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龍帝記  作者: 久万聖
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サクヤの一面

 ノコノコとやって来た、タカオ・イブキ・イコマ・トウウ(凍雨)・シュウウ(驟雨)・カスミ(霞)の側仕え6人。


 その6人は、リュウヤとサクヤから立ち昇る尋常ならざる雰囲気に気圧されていた。


 ふたりのその迫力にギイは肩をすくめ、ミーティアはなにが起こるのかとオロオロしている。


 同年代のエルフの中では、"落ち着いている"と評されていた自分はどこに行ったのだろう、ミーティアはそう思ってしまう。


「貴方達は、この時間まで何をしていたのでしょう?」


「!!」


 言葉は丁寧であり、その顔には笑みが浮かんでいる。


「貴方達は、自分のお役目を理解していますか?」


 相変わらず、サクヤは穏やかな笑みを浮かべている。だが龍人族の者ならば知っている。その笑みの裏に潜む恐怖を。


「自分たちの役目は、リュウヤ陛下の側にお仕えすること・・・」


 タカオの言葉にサクヤは被せてくる。


「お側に仕え、何をするのですか?」


 始まった。サクヤ様の追及地獄。

 こうなると止まらない。徹底的に追及され、返答ができないと凄まじい叱責が待っている。その間、わずかな姿勢の崩れも許されない。姿勢が崩れても、叱責が待っている。


「お側に仕え、陛下を補佐・・・。」


「補佐をするだけなのですか?」


 追及の間も、サクヤは決して笑みを忘れない。


「いえ、補佐をするだけではなく・・・」


「補佐をするだけてはなく、何でしょうか?」


 "あー、あれは嫌だろうなぁ"


 リュウヤは6人に同情する。あの言わば無限ループ地獄。しかもそれを笑顔でやっている怖さ。


 "自分がこの地に残る決断をした時、似たようなことになったっけ。あの時は泣き顔だったけど"


 などと考えていると、イコマがチラリと助けを求めるような視線を向けてくる。


「イコマ、どこを見ているのです?」


 サクヤは目敏くイコマを咎める。その際に、リュウヤへも目配せをする。


 そろそろ終わりにしたいのだろう。


「貴方達は、一番大事な役目を忘れているようですね?」


 皆を見渡しながら、サクヤは続ける。


「貴方達の一番大事な役目は、リュウヤ陛下をお守りすることなのですよ?それを忘れているとは、なんと嘆かわしい!」


 王の側に仕えるということは、いざというときに守るべき役目を負うことなのだ。サクヤの言葉は、ミーティアに向けたものでもある。


 6人は項垂れる。


「そこまでにせよ、サクヤ。」


 ここでリュウヤが引き継ぐ。


「だが、凱旋したばかりとはいえ、緊張感が足らぬな。」


 一旦、言葉をきる。そして、


「お前たち6人と、手合わせをしようか。」


 6人は互いの顔を見合わせる。


「6人同時でかまわんぞ?俺に一撃でも当てることができれば、そこで終了だ。」


 リュウヤが強いことはわかっている。だが6人同時なのだ。サクヤの長い叱責を受けるよりはマシな気がする。


「ルールは、魔法の使用及び龍化の禁止。自らが磨いた武技のみを使用する。そして、得物は自由だ。」


 リュウヤが6人に言う。


「お受けいたします。」


 タカオが代表して答える。


「では、先に訓練場に行け。俺も後で行く。」


 タカオらは一礼して、訓練場へと向かう。


「陛下、よろしいのですか?」


 ミーティアがおずおずと話しかける。


 彼女は龍人族を含めた救出部隊に助けられており、龍人族の戦闘能力を知っている。彼女の率直な評価は、龍人族ひとりで千人に匹敵する。文字通りの一騎当千というやつだ。


「かまわんよ。それより、君には早速だが文書を書いてもらいたい。」


 ウィラへの命令書だ。リュウヤが口頭で文書の内容を伝え、それをミーティアが公文書として相応しい書式に起こす。

 それを確認したあと、その文書をサクヤに見せる。

 今まで、こういった文書はサクヤが作成していたのだが、そのサクヤを満足させる出来だったようだ。


「陛下が、彼女を秘書官に抜擢したのは、正解ですね。」


 その言葉を受けて、


「サクヤの許可も出たことだ。ミーティア、改めてお前を秘書官に任じる。」


「はい!謹んでお受けいたします。」


「それでは、その文書をウィラに届けよ。」


 命令書にリュウヤが署名し、新人女官の教育のために食堂にいるだろうウィラに届けるよう命じる。

 ミーティアは命令書を、文書専用の筒に入れると一礼して退室した。

 それを見送った後、リュウヤはギイに指輪の作成を依頼した。


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