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龍帝記  作者: 久万聖
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ジゼルの帰国

 朝。夜の間降り続いた雪は積もっている。


 そして岩山の王宮の入り口には、あまりにも巨大な雪だるまが出現していた。


 高さ3メートル。その雪だるまは入り口の左右に立ち、まるで門番のようである。


 その周囲には、小さな雪だるまが多数。


 小さな雪だるまはいまだ増殖中だ。


 増殖させているのは、リュウネを中心とした子供たち。

 子供たちは種族の違いなど関係ないとばかりに、一緒になって雪だるま増殖に励んでいる。


 その光景をリュウヤとサクヤは、窓越しに見ている。


「元気なものですね。」


「ああ、だが子供たちの元気な姿を見るのは、いいものだよ。」


 サクヤはクスリと笑う。


 巨大な雪だるまを作っているのはトール族。

 彼らはジゼルの帰国のため、道路上の雪かきをしており、その雪で雪だるまも作成している。彼らにとっては子供たちと遊べて、なおかつ仕事もしているという、一石二鳥のようだ。


 子供たちのなかにはトール族の背中や肩に登っている者もいて、なかなかに楽しそうである。


「それにしても、これほど雪が降るとは思わなかったな。」


 北方に山岳地帯があるため、雪雲の多くはそこで遮断されると思っていたのだ。その分、乾燥した北風が吹くので、気温の低下は覚悟してはいたが。


「この辺り一帯の状況が変わったからではないかと、フェミリンス様が仰っていました。」


 その通りかもしれない。木々の呼吸には水蒸気が含まれるというし、近隣に大きな湖があり大河もある。それらから立ち昇る水蒸気が北風によって急速に冷やされ、雪として降る。


「リュウヤ様。」


 ふたりしかいない時は呼び捨てで良いと言っているのだが、なかなかそうはいかないようだ。


「フェミリンス様の役職は如何いたしましょうか?」


 リョースアールヴたちから聞き取りを行い、その適性を知ろうとしていたのだが、芳しくない結果になっている。


 高い魔力を持っていることは知られていたのだが、盲目というのがネックとなり、重要な仕事はほとんどして来なかったというのだ。


 そしてもうひとつ。サクヤは気づいていないようだが、彼女がリュウヤに対して時折見せる敵意。それをどう捉えるべきか。


「相談役、かな。」


 サクヤには補佐役がふたりいるので、リュウヤ付きということになる。


 知識は豊富であり、頭脳明晰なのだから適役ではある。本来ならその役割を担うヴィティージェは、教育機関設立をはじめとする教育の普及の準備もあり、なかなかリュウヤの相談役にはなれなくなっていくだろうことが予想される。そしてなによりも、フェミリンスが自分に向ける敵意をサクヤには気取られたくない。


「他には無さそうですね。」


 リュウヤの心情を知ってか知らずか、サクヤが答える。

 内示とはいえ、婚約が発表されたことでサクヤも自信を持っているのだろう。


 "コンコン"


 扉が叩かれる。


「陛下、ジゼル様たちイストール王国の使節団の帰国準備が整ったとのことです。」


 ミーティアの声だ。


「すぐに行く。」


 ジゼルたちを見送るため、ふたりは連れだって歩き出す。



「陛下!!」


 リュウヤを見つけたジゼルが駆け寄ってくる。


「わざわざありがとうございます。」


 一礼するジゼルに、


「イストールは最も重要な友好国。見送りに出るなど当たり前のことだ。」


 肩を軽く叩いて言う。


 手土産として出せるものはそんなに多くはないが、ドヴェルグ作成の武具を使節団全員と、ウリエ、フィリップ両王子への土産として渡している。


「国として立ち上がったばかりゆえ、大した物は贈れぬが、両殿下にはよろしく伝えてくれ。」


 この世界に来てそれほど時が経っていないリュウヤは知らぬことだが、この地の良質な鉱物をふんだんに使ったドヴェルグ作成の道具は、実は非常に珍重されており、相当な高値で取り引きされているのだ。そして、その中でもギイ作成の物は、"城ひとつ買える"と言われるほどであり、両王子への土産はそのギイ作成の物だったりもする。


 岩山の王宮を出ると、その両脇に置いてある巨大な雪だるま。近くまで来ると、その巨大さがよくわかる。それを見てリュウヤはふと思いつき、一緒に来ているギイに話しかける。


「あの雪だるま、いっそのこと雪像にしてはどうだ?」


「ほう、それは面白そうじゃな。」


 ギイも賛同する。


「今年は今更できぬが、来年もこれほど雪が降るようなら、それぞれチームを作って雪像作りの大会でも開くとしようか。」


「良いな、それは。勝ったチームには、たらふく酒を飲ませて、な。」


 もちろん、勝つのはワシのチームじゃがな、と付け加えることも忘れない。


「何を言われますか!勝つのは私のチームに決まっております!!」


 ドワーフのトルイが憤慨したように応じる。


「ドヴェルグやドワーフが作る雪像ですか?素晴らしいものになりそうですね。」


 その光景を想像してみたのだろう。ジゼルが感嘆する。


「ワシのチームの物は、特にじゃな。」


「いやいや、私のチームこそ、特に素晴らしいものになるのです!」


「ならば、今年は色々と試作してみるといい。雪質もわからぬのに、良い物は作れまい?」


 両者が言い争うのを止めるようにリュウヤが言うが、むしろ両者の闘争心に火をつけたようだ。


「ワシらの力を見せつけて、戦意を根こそぎ奪ってやるわい。」


「それはこちらのセリフです。」


 決して譲らぬ両者を見て、


「相当に盛り上がりそうですね、雪像作りは。」


「ああ、君も見に来るといい。」


 そう言うと握手を交わす。

 そしてジゼルは思い出したように話し出す。


「そういえば、両王子は随分と心配なされておりましたよ。」


「何をだ?」


「陛下がこの地に留まらないのではないかと。」


 不安になるのも無理はない。


 もし、自分が当初に考えていた傭兵になっていたら、間違いなく相当な脅威になっていただろう。絶大な魔力を持ち、圧倒的な武力を誇る魔法戦士。それが抑止力として働くだけならいいが、鉾として向かったならばどうするか?


 雇い主が野心家ならば、間違いなく周囲への攻撃、もしくは恫喝の駒とするだろう。そうなれば、この辺りの地域は戦乱に巻き込まれる。


 だから、フィリップ、ウリエの両王子は動向を危惧していたのだろう。


 それが龍人族とドヴェルグたちの王となったことで、リュウヤは"立場という鎖"に繋がれることになる。動向を探るにも、その国を見ればよく、いちいち探す手間も省けるのだ。


「ならば、今回のサクヤとの婚約、両王子は喜んでくれるものなのだろうな。」


 そう言ってリュウヤは笑い、ジゼルも


「そうでしょうね。」


 と笑う。


 馬を並べて話しているうちに、森の入り口まで来ていた。


「陛下、こんなところまで見送っていただき、ありがとうございます。」


 ジゼルは恭しく一礼する。


「また来るといい。お前ならば、いつでも扉を開けるからな。」


「ありがとうございます。」


 ジゼルはそう言うと、馬首をめぐらしてイストールへの帰国の途につくのだった。



 王宮の前では、ギイとトルイが早速雪像作りに励んでいる。


「勝負は来年からだというのに、気が早いことだ。」


 リュウヤは呆れて呟く。


 ただ、同時に思うのはこの競争意識があるのなら、札幌雪まつりのような盛大なイベントにできるのではないか?ということだ。


 屋台などを出せば、民の良い現金収入の場ともなろう。

 そんなことを考えながら、王宮の中へと入っていった。

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