表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
8/463

 巫女姫が扉の外へと出て行くのを確認する。すると、


 "わーはっは!"


 始源の龍が大笑いしていた。目が見えずとも、ある程度は気配でわかるのだろう。


 "依代の娘のことを聞かせてやりたかったのだな。優しいことよ!"


 始源の龍のいう意図がなかったとは言わないが、なにより自分自身が抱いた大きな疑問でもあった。

 それに、あのホッとした顔を見れたのはいいが、それも、長くて3日のうちに決断を下さなければならない。

 正直言って"詰んだ"としか思えない。


 だが、いまはこの始源の龍がより多くのことを聞き出さなければならない。どうすればこの始源の龍を復活させられるのか、を。




☆ ☆ ☆





「長いのぉ。すっかり暗くなっち待ったぞい。」


 ギイは呟いたつもりかもしれないが、それはかなり大きな声だった。

 そこへ、


「悪かったな、ギイ。」


 龍弥が扉から顔を出す。


「話し込んじゃったよ。」


 頭をかきながらでてくる龍弥に、


「どうじゃった?」


 始源の龍の復活の方法のことだろう。


「簡単なことだったよ。名前をつければ、それでいいんだとさ。」


 それだけで互いの魂の融合がなされ、始源の龍は少なくとも1,000年の時を得られるのだという。


「ほう!名を付けるだけで1,000年!!」


 ギイは勢いこんで聞いてくる。


「付ける名は決まっているのか?」


 ギイの勢いに苦笑しながら答える。


「決まってたら、すぐに名を付けてるさ。相応しい名を考えるのに、一晩、時間を貰ったんだよ。」


「良かったのう、巫女姫さん方。これで龍人族も安泰じゃ。」


 ギイは大はしゃぎしている。巫女姫の従者二人も、互いの顔を見やって安堵の声をあげる。依代の少女がまだ死んでいないことも、その声にはあるのだろう。


「さあ、今夜は宴じゃ宴!!」


 スキップでもしそうな勢いで坂を下りていく。


「リュウヤ!さっさと来んか!」


 仕方なしに龍弥が後を追う。


「お前にもたっぷりと飲ませてやるからな!」


「酔っ払ったら、名前を考えるどころじゃなくなるだろうが!」


 まるで掛け合い漫才のようなやりとりをする二人の後を、巫女姫らはついていく。

 龍弥の穏やかな表情の中に、僅かに影がさしたことに気づいたのは巫女姫だけだった。



 宴といっても、内容はとても質素なものだった。

 食料事情は悪く、食べるものは多くはない。酒だけは、ドヴェルグたちが大量に持ち込んでいたが。

 龍人族、ドヴェルグ共に総出で参加しているらしい。

 そんな中、龍弥は大きな違和感を感じていた。龍人族の男女比があまりにもおかしい。ざっと見で5対1。女性の方が圧倒的に多い。

 隣に座っているギイにそのことを尋ねると、


「奴隷狩りのせいじゃよ。」


 男たちは女たちを守り、逃すために命を落としていったのだという。その結果が、この男女比なのだ。

 始源の龍の庇護を失った龍人族の苦難が偲ばれる。


「それも今夜までじゃろうが。明日、始源の龍は復活し、龍人族も力を取り戻す!」


 そう言いながら、ギイは龍弥のコップに酒をなみなみと注いでいく。

 龍弥の視線の先には、巫女姫を中心に涙ぐむ龍人族の女性の姿がある。これまでの艱難辛苦から解き放たれることに、感極まっているのだろう。


 宴は、いま少しの間続いていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ