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龍帝記  作者: 久万聖
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人事、そして・・・

 午後、会議室。


 出席者はリュウヤ、サクヤのふたりを中心にして、進行役となる宮廷魔術師ヴィティージェ。


 ギイ、ユリウス、グィード、アカギ、ミカサ、シズク、オボロ、ヒサメ、サギリが右側に並び、リョースアールヴの副族長ラムスンドとフェミリンス。デックアールヴ族長ヴォルンドルとエストレイシア。移住してきたエルフの代表として最年長者のルドラ。ドワーフの移住者代表トルイ。イストール王国からの客人という位置付けにあるジゼルが左側に並ぶ。


 正面には人間族の移住者代表数名。


 リュウヤの後方には秘書官ミーティア。サクヤの後方にはトモエとシズカが控える。

 本来なら、タカオもリュウヤの後方にいなければならないのだが、"稽古"によってボロボロになり、出席できなくなっている。


「タカオはどうしたのだ?」


 巡視に出ていたため、午前の訓練を知らぬミカサがアカギに問う。


「陛下直々に稽古をつけていただいたのだがな・・・」


 その言葉に、これまた巡視に出ていてそのことを知らぬヒサメが反応する。


「陛下直々だと?!なんと光栄な!」


 シズクとオボロは顔を見合わせて思った。知らないということはなんと幸せなのか、と。

 そこにリュウヤが口を挟む。


「明日はアカギの班を相手しようと思っているのだが、どうだ?」


 リュウヤの隣でサクヤは苦笑している。


「明日は、私の班は巡視となっておりますので。」


「そうなると、シズクとオボロの班も、巡視と待機組か。」


「はい!その通りでございます。」


 あからさまにホッとした表情をみせるふたり。


「ならばミカサとヒサメ。明日はどちらかの班とするとしようか?」


 くじ引きをさせた結果、ミカサ班と行うことが決定される。

 そんなやりとりが行われた後、会議が開かれる。



 まずは組織の再編。

 宰相的な役割を担うのはサクヤ。これは変わらない。それを補佐する役割にラムスンドとヴォルンドルを配置。


 今までサクヤの補佐をしていたギイは、工務担当とする。ここにはドヴェルグたちが入ると同時に、トルイらドワーフも組み込まれる。


 この工務担当はやることが多岐に渡り、この地の都市開発から生産・技術開発。道路建設も含まれる。日本で言えば、国土交通省に科学技術庁が合わさったようなものだ。


 農業振興と湖や川での水産業。農林水産省相当の組織である。食べられる作物の研究と畜産・漁業における養殖研究。ならびに森の保全の担当にはルドラらエルフをあてる。ただ、エルフには、というよりはこの世界には養殖という概念が無いため、そこにはリュウヤも関与することになる。また、ここには人間族からも幾人か担当者を選抜する。


 また、森の開墾や道路建設にはトール族をあてる。こちらは人数に制限があるため、その都度、話し合うことが決められる。


 軍事担当はエストレイシアが当てられる。


 アカギら巡視班は解体し、全てここに組み込まれ、エストレイシアの補佐をする。また、グィードもここに組み込まれる。多種族合同での戦術研究もすることになる。


「ヴィティージェ、任せていた法典の進捗状況はどうだ?」


 宮廷魔術師とは、古典等の文物の知識だけでなく、宮廷祭祀の知識も豊富であり、法律にも明るい。だからこそ、ヴィティージェとその教え子たちにこの国の法律の整備を任せていた。その進捗状況によって、リュウヤが最重要課題と位置付ける事業へ取り掛かるタイミングが変わる。


「草案は七割ほどはできております。」


「七割、か・・・」


 リュウヤは考え込む。七割というのは、どう評価するべきだろうか?


「この冬中には、草案は完成いたします。」


 草案が完成したあと、皆で協議した上で公布することになるだろう。


「別の仕事をさせたかったのだが、草案が完成するまで待つか。」


 させたかった仕事、その言葉に興味を抱くヴィティージェ。


「その仕事とは、如何なことでしょうか?」


「教育だよ、子供たちの。」


 その目的や意義、狙いを説明する。


 すでに構想を聞いていたサクヤとギイ、ミーティア以外の者たち、特に人間族は驚きを隠せない。


 この世界において教育・知識を与えるなどということは、権力者から見ればリスクの方が大きいというのが常識なのだ。それはかつての地球、特にヨーロッパや朝鮮半島では同様で、知識は王侯貴族や教会が独占していた。偉大なるローマ帝国の衰亡は、教会が知識を独占したからだという有力学説もあるほどだし、朝鮮半島では、日本の統治以前は識字率は一割に満たなかった。


 知識を王侯貴族が独占したヨーロッパと朝鮮半島の共通点。それは文化の衰退なのだ。


「俺としては、教育・知識を与えることが危険なことだとは思わない。むしろ、それらを独占することで、自らを特権階級にあると驕る権力者の方が巨大な害をなすだろう。」


 リュウヤの言葉にヴィティージェは考え込む。

 教育こそが国の土台を作るもの。その斬新な発想に驚愕するだけでなく、身震いを覚える。


「是非とも、その仕事をお与えください。」


 ヴィティージェ自身、自分が目立つ人間だとは思っていない。今回の仕事も、決して表に名が出ることはないだろう。だが、間違いなくこの国の礎となることができる。


「法典の方は、教え子たちが十分にやれるでしょう。」


「わかった。ヴィティージェ、お前に任せよう。」


 教師となる者についてはアテがある。


「サクヤ、預けていたパドヴァの王族と貴族の少女。彼女たちを教師として採用したい。意思確認を頼む。」


 すでに上質な教育を受けている彼女たちなら、良き教師になれるのだろう。特に、初級教育には女性の方が良いという。これは、明治政府が受けた欧米の教育関係者からの助言でもある。


「わかりました。早急に確認いたします。」


 サクヤの返事にリュウヤが頷く。


「準備期間はいかほどみましょうか?」


 学校の建物の建設からカリキュラムの構築。


「三年というところだな。ただ、読み書きは早い段階でできた方がいい。」


「それでしたら陛下、この冬の間に読み書きのできる者を、各地に派遣されてはいかがでしょうか?」


 サクヤの提案である。読み書きができる龍人族を派遣して、最低限の読み書きができるようにすれば良いのではないか?農閑期でもあり、時期的には丁度いい。


「それでいこう。派遣する人選は任せる。」


 そして、国民の教育の責任者にヴィティージェが着くことになった。



 そして会議の終了間際。

 リュウヤはこの場にいる者達に発表する。


「私事ではあるが、皆に伝えることがある。」


 その言葉にサクヤはリュウヤを見る。


「サクヤと結婚をする。無論、すぐにとはいかぬが遅くとも三年後。だから、今は婚約ということだ。」


 会議室中に拍手が巻き起こる。それが収まるのを待ち、


「ヴィティージェ、婚約に関する儀典はどのようなものになる?」


「国民への布告と、周辺国への周知、我が国の場合、友好国であるイストール王国とドワーフの王国への周知で十分かと。」


 他の国とは交流が全くない。


「いや、周辺国全てに周知しよう。」


 それぞれがどういう対応をするか、それで見えてくることもある。無視、あるいは拒絶か、誼を結ぼうとするか。

 それによってこちらも対策ができるだろう。


「では、婚約の発表と式典は春でよろしいでしょうか?」


「イストール王国からの使節団が来るのも春、それに合わせよう。」


「では、そのように準備いたします。」



 会議が終わると、会議室にはリュウヤとサクヤのふたりが残されていた。

 周りが気を利かせたのだ。


「リュウヤ様。」


 サクヤが窓を指差す。

 リュウヤはサクヤの指差す方を見る。


「雪が降っています。」


 ふたり連れだって窓際へ行く。


「良き思い出はできましたでしょうか?」


 "雪に良い思い出がない"、かつての発言を憶えていたのだろう。

 

「今日、今まで生きてきて最高の思い出ができたよ。そして、もっと良い思い出を一緒に作っていきたい。」


「はい、リュウヤ様。」


 ふたりは寄り添いながら、窓の外に降る雪を見ていた。

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