朝
朝、目覚めたときリュウヤは大きな違和感を感じていた。
腕の中にある柔らかなもの。
そしてその香り。
この香りはどこかで・・・。
「!!」
腕の中を見る。
そこには眠っているサクヤがいる。
昨夜のことを思い出す。
サクヤにプロポーズをして、了承してもらった。
その後、キスをして、そこで緊張が解けてしまい、サクヤを抱いたままベッドに倒れこんだ。その後の記憶がない。
互いの服装や、ベッドの様子から一線を超えたということはなさそうではある。
サクヤの寝顔。その穏やかな、可愛らしい寝顔に見惚れている。思わず手が伸び、長く艶やかな黒髪を撫でる。
ふとサクヤが身じろぎする。慌ててリュウヤは手を離す。
「リュウヤ様?」
少し寝惚けたようなサクヤの声。
「おはよう、サクヤ。」
「おはようございます、リュウヤ様・・・!」
昨夜のことを思い出したようだ。真っ赤になっている。
「可愛い寝顔だったよ。」
その言葉に一層、顔を赤く染めて顔を隠すような仕草を見せる。そして、何かに気づいたのか上目遣いに、悪戯っぽく言う。
「リュウヤ様の寝顔も、可愛いかったですよ。」
思わぬ反撃にリュウヤが狼狽える。
そして、互いに顔を見合わせて笑う。
「リュウヤ様、あ、あの、昨夜のことは・・・」
「うん、本気で言っている。」
そして、
「改めて言う。サクヤ、結婚しよう。」
再びプロポーズの言葉。酒の力ではなく、素面で。
「はい。」
満面の笑顔で返事をする。
扉を叩く音がする。
「サクヤ様、そろそろ支度を致しませんと。」
トモエの声だ。
ということは、トモエとシズカにはサクヤがここで一夜を過ごしたことがバレているということか。いやに冷静に、リュウヤはそのことに気づく。サクヤは名残惜しそうに部屋を出る。
入れ替わりにシズカが部屋に入ってくる。
ただ、その雰囲気は非常に危険なものを孕んでいる。まるで、喉元に鋭利な刃を突きつけられているかのような。
「リュウヤ様。」
シズカの声を聞くのはいつ以来だろう?イストール王国に行って以来か?
「リュウヤ様は、サクヤ様をどう思われているのでしょうか?」
言葉に一層の険が入る。
「とても愛おしく、絶対に離したくない存在。そして、愛してる。」
シズカはリュウヤの目を見据えている。
「その言葉に嘘はありませんね?」
「ない。」
暫しの沈黙が流れる。
「わかりました。ですが・・・」
シズカは続く言葉に力を込める。
「サクヤ様を悲しませるようなことをしたならば、タダではおきません。」
「わかった。」
そのリュウヤの返事を聞くと、シズカは一礼して退室した。