女の戦い?
帰ってきたリュウヤを満面の笑みで迎えるサクヤだったが、その左右に控える二人を見て固まっている。
その二人とは、エストレイシアとミーティアである。
サクヤから見ても、エストレイシアは十分過ぎるほどの美女であり、ミーティアは利発そうな美少女だ。
「リュウヤ様、この御二方は?」
リュウヤは、自分の周囲の温度が下がったような錯覚にとらわれる。
「この度、リュウヤ陛下の秘書を拝命いたしましたミーティアと申します。」
リュウヤがなにか言う前に、ミーティアが元気よく名乗る。
「秘書、ですか?」
「はい!」
ミーティアの返事は、気持ちが良くなるほどに元気である。
サクヤは笑みを浮かべたまま、そしてその目はスッと細くなってリュウヤを見ている。
"目が笑っていない!逃げたい!!"
リュウヤの、偽らざる現在の気持である。そして、そのリュウヤの様子を見て、サクヤの少し後ろに控えているトモエとシズカは状況を察する。
「リュウヤ陛下、此方の方は?」
エストレイシアがリュウヤに尋ねる。
「龍人族のサクヤ、龍の巫女と言ったほうがわかりやすいかな?」
「なるほど、貴女が龍の巫女殿、いえ、サクヤ殿。お初にお目にかかる。私はエストレイシア、以後、お見知り置きを。」
「私こそ、お初にお目にかかります。戦巫女の勇名は、私も聞き及んでおります。」
リュウヤはこのやりとりにホッとするが、
「サクヤ殿も、リュウヤ陛下の妃と伺っております。」
"ん?なにか変な言葉が聞こえてきたような?妃?誰が言ったんだ?"
「い、いえ、妃などと・・・。」
サクヤが真っ赤になっている。
"お?この反応は?こちらへの追求は免れた?エストレイシア、ナイス!!"
「おや、違われましたか?リュウネ殿からそう伺っていたのですが。」
"話の出元はリュウネか"
などと考えていると、エストレイシアの爆弾発言が飛び出す。
「ならば、私にも王妃となることができるということですね。」
"前言撤回!!なに言ってんだよ、お前は!!!"
場が完全に凍りつく。
「サクヤ様、皆さまお疲れのようでございます。中にご案内いたしましょう。」
"トモエ、ありがとう!"
リュウヤは心からトモエに感謝する。が、居心地の悪さが変わるわけではない。先を歩くサクヤから、殺気にも似た気がリュウヤに向けられる。
ミーティアに関しては、理由を説明すれば納得はともかく理解はしてもらえるはず。だが、エストレイシアの爆弾発言は・・・。
他者がいなければ頭を抱えているところである。
凱旋式典(といってもかなり簡素なものだが)を終えると、当然のように酒宴へと雪崩れ込む。
移住者やドワーフの使節団の歓迎会の側面もある。
リュウヤとしてはサクヤと話をする機会が欲しかったのだが、なかなかうまくいかないもので、その機会はなかなか訪れない。
「リュウヤよ、今日も"無礼講"なのだろうな?」
尊称を使わずに話しかけてくるのは、ギイしかいない。
「一応、公的行事なんだがな。」
リュウヤは苦笑する。堅苦しい飲み方をしたくはないのだろう。
「無礼講とはなんだ?」
エストレイシアが聞き慣れぬ言葉に興味を示す。
その説明をするギイ。
「ほう、礼儀作法など要らぬ、自由な飲み方か。面白そうであるな。」
「ほれ、この嬢ちゃんもこう言っておる。」
ギイの期待を込めた視線がリュウヤに注がれる。
「わかった、公的な部分が終わったら、そうしよう。」
ギイもその妥協案を受け容れる。
公的な部分が終了すると、リュウヤは無礼講を宣言する。と同時に、一斉に皆がリュウヤの元に押し寄せる。
「ちょっと待て、お前ら!」
リュウヤの抗議も虚しく、あっという間に潰される。もはやこの地の酒宴の様式美と化している光景だ。
「存外、リュウヤ殿は酒に弱いのだな。」
意識を失う前に、エストレイシアの言葉が耳に届く。
沈みゆく意識の中で、数百人から次々と酒を注ぎ続けられて潰れないのはドヴェルグとドワーフくらいのモノだと、抗議の声をあげたくなっていた。