尻目に、


「では陛下。軍務がありますので、これにて失礼させていただきます。」


 エストレイシアは一礼して、さっさと行ってしまう。


「リュウネや、ワシらも先に行くとするか。」


「うん!」


 "裏切り者〜!"そう叫びたい気持ちに駆られるが、それをサクヤが許してくれない。


「この寒いさなか、一晩も外で過ごすとは、ご自分の健康をどのように考えておられるのです?」


「い、いや、あの中は以外と暖かくて、だな・・・」


「暖かいかどうかの問題ではありません。風邪などをお召しになられたら、どうなさるおつもりです?」


 延々と続くサクヤのループ地獄。


 その後、たっぷり2時間の説教をくらい、すっかり萎れてしまったリュウヤであった。


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