戦巫女
エストレイシアは、陣地中央に建てられている物見櫓から、厳しい視線をエルフたちに向けている。
そして西側に陣取るエルフたちの背後に、混乱が生じているのを発見する。
「あのあたりは、一番敵陣が厚いところだったはず・・・」
援軍が到着したのだろうか?そうならば、呼応してうって出るべきだが・・・。
「エストレイシア様!石人形が移動しています!!」
その声に石人形がいた場所を確認する。
たしかに石人形たちが移動している。その移動先は、あの混乱が生じている場所。
「反対側でもなにか起きています!!」
反対側では轟音があり、派手に魔法を使っているようだ。
だが、これで確信した。
「援軍が来たぞ!これより討ってでる!!」
エストレイシアの凛とした声が周囲に響く。
援軍と呼応して敵を討つ。その意図を理解したデックアールヴたちは歓声をあげる。士気が最高潮に達する。
今までは防戦に徹していた。それは非戦闘員を逃がすためであり、ここで敵を引きつけておくことでその安全を確保するためだった。その理由を理解しているし、納得もしている。だが、当然ながらフラストレーションは溜まる。
その溜まったフラストレーションを吹き飛ばす機会がやって来た。
エストレイシアは愛用の弓を持ち、有角馬に跨る。同様に有角馬に跨るのが50名。それに続くのが200名。
一斉にうって出る。
思わぬ攻勢を受けたエルフたちの部隊は、支えられずに崩壊する。
「エストレイシア様!!」
聞き覚えのある声だ。
「スティールか!よく戻った!」
スティールらが戻った。
「援軍要請を受けてもらえたようだな。」
「はい、リュウヤ殿は石人形の動いた先におられます。」
「ならば、挨拶に行かねばなるまい。」
そう言うと、石人形の動いた先に軍を進めた。
エストレイシアは驚いていた。
完全に破壊された8体の石人形。いや、破壊などと言う言葉では生温いかもしれない。残っているのは残骸ではなく、砂の山。
そして、ここにいるのがわずかふたり。たったふたりで石人形を全て倒し、このあたりのエルフを降伏させる。
「凄まじいな、たったふたりでここまでできるとは。」
エストレイシアは呟く。
「スティール、合流できたようだな。」
悠然と歩きながら、リュウヤが声をかける。
「はい、リュウヤ殿のおかげをもちまして。」
次いで、リュウヤはスティールの隣にいる、見慣れぬ生き物に跨っている人物をみる。
その視線に気づいたように、
「私はエストレイシア。デックアールヴにて"戦巫女"と呼ばれております。」
この女性が"戦巫女"か。納得する出で立ちだ。
「本来なら下馬せねばならぬところですが、戦場ゆえ容赦願いたい。」
凛とした声と態度。武人と言った方が正確かもしれない。
「かまわない。」
リュウヤの返答は短い。それよりも、
「反対側ではまだ戦闘が続いている。そちらを片付ける方が先決だ。」
まだ戦闘は終わっていないのだ。
「では、我々が先に行き片付けてまいりましょう。ご両人は、ゆっくりと来られるがよろしいでしょう。」
エストレイシアの自信たっぷりな様子を見て、リュウヤは頷く。
「わかりました。戦巫女殿に御武運を。」
その言葉を聞くと、エストレイシアは馬首をめぐらし、反対側に向けて軍を指揮して向かっていった。